堤防にて(3)
「殿下、あの術で本当に堤防が安定するのですか?」
帰りの道中、カリが訊ねてきた。そのための術ではないが、麒麟の加護を受けた者が現れれば、回り回って堤防は安定するのではないだろうか?確証は持てないが。
「きっとな。」
「何としてでも安定させてください。どうかお願い致します。」
カリはいつになく熱心に訴えてきた。
「分かっている。俺に任せろ。」
カリは唐突に馬を止めた。俺も一緒に止まる。
「どうした?」
「静かに!」
カリは木立をじっと見つめている。ただ事ではないと察した俺は、空中に水を出現させた。次の瞬間、何かが俺らの方に飛んできた。俺は水の盾でそれらを防いだ。カリはいつの間に刀を抜いていた。
「何者だ!?」
カリが怒鳴る。返答は来ない上に、姿も見せない。俺は応戦しようと水を出したところで、不意に眩暈がして膝を付いた。
「う…。」
「どうされました、殿下?」
「目が回る…。俺のことは気にするな。」
地面が回り続けている。視界に色とりどりの光が明滅している。吐きそうだ。とても戦える気がしない。せめて自衛しようと、俺は自分を水球で覆った。
敵は複数人いるようだ。しかも、見たところ五行師だろう。炎が宙に浮かんだり、刀が飛び交ったりしている。カリが一人で相手するには厳しい。
「玄武様!どうかお力を貸してください!」
『またしても毒を盛られたな。落ち着いて解毒せよ。』
俺は体内の血を操って、毒を浄化しようと試みた。吐き気に任せて嘔吐してしまえば、辛うじて行動できそうなくらいにはなった。まだ視界は極彩色だが。俺はたまらず目を閉じた。水を大量に飲み、周囲の状況に集中する。武器の音が響いているので、戦況は何となく分かる。カリが押されている。
「指示をください!」
『儂はそなたを通じてしか物事を感知し得ない。サン、そなたが指示を出すのじゃ。』
『分かりました。まずは辺りに水を撒いて火を消して!』
俺は言われた通り水をばら撒いた。術を使うと、眩暈が増す感覚があった。
『危ない!』
俺は咄嗟に盾を強化したが、何かに押し潰されるような圧迫感を覚えた。盾のおかげで潰されはしなかったが、身体をしたたかに打って息が苦しくなった。
『跳ね除けて!』
俺は外に向かって水を放出した。圧迫感はなくなった。ただ、頭がガンガンと痛む。
『右前に攻撃して。…もう少し右。そこ!』
俺は水を勢いよく飛ばした。ばたりと何かが倒れ込む音がした。こちらに向かう足音が二つ。
『左を向いて攻撃!』
どうやら敵らしい。俺は遠慮なく足音に攻撃した。またしても倒れる音がした。俺は疲れ果てたが、音のする方に手をかざした。笛の音がしたかと思うと、足音が遠ざかっていった。もう危機は去っただろう。俺は安心すると同時に気を失った。




