サンとの再会(5)
翌日、俺は重い足取りでナビの懐妊祝いの会に赴いた。
「王妃様、ご懐妊おめでとうございます。」
「ありがとう。イスル殿下も玄武様の加護を受けられたそうね。おめでとう。」
「身に余る光栄です。今後も精進致します。」
今日のナビは一段と美しかった。柔らかな金色に輝く髪は綺麗に結い上げられ、秋の日の空のように澄んだ瞳が煌めいている。しなやかな四肢を飾る着物には色とりどりの刺繍が施されている。それがごてごてと下品に見えないのは、本人の顔立ちがあまりに美しく、全く見劣りしないためである。
「あの、大変申し訳ないのですが、祝いの品を手配する時に手違いがありまして…。まだ用意できておらず…。後日お届けいたします。」
「あら、そんなことある?」
ナビは驚いたような口調だが、怒っているようには見えない。
「あり得ません!普通なら一月前には準備しておくものですわ。」
「まさか、王妃様を軽んじておられるのですか?」
五月蠅い連中だ。王妃に取り入ろうという魂胆が見え見えだが、俺だって国王の甥で玄武の加護を受けし者だぞ。よくもそんなに言えたものだ。
「…弁明の余地もございません。」
「祝いの席に水を差して、どうなさるおつもりですか?」
「そうですよ。会が台無しになってしまったではありませんか。」
周りがざわめくので、このままでは場が収まらない雰囲気になってしまった。
「そうねえ。祝う気持ちがあるなら示してもらいたいわね。」
ナビは悪戯っぽく微笑んでいる。最悪だ。俺は周囲からなじられながら、どうにかこの場を収める方法を考えた。
『お兄様、大丈夫?』
全くもって大丈夫ではない。俺はサンの言葉を聞いてハッと閃いた。
「分かりました。一曲王妃様のために歌います。」
「あら、面白いわね。聞かせてちょうだい。」
俺は深呼吸した。喉の調子を整え、サンが歌っていた子守唄を思い出す。
吾子の寝顔の愛しさよ
桃の花のごとき柔らかさ
すやすや安心して眠れ
玄海がすべて凍り付くとも
母の懐は暖かい
吾子の笑顔の可憐さよ
春の陽のごとき温かさ
ぐんぐん無邪気に育て
玄海の水が枯れ果てるとも
母の愛はなおも尽きるまじ
歌い終わると、ナビが拍手した。周りの人々も合わせて拍手する。
「お耳汚し失礼しました。」
「いえ、流石の美声だったわ。歌姫として名高いサンの兄君なだけはあるわね。」
「実はサンが練習していたのですが、お聞かせすることが叶いませんでしたので…。」
「そうね。残念だったわ。私も彼女の歌声を直接聞いたことはなかったから。彼女の使用人が歌姫と噂していたのを聞いただけで。」
そう。サンの歌は一流の芸人より美しく透明感があり、聞く者の心を打ったが、人前で披露されることはなかった。貴重な機会にサンの歌声を聞いた使用人や商人がその美声に聞き惚れて噂し、歌姫の異名が都中に広まるくらいには有名になっていた。サンはずっと人前で歌う機会を待っており、ナビの懐妊祝いは絶好の機会だったのだ。
「子の成長と母の愛を歌った素晴らしい歌をありがとう。この場に相応しい歌だったわ。違うかしら?」
反論する者はなかった。涙ぐんでいる者さえいる。サンの歌声と比べたら、俺の歌など酔っ払いのがなり声にも似た代物だが、一般的な歌うたいに肩を並べるくらいの実力はあると自負している。
「では、後日改めて私の所へ来てちょうだい。今度は祝いの品も忘れずにね。期待しているわ。」
「はい、王妃様。」




