表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【源平合戦】 平知盛から見た一ノ谷  作者: はる❀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/14

第六話 書状

 法皇様からの書状の内容は、大きく以下の三点。



一、和平交渉の為、二月八日に修理権大夫藤原親信を正式な使いとして参らせる。


一、藤原親信により源平双方の停戦が締結するまで、一切の戦闘行為を禁ずる。


一、源氏側も同様に伝えているため、平家側もこれに従うよう。




* * *




「和平に、応じるのですか」


 法皇様からの思いがけない書状。驚きと静かな怒りを隠せないままの知盛に、宗盛は重々しく口を開く。


「我らの戦の目的は、源氏を討ち滅ぼすことそのものではない。和平を締結できるのであれば、我ら平家一門も、より安全に京へと舞い戻れるやもしれぬであろう。我らとて、帝を危険に晒しとうはない。これを機に、柔軟に再起を図るのだ」


 その言葉の前に、知盛は暫し考え込む。源氏が院の御所へ参ったのが正月二十九日。この折には、平家を追討せよと仰せになられたであろうに、この短期間でそれを覆すことに、甚だ疑念を抱いていた。


「では……明日、七日の矢合わせも見合わせると?」


「書状には、八日に和平締結の使いを寄越すと書かれておる。それまでは、全軍待機じゃ」


「……承知」


 建礼門院も二位尼も、複雑な面持ちでその会話を聞いていた。知盛はこの書状に疑念を抱きつつも、全軍に法皇様の停戦要求と宗盛の決定の旨と共に、待機の指示を出す。

 時を同じくして、現状の確認と指揮のため生田森へと戻った。




 ◇




 ― 生田森・夕刻

 


 知盛が生田森の陣に再び来着した時には、既に夕刻となっていた。


 西に傾きながら強い光を放つ夕日を横目に、知盛は先の書状を反芻する。源氏側へも和平交渉を図っているとはいえ、締結するまでは気を抜くことはできない。時は既に六日……源氏が京を出てから日にちが経っている為、ここ一ノ谷を包囲しつつあってもおかしくはない。


「重要な話がある」


 知盛は生田森の陣内で先の停戦を求める書状の話を切り出すと、皆各々驚きの反応を見せた。和平に感嘆する者、誠なのかと訝しむ者、今後どうなるのかと先を慮る者……等、各人各様にざわめきだす。


「矢合わせは明日、七日の卯の刻(午前六時)という話ではあったが、先の書状が抑止力となり、少なくとも八日までは動くことはできぬ。だが戦支度だけは忘れずに待機せよ」


「はっ」


 そう下知を下しながらも、源氏側はどう出るのだろうという懸念を抱く。森の奥を見遣ると、遠火は日を追うごとに、確実に増えている。


「……」

 

 書状が、嘘だったら。源氏が、この要求を呑まなかったら。

 斯様なことをいくら考えたところで答えが出るわけもないが、源氏の焚く灯を見れば見るほどにうすら寒く、真偽のほどがわからない。


「父上。法皇様からの和平の書状は……誠なのでしょうか」


 評定が終わり、静かに尋ねるは知盛の息子、知章である。和平を、と言いながら、一向に増えつつある源氏軍の遠火に、少なからず疑問を抱いている様子である。


「誠じゃ。私も先ほど書状を閲覧したが、紛れもなく法皇様からのものであった。二位尼様もそれをご覧になられておる。それに――和平に応じるとの決断を下したのは兄上。それに従うべきであろう」


「しかし……源氏軍が和平を受け入れぬという可能性はないのでしょうか」


 知章の指摘に、知盛は静かに視線を向ける。


「それもありえよう。現に、源氏軍もこの森の向こうで今も待ち構えておる。……源氏も、此方の様子を窺っておるのかもしれぬな。万一我ら平家が和平に応じなかった場合、備えがなければ太刀打ちできまい」


「互いに、出方を待っているという所でしょうか」


「現状は。これまでにも、度々和平の話も出ていたことではあるのだ。この書状が届いた以上、和平交渉の使いと言う者が来られるまでは、此方も源氏軍に手を出せぬ。……だが」


「……」


「向こうが仕掛けてきたとなれば、話が別。その時は和平交渉は決裂ということ。正当防衛として、源氏を討つ」


「……はっ」


「和平交渉中であるとはいえ、気を抜いてはならぬ。だが戦に備え体を休めることも必要だ。その為にも、すぐに戦に出られるよう支度だけは怠らぬよう」


「はっ!」


 緊張感を顕わにする知章を見ながら、知盛は書状の内容を今一度反芻する。

 和平交渉の話を出してからというもの、全体的にやや気のゆるみが見えるようでもあり――あの老獪な後白河法皇の、勝ち誇ったような顔が頭を過ぎるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この緊張感の中で、和平への書状が届いたときの揺れ方が非常にお上手だなと感じました。 個人的に印象的だったのは、知章さんが「本当に誠なのか」と父に問いかける場面です。 知盛さんがそれに応えながらも、ど…
第六話 書状 を読ませて頂きました。 後白河法皇 天下の大天狗 策略があり、右往左往しながら、生き残る、そう、ここには含まれている 今までの所業、そして、法皇への懸念、 「どことなく書状に振り回されて…
2025/07/13 23:32 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ