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第七話 [E]ぼくたちのゆうざい! - Cパート

 魔女アッカと魔女ブーを殺し、魔女バッカを逃がした蜷川つるぎと菜花湊は、どちらともなく監獄の話をした。それから再犯防止策の話になった。


 心から反省をしているかどうかなんてわからない、というか心から反省をしたはずなのにうっかり戻ってしまうことはあるあるではないか、喉元過ぎれば熱さを忘れるというし、熱さのあまり正常な判断ができなくなることだってある、でもだからって軽率に死刑にしてしまうのはわたしはよくないと思う、というようなやりとりをする。


「別にパンゲア界から死刑を廃止するつもりはないよ。戒律を見てどんな罰を与えるかは民に委ねる方針であるべきだと思うから。

 でも、女神として再犯防止策をサポートするとき、理由があれば誰かの命を奪ってもいい、悪人に死刑を科すのは善行、という倫理観に対しては否定ベースでやっていきたい。殺さないとどうにもできない状況はあるかもしれないけれど、それは悪い手段しか選べなかったってだけ。

 命を奪うことは自由を全部奪うことだから、それがどれだけいい結果を導いても、いいことしたなんて思っちゃいけないって思う。それは戦争の肯定にも繋がりうる。そのとっかかりになってしまう。飛躍かもしれないけど、でも人間って案外するっと飛べちゃうものだから。気をつけないと。わたしも」


 つるぎはそういいながら、自分の手を見つめる。女神キャルゼシアの、魔女アッカとブーの、ソーダクラッカーの命を奪った手。そして、グル、ビッグデカの命を奪った湊の手も見つめる。


「湊くんは、そのあたり、どう思う?」

「僕は、そのおかげでつるぎと一緒に過ごしていられるなら、大正解だって思うよ」

「……わたしはね、もう、そうは思えないなあ。いま思うとすごく浮かれてたし、なんにも考えられてなかったし。無自覚に罪悪感から逃げようとしていたのかもしれないけれど」

 だとしたら――つるぎのなかでは、もう愛や幸福では逃れられないほどに罪悪感が膨れ上がってしまっているということなのではないかと、湊は思う。


「もしかしたら、いまも逃げているのかも。死刑を肯定しちゃいけないって思うのも、だからわたしと湊くんを殺さないでくださいっていう、無自覚な願望なのかも。もしそうなら、わたしって――」


「自分の内心に対して邪推なんてしないほうがいいよ。疑ってるうちにそんな気がしてきちゃうものだし、そんな気がしてきちゃったら、否定なんてできなくて、自分のなかでそういうことになっちゃうんだから」


「でも、……でも」

「まあ、しないほうがよくてもしちゃうよね。とりあえず閑話休題といこうか」湊は軌道修正を図る。強引かもしれないけれど、とにかく思考を逸らそう、と思った。


「再犯防止策の話だよね。現実的に平和的に行くなら、やっぱり再犯を未遂にするための監視とか。ほら、前科者にチップを埋め込むとか」

「GPSをやるための電波整備がないからなあ」

「異世界だからねえ。それからえっと、もう人生どうでもいいってならないようにサポートするとか」


 つるぎは、湊から聞いた、男性受刑者の言葉を思い出す。

「『自分の価値を守れて理想の終わり方を目指せて他人の幸せを優先できるのは、世界に愛されて人生を選べて未来を信じられる余裕のあるやつらだけだ』……だっけ。

 じゃあ逆にいえば、世界からの愛と選択肢を増やせば、自暴自棄にならずにいられる人が、ちょっとは出てくるかもしれないよね」

「うん。世界からの愛って具体的にはなんだろう」


「しんどくない、自分に生きる価値がある、って思える居場所を用意することかなあ。おつとめを終えて更生した先に幸せになれるよう、就労支援とかで、道を舗装する感じ? 下界の民のご理解とご協力が必要不可欠だね。

 ……女神の立場を使えば色んなお店や会社に協力してもらうよう頼むこともできるかもしれないけれど、でも、相当ストレスかけそうだ」

「ストレス? 犯罪者と一緒に仕事をするのが怖いってこと?」


「それもそうだし、そもそも女神をトップとする天界、女神教会がインフラを担って全人類を支えている世界だからさ。その女神様の教えに自己都合で背くのってすごい恩知らずだから、なんだこいつって、嫌われまくるわけね。みんなの認識としてそうっぽいよ、この世界の本とか色々読んでたらナチュラルにそんな感じだった」

「ああ……たしかに故人館で読んだ日記もそういう世界観が多かったかも」


「だから忌避感を真っ向から避難するようなやりかたはよくない。受容を勧めるのはゆっくりにしなきゃいけない。最悪の場合、女神の戒律を女神自身が軽んじていると思われて、じゃあこっちも軽んじていいやってなるかも」


「なるほどね。難しいなあ。そうだ、再犯のもととなる衝動性とか精神構造を、健全な投薬で改善するのもいいんじゃない?」

「それがねえ湊くん、この世界、あんまり薬学が発達してないんだよ。なぜなら天使室に持ち込めばだいたいの怪我と病気が治るから、行くまでもない傷を治す軟膏の研究と、教会をパンクさせないための衛生観念の研究だけしていればいい。そして回復魔法は精神をどうこうするものではない」


「精神……もしもソーダクラッカーの魔法を天使みんなが使えるようにできたら」

「あ、それいいかも。でも安定状態で安定させようってなると、かけた人がそのまま遠隔で機嫌の魔法をかけ続ける必要がありそうなんだよね。現状でも忙しそうなのに天使寮で休む時間が無くなると思うと完全にブラック仕事になっちゃう」


「カウンセリングは?」

「それはできるかも。やるとしたら、地球界からそれ用の教材を持ってきて……教会の天使室を使ったらその教会に被害者がたまたまいたとき可哀想だし、天使室を断罪所に……?」


 ぶつぶつと喋っているうちに、ふたりは地底遺跡の前に到着していた。

「まあ、すぐに答えの出る問題じゃない。研修が終わってから、また考えるよ」

「うん。とりあえずいまは、巨人退治だ」

「退治しない退治しない。もう誰も殺さない」つるぎはそういって、さっきより落ち着いた気分で、湊の手を握り返した。

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