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第六話 魔女ブー - アバンタイトル

「あれ、つるぎ、このピアスは着けないの? 三位賞の」

「いやあ、ピアスで中古はないかなあって。教会でお清めとかしてもらうことはできるし、病気とかなっても回復魔法があるから最悪いいんだけど、それはそうと生理的にね」

「そっか。まあ鈴のピアスってうるさそうだしね」

「デザインとして可愛いとは思うけどねえ」つるぎはそういいながら、服の胸ポケットに鈴のピアスをしまった。しん、と鳴った。


 ふたりは今日も絨毯で空を駆けていた。アンティークのバンスクリップで留められた髪は、風を受けても美しい形を保っていた。


「現代のグザイで買ったこのペンダントも百年経てばアンティークになるのかな」

 陽の光を受けて燃える赤色の宝石と、つるぎの首にかかっている青色の宝石を見ながら、湊はいった。

「アンティークどころか伝説になっちゃうかもね。女神のペンダント、勇者のペンダント」

「あはは。すごいバフ効果ありそう」


 やがて目的地に着いて、ふたりは絨毯から降り立った。

 覚えやすいところに立てかけておいて、つるぎと湊は、木を見た。森を見た。


 ウーアハ王国領とリリシシア王国領の境にある、とある森林地帯。レェテ村を最奥に秘めるそこは、一度立ち入れば帰っては来れない、迷いの森として畏れられており、実際に足を踏み入れた者のなかで、無事の帰還を果たした者はカンタレラの父であるボルハくらいしかいないという、恐るべき魔境――。


「だったんだけど、いまはそうでもないんだって」

 迷いの森を前に、つるぎはいった。

「何か、解決されたの? 仕組みみたいなものが」と湊は訊く。


「さあ。どうして迷いの森が迷いの森でなくなったのか、まあ迷う人は迷うけど普通に帰ってこれる人のほうが多い森になったのか、具体的な原因は不明なんだけれどね」

「うん」


「迷いの森に大切な人を奪われた人たちがついに怒って、たしか先月くらいかな、放火したらしいよ。きっと、こんな森がなければもう誰も消えないって思ったんじゃないかな」


「でも、いまもこうして茂ってるけど。ボヤで終わったの?」

「いや、全焼したって記録。森、ぜんぶ燃えたらしいよ」


 天界の天使たちは様々な課に分かれて地上や民のために働いている。そしてそのなかの環境課は、多大なる自然破壊被害の修復も請け負っている――そのため、一度は焼け野原となった森林地帯も、天使の植物魔法のおかげで回復することができたのである。


「で、それ以降は、誰がいつこの森に入っても、本人が方向音痴だったり足を失ったりしない限りは、すんなり帰ってこられる普通の森になったんだよ」

「……じゃあ、単なる森の構造のせいってわけじゃなかったのかな。迷う理由」

「さあ、それは……民の間では、何か懲らしめたみたいな認識らしいけど」

 森の精霊でもいたんだろうか、なんていいながら、つるぎと湊は森のなかに足を踏み入れた。


 実際に会いに行くのは精霊ではなく巨人である。


 現代、北リリシシア東地下遺跡として開放されている場所は、百年前は迷いの森があった地点となっている。正史ではライドが巨人を洗脳して連れ出したが、ライドが洗脳能力を得ていないこの異世界では、巨人は聖竜とともに地下で暮らしているはずだった。


 全神王によって生み出された、女神を超える力を持つ聖竜ヘップバーン。

 それを唯一起こすことのできる巨人という存在。


 女神になるのであれば、それがどのような存在であるのか、きちんと見ておくのは必要なことだと踏んで、つるぎと湊は迷いの森に赴いたのだった――と、そこで。


「あれ、つるぎ。あそこで人が倒れてる」

「本当だ。大丈夫ですか!」

 駆け出すつるぎの後ろを湊は追う。うつぶせに倒れていた何者かは、ゆっくりと頭を上げた。ぼさぼさの髪と、ぼろぼろの服。幼い容姿と相まって、なんだか憐れな姿だった。


「えーん。えーん」

 と、彼女は鳴いた――泣いた。


「ないの。どこにも、ないの。わすれちゃったの」

「忘れものですか? 何がないんですか?」

「わからない。なにがないのか、わすれちゃった。ぼくの、だいじなの。なんだったのか、えーん。えーん。わすれちゃった。えーん」

「……何を失ったのかすら忘れてしまったなんて」

「ひょっとしたら」湊はいう。「忘却の魔女のせいなのかもしれない。ライドさんは巨人と忘却の魔女を同時期に洗脳したというし、この近くにいるのかも」

「だとしたら、とりあえず安全なところに避難させないと」

 つるぎは屈んで、手を差し伸べた。


「立てますか? ほら、この手を取って」


 湊はそのとき気づいた。思い出した。

 ライドの手記に書かれていた、魔女ブーの特徴。

 目の前のぼろぼろの少女が、そのまま――。


「駄目だ、つるぎ――」

 けれど、またしても、だった。


 またしても、湊は間に合わず、つるぎと少女の接触を許してしまった。


 忘却の魔女ブーの魔法が――発動する。



「……ここはどこ? いまはなに? わたしは、あなたは、だれ?」

 静かな森に、蜷川つるぎの声だけがあった。


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