表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/136

第五話 眠れる聖竜、あるいはバロンデッセの心臓 - Cパート

《な、に、を、なさっているのですか!》

 翌朝、百年前の北リリシシア、じゃなくてアハランド。

 獄中で一晩を明かしたつるぎと湊は、ひとまず無事に百年前に転送されていることに安心した――むろん、聖剣『イニミ・ニ・マニモ』も。


 そして聖剣に括りつけておいた荷物も――見覚えのない袋が括りつけてあって、パトスがお願いを聞いてくれたのだとふたりは理解した。


「パトスさんありがとうございます、突然のお願いを聞いてもらって」

《礼には及びません、お呼びではありません、ご説明のほどよろしくお願いいたします》

「説明といいますと」


《なぜ投獄されているのですか、当然のように。破戒を肯定するような、あるいは戒律を非難するような主張を、不特定多数の前で大っぴらになさったならば、罪に問われるというご認識はございませんでしたか?》


「いやまあ、普通にありましたけれど。それを見越しての偽名とか変装ですし」

 囚人服から一般的な服装に着替えたつるぎは真顔でいう。

「思ったより早かったけれどね。どの段階で通報したんだろう」

 同じく着替えた湊は首を傾げた。


《罪と認識なさっているのに、何故、そのような愚行に出られたのですか》

「それはまあ、パトスさんに集めてもらったものが目的で……あれ?」

 つるぎは袋を開くと、予想外のアイテムの出現に戸惑った――アンティークショップ『ボンジャーズ』のロゴが刻印された小箱である。


「これ三位賞のやつだよね」と湊。「え、僕ら三位になったんですか?」

《そんなわけがないでしょう》パトスはいう。《不本意ながら、わたくしをあなたがたの知人ではないかと目した、ふたり組がいらっしゃいました。その方が、自分の三位賞の景品をどうかもらってほしいと仰っていたので、ついでに入れただけです》

「理由ってわかりますか?」

《なんでも、劇の内容に共感を覚えたとか、これをやる勇気がどうとか、仰ってましたが》

「そうですか」つるぎは笑む。「そういう層も、いるんですね」


 それは大切にいただくとして、とつるぎは小箱の下の紙束を取り出した。


 つるぎと湊のアピールに対しての、ベストカップルコンテストの観客たちによる感想である。パトスには、それを回収して宿屋に置いてある聖剣に括りつけておくように頼んでおいたのだった。


 惨憺たる評価だった。

 観客たちは倫理観に反する主張と結末に対する戸惑い、女神の戒律への反抗心への怒り、そのような劇を出すようなつるぎと湊への嘲罵を書き連ねていた。こんなものを見たくてカップルコンテストを見に来たわけじゃない、と本心から書いている者もいた。


《どうですか。これが、あなたがたのなさったことです。多くの人をがっかりさせたのですよ。ショッキングでしょう? これに懲りれば、地球界の価値観が受け入れられるなどと……》


「いえ、全然これは予想通りですね。だろうなって感じで。地球界でもまだ議論の続いている価値観なので」つるぎはけろっとした顔でいう。

「むしろ上演中とか静かに聞いててくれたのびっくりしたよね。てっきり劇が終わるとともに空き缶とか投げられると思ってたから。品のいい街だなって思った」と湊は笑った。


《どういうことですか。まさか嫌がらせ行為を?》

「わたしは女神になったら多様な愛を解禁し、愛の自由を拡げていくつもりです」きっぱりとつるぎはいう。「これはそのバロンデッセ――観測気球のつもりだったんですよ」


「つまりつるぎは、実際いまの市井にどれだけ受け入れてもらえる価値観なのだろうか、ということを試したかったんです」湊が引き継ぐ。「とくにカップルコンテストの観客であるならば、人と人の愛の貴さみたいなものもわかってる層なのではないかと踏んで。これは研修が終わって女神になってからだと不可能なことです。だからつるぎは、いまやらなきゃって思った。僕はそれに協力した」


「劇の内容やメッセージを受け取ったうえで嫌がったり困ったりしている意見がちらほらあって安心しました」つるぎは感想を読みながら笑う。「劇として見づらいとか何いってるのか聞こえないとか、内容と無関係の部分で脱落されたら困るので、百年前のグザイでプロの方に稽古をつけてもらったんです」


《失敗することを前提として――そのような真似をしたというのですか》

「はい。失敗経験を踏まえて、民がどれくらい拒絶反応を示すのか知ったうえで、女神になったあと、どれくらいのペースや角度で推し進めていくべきか考える材料にしようと思いました。ですから、手痛いものでも、反応をもらえたならある意味では成功ですね」

 つるぎは大事そうに感想に目を通しながらいった。


 感想を覗き込んだ湊がいう。

「まあ、ヘテロカップルを楽しみに来た人に同性カップルをテーマにした劇を見せたことや、堂々と戒律に触れる行為をしたことから察せられる、反社会性に不快感を抱いてしまった人も多いみたいだから……今回の反応だけで判断するのも難しいけれど」

「そうだね。でも時間の許す限りならこれしかなかったからなあ」


《……今日はよいとして、明日、また現代に戻った際にはどうなさるのですか》

「とりあえず脱獄ですかね。このままだと五年くらい懲役なので。穏便にやります、なるべく。そこを考えつつ、今日は今日のやりたいことをやります」

《次は何をしでかしたいのですか》

「迷いの森に行きます。巨人に会うために」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ