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第四話 変態 - Cパート


「姉ちゃん、ま、まだ飲んでたの? もう、今日は終わりって、いったよ、ね、ね、ね? ていうか、酒を飲みたい欲、うちの魔法でぐっと冷ましたはずだよ、ね、ね、ね?」

「やらなあ、よくなんて、へんしつさせれば、いいよ」

「え、別の欲望を変化の魔法で飲酒欲に変質させたの!? そんな無法やっちゃ駄目だよね、ね、ね!?」

「むほうこそが、まほう」

「ひらがなだからキマってない!」


「アッカにゃん、久しぶりにゃ」猫娘は姉妹の会話に割って入る。「覚えてるにゃ? 洞窟で会った、アッカにゃんが人間にした、猫にゃ」


「んあ? あー……わっかんない。あたしそんなようなことたまにしてるし。でもなに? よーけんは? またたびなら、ないよ」

「にゃれは、もう人間でいる気はないにゃ。猫に戻りたいから魔法を解いてほしいにゃ」

「ほえほえ。まあよいよ。ちょちょいのちょい」

 アッカが猫娘の身体に触れると、猫娘はみるみるうちに姿を変えていった。

 あっという間に、猫娘は、ただの猫の姿になった。


「じゃーつづきのむよ、バッカ……なんかふたりいるね、じゃあバッカスだ。のもうね」

「ひとりだよ! うちもそろそろいらないよ! もう姉ちゃん、の、呑まないほうがいいよ! みんなもそう思うよ、ね、ね、ね?」

「適量が大切ですよ、アッカちゃん」

 とつるぎがいうと、


「あ! おもいだした。あれだ、アハランドのほうの、ねこでしょ。いたいた。へえ、じゃあつるぎちゃんアハランドのほういったんだ。ねえ、ソーダクラッカーにはあった? げんきだった?」

 と、アッカはいった。


 つるぎの表情が強張り、返答に窮した――のを察して、湊がいう。

「ソーダクラッカー? ってなんですか? そういうお菓子ですか?」


「や、あたしらのいもうと……おとうと? だよ。つるぎちゃんたちはあってないかあ。あったらよろしくねえ。あのこ、むりしちゃうこだから。バッカがあったときはどうだったんだっけ」

「うちが会ったときは、割と前だけど、生きるのしんどそうだった。でも、話聞いてあげたら、ちょっと明るくなってた、かな。あんまり、うちらにべったりはしないけど、ただ甘え下手なのかな、抱え込みやすい子だから、心配だよね、ね、ね」

「つるぎちゃん、もしソーダクラッカーにあったら、なんかつらそうだったら、よかったら、いっしょにおさけとかのんであげて。いいこだから」

「あ、あと。うちも姉ちゃんもしばらくこの塔で暮らしてるから、いつでも遊びに来てって、伝えておいてね、ね、ね」

「……はい」

 ありがとう、とアッカとバッカがいった。仲睦まじい姉妹が、扉の向こうに帰った。


「どうしたにゃ、つるぎにゃんも湊にゃんも複雑そうな顔にゃ」

「いえ、なんでも……あれ? 魔法解けたんじゃないんですか?」

 猫の姿のままであったが――猫は、人間の言葉を出していた。


「ん? たしかに不思議にゃ」

「もしかして」湊がいう。「酔ってたから魔法を解除しきれなかったのかな。喉とかだけ、人間のままなんじゃない?」

「そりゃ困ったにゃ。同じように鳴けないんじゃ猫社会でマイノリティとして排斥に怯えながら生きていくことになるにゃ」

「猫って社会やマイノリティや排斥という概念を知ってるんだ……」


「じゃあ飼い猫になるのはどうですか?」とつるぎ。

「それもいいかもにゃあ」

「行先探し手伝いますよ。どんな人に飼われたいとかありますか?」

「魚をいっぱい食べたいにゃ」猫はいった。「つるぎにゃんが洞窟で食わせてくれたみたいな、旨い魚を食べて過ごしたいにゃ」

「魚ですね。じゃあ、近くの漁村に行ってみましょうか」



 漁村ガボは、少し前に人魚が(表向きは)いなくなったことにより漁を再開していた。畑で育てられている麺と芋に加えて、新鮮な魚が食卓に並び始めた。村人たちはにっこり笑顔で暮らしていた。


 その村人のひとり、十三歳の少女フラウは、懇意にしている村のおじさんから魚をもらって、これまたにっこりと嬉しそうに家に帰った。ドアを開けると、元人魚の恋人・マメドンがいつも通り、手すりを掴みながらよたよたと出迎えてきた――そしてマメドンはいった。


「女神ニナガワツルギー来てる」

「んわっ!? 女神さんが! こら一大事だべ、もてなしばせんといけんね!」

「いえいえおかまいなく」つるぎはなかから声をかける。「ちょっとお訪ねたいことがあるだけですから」

「女神さん、お久しぶりだす」

「お久しぶりです。あれから村の様子はどうですか? 漁は再開されましたか」

「そらもう、昨夜もぎょうさん取ってくんなはりましたわ。おら、もらって帰ってきただよ」

「魚にゃ!」と猫がはしゃいだ。

「んわーっ!? ね、猫が口きいとる! おったまげただ!」


「はい、しゃべる猫です。喋るものですから野良よりも飼い猫でいたほうがいじめられずに済みそうということで、いい飼い主を探していて。魚をいっぱい食べられるようなところが希望みたいです」


「そったら……おめさ、ネズミ、とっちめられっか?」

「楽勝にゃ」


「じゃ、家っつうか、船で暮らすんはどうだべ?

 なげえこと漁をせんかったから、船で悪さするネズミばしばく猫の用意が足んねえそうだべ。みんなのために働けばよ、みんな魚くらい喜んで分けてくれっとよ」


「なるほどにゃー」

「でも漁をしていない間はどうするんですか?」とつるぎ。

「ほしたら、おらんちで世話してもええべ」とフラウ。「マメドンだけでいるとき、マメドンを護ってくれたら助かるさけ」

「それ助かる」とマメドン。「ひとりのときお客さんきたら出てくれると嬉しい」

「じゃ、決まりだにゃ」猫はいう。「そうと決まったらお腹すいたにゃ、魚くれにゃ」

「そしたらわたしと湊くんで捌きますよ。おふたりはお喋りでもして仲を深めててください」


 てきぱきと魚を捌く湊の手伝いをするつるぎ。そんな台所を他所に、フラウとマメドンは猫に話しかける。


「ていうか名前なんだべ」

「とくにないにゃ」

「じゃあおらが決めてええか? んでも、オスメスなんだべ? ちょっと見るぞ。……ほえ、おめえオスなんだなー。あかいタマタマだべ。ほんじゃ猫のオスだからネコスにすんべ」


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