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第三話 魔女ソーダクラッカー - アバンタイトル

「いっけなーい失格失格! わたし、蜷川つるぎ享年二十歳! 勇者になった彼氏の湊くんをいじめる女神を殺してわたしが新しい女神になったんだけど、さっそく戒律を変えようとしたら大神官のパトスさんに叱られて、視野を広げるための研修に行くことになっちゃった! しかも全神王から女神の力を制限されて大変!

 とりあえず下界に降りたら現代のリリシシア城下町に百年前の大商人ライドの洗脳ハーレムのせいで親を亡くした人がいて、可哀想だし、百年前のリリシシアでライドさんに洗脳能力を与えないことにしたら、ライドの洗脳で抑えられるはずだった魔女の四姉妹が自由になっちゃったみたい! でも近くにあった魔女アッカちゃんの塔に行って友達になって世界を滅ぼしたり人を殺したりしないようにお願いしたら『妹に誘われたらやるけどそれ以外の場合はやらない』って約束してくれたの!

 それから漁村ガボに行ったら優しくて絵の上手いフラウさんと先々代女神のデュクシデュクシーが生み出した人魚のマメドンの関係を知って、マメドンを殺さずに人間にしたうえでフラウとマメドンを不死のカップルにした! マメドンは漁村ガボの人の脅威だったから海を荒らす人魚の力を奪うことができてよかった! その次は百年前のダリアンヌで現代じゃ戦争で滅んでるんだよなあとか思いながら湊くんとデートした! 翌日はジンコゥで故人館を観光して他人の日記や手紙を読み漁ったり知らない人の似顔絵を眺めたりした! 百年前のジンコゥではアパシィさんっていうお金持ちの家に働きに行ったんだけど、その家の娘のミリィさんが自殺しようとしてたからわたしは止めた! ミリィさんはこの家から逃げたほうがいいって思ったからわたしは一回現代にミリィさんを連れて行ってグザイの町で百年前に戻って、人の住んでいるところから広い川で隔絶された教会に預けたの! そのあとポールトルの町で身体を売らされていたヌルちゃんと犬と猫をまた同じ教会に預けちゃった! 教会で元々暮らしてたマーキュリーさんが優しくてよかった、約束したお礼は能力の制限が解けたら絶対に届けに行く! ポールトルとグザイの問題はわたしがお金を積んであとは任せた!

 学園都市ジャスタウェイの断罪学園『スクロール』で事件を解決した夜には魔女のバッカが湊くんを襲って、かけた魔法を解くか死ぬか選ばせようとしたら魔女アッカちゃんを呼ばれちゃった! でもなんだかんだあって魔法は解いてもらえてよかった! 次の日にはバレッタの町で祝祭デートした、チョコレートもお花も素敵だった!

 そしてリリシシア王国領を出てウーアハ王国領のアハランドに入ってみたらライドさんがいてわたしが女神なことがちょっと広まっちゃった! 戦争で負けたら死ぬって焦った三人がわたしを騙してお金をいっぱいもらおうとしたんだけど、そのうちのふたりが強引な手段に出ようとしたら湊くんがわたしを助けるために殺しちゃった! とにかく戦争が悪だなって思ったわたしは開戦前に停めるための準備として現代で調査をしてたんだけど、そしたら魔女ソーダクラッカーがダリアンヌの芸人として裏で関わっている可能性が浮上したの!

 それで百年前のダリアンヌに行ったらソーダクラッカーは引っ越してた! 似顔絵をもらって、アハランドにトンボ帰りしようとしたら似顔絵そのままの人が高台にある家で日光浴しててびっくり! わたし一体これからどうなっちゃうの~!?」

「いやそんなに遡る必要あった?」


 ウーアハ王国領内の高台だった。

 そこの一軒家の前に、つるぎと湊は立っていた。

 椅子に座してふたりを見据えるは、魔女ソーダクラッカーである――間には十歩ほどのディスタンスがあった。


「……なんだかわからないけれど」

 と。

 ソーダクラッカーは口を開いた――喉仏のある、男性の声だった。


「ダリアンヌでファンになってくれた方かな? 残念だけれど、俺はしばらく芸人活動を休止することにしたんだ。はっきりいってネタ切れでね。偶然巡り合えた奇跡には乾杯といきたいところだけれど、ファンの人とプライベートで交流をするつもりはないから、申し訳がないけれど、どうか帰ってほしい」

 莞爾として、ソーダクラッカーはいった。

 高い背と広い肩幅、どこか硬質な輪郭を前に、つるぎは、


(あれ、パトスさんからは魔女の四姉妹と聞いていたから、全員女性なのかと思っていたけれど――シス女性ではないのかな? いや、わからないか)

 などと思いながら、

「いえいえ、わたしは個人としての――魔女アッカを姉に持つ、魔女ソーダクラッカーさんにお会いしたくて参りました」

 といった。こっちの世界でも、魔女という呼称に性別が関係ないことを祈りながら。


「どうか帰ってほしい」ソーダクラッカーは笑顔で椅子から立ち上がり、手を差し出しながら近づく。「どうしても満足ができないなら、握手くらいはしてあげるから、ほら」

 しかしその手は見えない壁に阻まれた――つるぎの魔法のバリアである。


「……何者だい、君ら。もしかして天使? 空を飛び、見えない壁を出すなんて」

「わたしは女神ですよ」とつるぎはいった。「修行中の新米ですが」

「女神」ソーダクラッカーは目を丸くした。それから、にやにやとした笑みを浮かべた。「それはそれは――我輩ごときのために女神が出張るとは驚きだぜ。なんの用もないだろ」


「ネタは割れていますよ、ソーダクラッカーさん。あなたに触れられた人は……発狂してしまうんでしょう? あなたはそういう魔女なんですよね。その魔法でリリシシア王とウーアハ王の精神状態を異常にした」


「発狂って。そんな物騒な代物じゃあないよ、我輩の魔法は――ただ機嫌を操るだけだ」

 魔女ソーダクラッカーは、そういって――にやにやと、下品な笑みを浮かべた。


「そう、我輩は機嫌の魔女ソーダクラッカー。

 たまたま機嫌が悪かっただけのことで人間はすべてを仕損じるんだ。ご機嫌な話だよな」


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