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第十五話 祝祭にて - Cパート

 バレッタの祝祭日を終えたふたりは過去世界のバレッタに行って学校施設を見て回った。高等専門学校である断罪学園とはまた違う、広範な初等教育や給食制度、そして子供たちの苦悩や教員の姿勢に触れ、ときに少し手出しをしたり口出しをしたりしながら過ごした。

 そうしてまた現代に戻ってきた。祝祭日のあとのバレッタは相対的に静かに感じられたが、甘い香りと幸せの残滓が感じられた。

 つるぎと湊は手を繋いで、花屋に寄った。

 花を買って、なんとなくキスをして、バレッタを出た。


 パトスが待機していた。つるぎと湊を見ると、天翔ける白き巨大カラスのキュイドを呼び寄せた。促されるままカラスの背に乗ると、キュイドは上空に舞い上がった。バレッタの町が、うんと小さく見えた。


「次はどちらに向かうんですか?」とつるぎは訊く。

「北リリシシアに向かいます。百年前ですと、ウーアハ王国領の、アハランドと呼ばれる広大な城下町があった場所でございます」

「ウーアハ王国領……だったんですか」


「戦争に勝ち、ウーアハ王国を滅ぼしたリリシシア王国は、アハランドの地を北リリシシアに改名しました。ですから、北リリシシアで寝て起きたら、アハランドというわけですね。当然のことながら、くれぐれも、百年前のアハランドを北リリシシアとは呼ばないことです」

 遠方に、背の高い木製の塔が見えた。それは百年前のアハランドの象徴であった巨木を素材に作られた、リシア塔と呼ばれる北リリシシアのシンボルであり、リリシシア王国の紋章が刻まれている。


 つるぎは北リリシシアの、ウーアハ王国領の歴史と終焉に想いを馳せる。かつて家屋ひとつひとつで暮らしていた、意志や夢を持つひとりひとりが殺されたということを意識する。そして殺されただけではなく、兵としてリリシシア側の人間を殺し、ダリアンヌを滅ぼしたという事実についても考える。

 殺人や破壊を禁ずる戒律が育んだ倫理観は、拒否をしなかったわけがない、とつるぎは思う。拒むことも否むことも許されず、殺させられたのだと想像する。死ねばもちろん、勝って生きても、一生こびりつくのだということは、ジンコゥの故人館にあった手記で読んだ。


(どれだけの人の未来が歪んだんだろう。大切な人を喪ったり、望まない人生を背負うことになったり、目を背けたいような悲惨な行いを手伝うことしかできなかったりした人たちは、どんなふうに死んだんだろう)


 死んで奪われた未来、殺させられて歪められた未来――ということを考えていると、ふと、つるぎは自分の手が恐ろしくなった。女神キャルゼシアの命を奪って、未来を奪ってしまったそのときの感触は、実のところ、つるぎの手にもこびりついていた。そしてそれは、強要ではなく、能動で行われたのだった。


 恋人と再会できた幸福感が、半年の見舞いと死別の絶望、つるぎ自身の死亡という現実に弱っていた心をハイにさせてきたけれど――その麻酔にも慣れてきたつるぎは、研修旅行のなかで触れてきたキャルゼシアの功績と民の抱く愛情のことや、ミリィのように人生を暴力的に歪められた人間と接したことも相まって、感じる罪の重さはじわじわと増してきていた。


(……それでも、湊くんが生きているなら、湊くんが傷つかずにいられるならよかった、って気持ちは本当。わたしはもう誰も殺したくないけど、湊くんには誰も殺さないまま幸せになってほしいけれど)


 つるぎは祈るような気持ちで、隣の湊の手を握った。ひょっとすると無意識に、これから先に待ち受ける試練を予期し、勇気を求めていたのかもしれなかった。

 湊は優しく握り返して、それからつるぎの頬に、そっとキスをした。

「なあに」

「わかるでしょ、愛してるよってこと」

「うん。わたしも愛してるよ、湊くん」


 いっそ誇らしげに笑う蜷川つるぎを、菜花湊は真っすぐに見つめていた。

 女神として世界と向き合う彼女を、この愛で支えたいと願いながら。

 そして、何が終わっても終わらぬ愛が在り続けることを、祈りながら。


(第二章完)

次章予告――。


 百年前のウーアハ王国領に足を踏み入れた蜷川つるぎと菜花湊。

 ふたりを待ち受けるのは魔女ソーダクラッカーと魔女ブー、猫娘、巨人娘、フェニックス、予想だにしていなかった再会、宝が眠ると噂のダンジョン、そして――ひとりの少女の胸中に隠されていた、とある悲劇だった。


 幸福も不幸も、喜劇も悲劇も、勝利も窮地も、でたらめに雪崩れ込む研修旅行の果てに――つるぎと湊は、ひとつの真実の尻尾を掴むことになる。


 第三章『雪耐えて梅花麗し』

 番外編をひとつ挟んで、始動。

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