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第十四話 魔女バッカ - Cパート

「パトス様、近頃働き詰めですが、大丈夫ですか?」

 天界。フル稼働の大神官パトスに天使のひとりが声をかける。

「お気遣いいただきありがとうございます。ですがご心配には及びません、ピンピンしております」

「しかし……少し休まれたほうが」

「本当に大丈夫ですよ。元気いっぱいですから、不安になる必要はございません」

 パトスは微笑んで会釈すると、また書類を抱えて天界の各課に向かった。


 新人天使・蜷川つるぎの起こした女神扼殺事件以降、天界はまだまだ事件以前と同様の状況にはなっていなかった。この天使も所属する課のなかではそこそこの立場にいるため、いくつかの考えるべきことに振り回されながら日々に忙殺されている。


(あの件がどうなるか、まだわからないのが……何より面倒だ)

 それがどのような決着を迎えるかによって、天界の先行きは確実に左右される。

 さっさと決まってほしいのに、と天使はひとり肩を落としながら、自分の課の席に戻った。



「うむ、パトスか」

 五メートルはありそうな、恰幅のよい老爺。

 各異世界を治める女神たちのさらに上に君臨する全ての神の王、全神王が玉座に腰掛け、パンゲア天界の大神官パトスを見下ろした。

「して、研修の経過はどうだ。サボタージュの様子はあったのかぞい?」

「いいえ――キャルゼシア様の足跡に合わせて各地に足を踏み入れております。

 ただ、キャルゼシア様がご対応された問題に関し、蜷川つるぎと菜花湊は、独自性の高い解決を行う場面が多々あります」

「たとえばどんな解決だぞい?」

「大商人ライドに洗脳能力を授けず、あくまでも真っ当な更生を促しておりました。

 その結果として魔女の四姉妹がライドの洗脳を受けることのない世界となりましたので、魔女への対処も行いつつの研修となるかと存じます」

「だっはっは!」と、全神王は口角を上げた。「さてはあの蜷川つるぎ、デュクシデュクシーに近い女かぞい?」


「はい、その場その場でよいと思ったことを後先考えずに選んでは、常識外の方向に物事を進行させていくような……デュクシデュクシーほどではありませんが、自由奔放に女神の力や立場を使い倒していっている印象です。金塊をばらまきまくっています」


「そうかそうか。いや、なんにせよ、辿る足跡そのものを監視可能な状況が保てているのであれば、ワシは構わんぞい」

「左様でございますか。承知いたしました」


「そういえば、研修のために創造した世界のことだが」

「はい。先日、研修後も残すという結論となりましたね」


「あの百年前の世界の管理は……研修を無事に完了し、生存することができた暁には、蜷川つるぎに任せるぞい」


「……まだ、何がどうなるかは未知数ではございますが。恙なく進行する場合はそのようにいたします」

「うむ。パンゲア天界も色々と大変なのだろう、お前から話を聞いているとよくわかる。

 ワシは基本的には、各天界のことは各女神と大神官に任せる方針を採っておるからの。

 これからもお前の関わる範囲で何かあれば、必ずワシに報せるぞい」

「かしこまりました。必ずやお伝えさせていただきます」

「うむ、では下がってよろしい」


 玉座の間から去ろうとするパトスに、ああそうだ、と全神王は呼びかける。

「マンナカ火山にはそろそろ行くのかぞい?」

「そろそろというほど近くはありませんが、明日明後日のぶんの研修が終わり次第、ウーアハ王国領に入る予定です。ウーアハ王国領の研修の最後にマンナカ火山にて不死鳥と対面することとなります」

「そうかそうか。であれば、その際には不死鳥はどのような様子であったか、事後に報告を頼むぞい」

「承りました。必ずや」パトスは敬礼し、それから笑う。「でもたまには顔を出したほうがいいと思いますよ、とうさま。きっと母さんはいま、優秀な次男を亡くして寂しいだろうし」

「ふぅむ……」



 百年前のジャスタウェイ。

 一件落着ということで部屋に戻った湊だったが、湊のベッドはバッカのせいでシーツがぐしゃぐしゃで、涙の落ちた染みのようなものも見受けられた。汚らしく思えたので、適当な理由をつけて宿の人に取り換えてもらおうかと考えていたところに、つるぎが入室した。

「あ、つるぎ」

「ちょっとお話」

 つるぎに手招きされ、つるぎのほうの部屋に入る。ベッドサイドに本が置いてあって、なんの本だろう、と思いながら促されるままにベッドのうえに座る。


 つるぎは、えっとさ、とぎこちなく切り出す。

「アッカちゃんが来たときはどうなるかと思ったけど。なんか、逆にまとまってよかったね」

「そうだね」湊は頷く。「ちなみにあのまま、まとまらなかったらどうしてたの?」

「まあバッカさんが折れるか死ぬまで逆さ吊りしかないけど」

「……つるぎ的にその殺人はありなの?」

「なしだけど、なしなことしそうなくらいには怒ってたよ?」

 つるぎはそういって湊の隣に座った。

「怒ってたんだ、つるぎ」

「怒るよ、それはそれは怒る。湊くんに手出されたんだから、激おこぷんぷん丸です。カムチャッカインフェルノです」

「インターネット老人会?」


「それにしても……すごい身体だったね、バッカさん」

「え? いやあとくに覚えてないなあ。あの魔女に肉体なんてついてたっけ? 生首浮遊の魔女でしょ?」

「いや別にいいからね、忘れたふりとか」つるぎは苦笑し、湊の頭を撫でて、キスをして、押し倒した。


「本当に忘れさせるし、これから」

「……びっくりした」

「ごめんね、なんというか、反動がきてて。

 ……でも、嫌だったら、いってね。いーい?」

「いいよ。あと、別に謝ら

 なくていいよ、と、いいきる隙もなかった。

次回、第十五話『祝祭にて』。花とチョコレートの町バレッタでデートしたり、つるぎと湊の友達時代の話をしたり。

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