第十三話 断罪学園暴力事件 - アバンタイトル
パンゲア界の世界各地から断罪所のスタッフを志す者が集まる断罪学園『スクロール』。そしてその学び舎を囲む学園都市ジャスタウェイ――つるぎと湊とパトスが、天翔ける白き巨大カラスことキュイドの背に乗って舞い降りると、学生たちは色めきだった。
タイミングとしては三年生の卒業試験が終わったばかりだった。そのほとんどが出身地に帰省をしているため、校内にいるのは二年生と一年生だけだった。年齢はまちまちだったが、天使を煩わせないようにしよう、という気持ちより近くで見に行きたい気持ちが勝る生徒のほとんどが十代だった。
パトスが対外的な愛想で手を振りながら道を開く後ろを、つるぎと湊も会釈しながら歩いた。校舎から教員が出てきて、彼の案内で校内に入った。
「若かったね」つるぎは微笑む。「さっきの子たち、十五歳くらいかな。断罪学園には、だいたい十五歳くらいから入学できるんだって。なんか大学生とかになるとさ、高校生くらいの子たちって結構子供に見えるよねー」
「ちょっとわかる。当時はそんなに子供でもないと自認してたけど、通学中の子とか見かけると小学生みたいな雰囲気がちょっと残ってたりして、僕も普通にそんな感じだったのかなーって思う。で、高校生はもう大人だよ、とかいって手を出す大人マジ信じられないなってなる」
「そうだねえ。歳の差ラブコメとかも面白いけど、年上のほうめちゃくちゃ童顔が好きな人なんだろうなって思っちゃう」
「さて着きましたよ」
とパトスはいう。そこは学園長室の前だった。つるぎと湊は大神官補佐候補生として、大神官パトスの後ろについていくように入室する。
学園長から断罪学園や学園都市についての話を聞いたあと、学園都市の来客宿の部屋に案内される。防犯上、学生寮や教員寮からは遠い、都市の端のほうだった。とはいえ天界の天使相手なのもあってか豪華なものだったし、周囲に飲食店もあった。
「まあ通報されることもないだろうし、ぶらぶら散歩しよっか」
ということで、つるぎと湊はふたりで都市を回った。文房具店は他の町より充実した品ぞろえだった――機能性重視のものから可愛いデザインのものまで、選り取り見取りである。パンゲア界で単語帳は丸型のものが主流のようで、つるぎたちにとって馴染みのある長方形のものは、他の三角形や雲形のものにまぎれていた。黒鉛のペンを見ると、グザイの鉱山の名前が彫られていた。
消しゴムも売ってあった。パッケージに書かれている生産地はウエ地方の熱帯気候の地域だった。ちなみに大商人ライドがウエ地方との交易を始めてから入ってきたものであり、百年前のパンゲア界ではパンを使っていた。
衣料品店には断罪学園の支給制服である白い燕尾服――潔白の身で天に従う者を示す色である――や、ベスト、スラックスが店頭に並んでいた。男女間でサイズ差などはあったが、スカートなどはなかった。少し奥のほうにはシャツや下着や靴下、ベルトなどの消耗品が並んでいた。
学園の近くまで行くと駄菓子屋があった。創業から百年以上の歴史を持つ店とのことだった。スナック菓子やチョコレート、意味の分からない色の飴などの砂糖菓子、さまざまな絵の描かれているものが入っているというラッキービスケットなどが、学生にも手を出しやすい値段で陳列されていた。子供が遊ぶための木製の玩具もいくつかあった。
「断罪学園の生徒たちも買うのかな、こういうの」
「ええ、買っていかれますよ」奥からお婆さんが出てきていった。「勉強漬けの日々だからこそ、ぱーっと童心に帰りたい日もあるのでしょう」
「なるほど」
「あなたがたは天界の方々ですね。お話は聞いております」
「はい。天使です」湊は堂々といった。
「ありがたいことです、ごゆっくりおくつろぎください。ちなみにその昔、天使様にスナックをお貢ぎすることが流行ったときがあるそうです。なんでも、スナック菓子を気に入ってくださって、それを公言なさったそうです」
「へえ、天使に貢いで……つるぎ、それってありなの?」
「まあ民からの厚意は受け取るものだから、多少は。持って来いって命令してたら絶対に駄目だけど」
つるぎと湊は店を一周し、ラッキービスケットを買った。
開けてみると、絵の焼き込まれたビスケットが十枚あった。絵の内容は動物の絵のものが八枚、男性の横顔が一枚、女性の横顔が一枚だった。
「ちなみにね、つるぎ。好きな異性と一緒にこのビスケットの袋を開けて、女の人のほうが男の人の絵を、男の人のほうが女の人の絵を選んでせーので食べると、付き合えるんだって」
「いや湊くんがそんなローカルな恋のおまじないを知っているわけがないでしょ。ちなみにね、じゃないよ」
といいつつ男性の横顔のビスケットを手に取るつるぎ。湊も女性の横顔のビスケットを選び、せーので口に運んだ。
「でもさあつるぎ、こんなノリできるならビスケット食べる前から相思相愛だよねえ」
「自分で考えたおまじないに水を差さない」
でもそういうの青春っぽいよね、とふたりで笑う。
「青春ねえ。高校のときも、よく放課後にどっか遊びに行ったり買い食いしたりしたよね」
「したした、駄菓子屋さんも行ったし……よく行ってたメロンパンのお店あったよね。こんなんだっけ」
つるぎはさくさくの大きなメロンパンをふたつ生成して、ひとつを湊に渡した。
「んー、美味しいけど少し風味が違うかも? うまくいえないんだけど」
「あ、たしかに。他のメロンパンの印象が混ざっちゃってるかな。二年くらい行ってないから難しいな、食べに行きたい」
つるぎはそういって、それから目を細める。
「戻れないよねえ、全部」
「でも、一緒に進めてよかったよ」
湊はつるぎの手を握った。
「うん。それはそう」
つるぎは手を握り返した。
そのあとは学食を体験して多さと安さに唸ったり、校内の図書室を軽く見て違う景色のなかに懐かしいものを見出したりしているうちに日が暮れた。宿で夕食を摂りながら、そういえば、と湊はいった。
「百年前に行ったら、ここで何をするんだっけ?」
「キャルゼシアの辿った道をなぞるなら、校内で起こった暴力事件の解決。ちなみにネタバレなんだけど、犯人はフーガスっていう男子生徒らしい」




