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第十二話 ニムルとカンタレラ - Cパート

 翌朝。

 穏やかな朝のひかりが窓から目元を撫で、ミリィは目を覚ました。教会の寝室だった。薄暗い朝の部屋のなかで、ミリィは隣のベッドのヌルの寝顔を見て、溜息をついた。


(ぜんぶ終わった)

 ジンコゥの町は遠く、つるぎもまた遠い。この三日間の出来事があまりに濃く、思い返すだけで胃もたれがしそうなほどだった。そして、三日間なのだ、と思った。


(たった三日で、私は、全然違うところに逃げ込むことができましたわ)

 けれども、できたことは、それだけだった。ミリィは父と伯父を殺し損ねたことを思い出して、またひとつ、溜息をついた。


 まだ、どうしても、殺させてほしかったと感じざるを得なかった。


 ミリィはゆっくりと起き上がり、窓の外の景色を眺めた。はらはらと、落ち葉が舞っていた。それからまた、ヌルを見た。ヌルはまだ起きる気配がなかった。あれだけ泣けば疲れるだろうか、とミリィは思い出す。マーキュリーがヌルに、あなたはこれからずっとここで暮らすのよ、と伝えたときのヌルの大泣きを思い出す。


 ミリィはマーキュリーから、ヌルと犬猫の件を聞いていた。ミリィの抱える傷も考慮してか、マーキュリーはだいぶ迂遠な表現を多用しながらミリィに伝えたが、何が行われたかは充分に察せた。二度ほど吐いた。娘に手を出す父親がいれば、孫娘の身体を売る祖父もいるのだという事実が気持ち悪くて悲しかった。

 全員くたばれ、とミリィはトイレで叫んだ。そのほかに、言葉にならない叫びをした。


 ヌルは、自分の尊厳が穢された自覚もなく、むしろ町や祖父のために働くことで自分の価値を高めているとでも感じていたのか、マーキュリーがどれだけ説明をしたところで納得したがらず、おじいちゃんのとこに、ポールトルに帰りたいと、泣きじゃくっていた。

 結局、夜遅く、泣き疲れて眠ったヌルをミリィがベッドに運んだ。


(ヌルさんも、時間が経てば、この状況に納得するだろうか)

 ということを考えてすぐ、

(私も、時間が経てば、つるぎさんの邪魔に納得するだろうか)

 と考えた。


(いや、時間が経てば納得するものみたいに扱うのは自分でも癪ですわね)

 たとえそうだとしても、いまは自分の気持ちを、ヌルの気持ちを、永久のものだとして大切にしたい。いつか薄れる感情だからといって、雑に扱われてたまるものか。

 ミリィは運命を呪いながら、傷を自覚しながら、ベッドサイドに置いていた、百年後のファンタジーに耽り始めた。


 寝室を覗いたマーキュリーは、まあお腹が空いたら自分で天使室に行くだろうと判断して、自分とブギとウーギーとドゥワップのぶんの朝食を天使室でもらうことにした。天使に、犬や猫のぶんが必要であることを明かすと、動物用の完全栄養ゼリーをもらうことができた。

 ドゥワップは無邪気にゼリーを舐めていたけれど、ブギとウーギーはまだ人間が恐ろしいような様子だった。根気よく向き合うしかない、と心のなかで唱えながら、マーキュリーは犬たちに微笑みかけた。

「安心していいけれど、いますぐ安心しなくたって、別にいいのよ。不安でも大丈夫なようにするだけだから」

 ドゥワップが暢気に鳴いた。



 百年後。

「そういえばパトっさん」

「誰がパトっさんですか。どうなさいましたか、つるぎ様」

「ごめんなさい普通に噛みました。えっと、研修用に創った百年前の世界って、研修が終わったらどうなるんですか?」

「ああ、その件ですか――そうですね、その件に関しましては貴様らが過去にいる間に全神王様と話し合いを行いました。結論としましては、個別の異世界として残すこととなります」

「そうなんですね。よかった、無駄にならないなら、頑張り甲斐があります」

 とつるぎは胸を撫でおろした。


 毎度お馴染み、天翔ける白き巨大カラスことキュイドの上での会話だった。現代のグザイの町を離れ、次の研修場所に向かうところである。

「でもパトスさん、いいんですか?」と湊はいう。「なんというか、見てなさすぎじゃないですか? 僕たちのこと」

「合間に確認しておりますよ。ナビゲートができるほどの余裕がない場合も、たしかにございますが」

「本当に確認しているんですか? 嘘をついていませんか? パトスさん、噓をつくとき鼻がひくつく癖があるの気づいています?」

「そんな癖はありませんし、あったとして、貴様についた嘘が発覚した場面があったわけでもないのになんの根拠でいってるんですか?」

「まあカマをかけたんですが。安心してください、パトスさんの忘れ鼻は静かですよ」

「忘れ花? まあどうでもいいです、勇者様はいい加減わたくしにどうでもいい喧嘩を売ろうとするのやめてください」

「そうだよ湊くん、パトっさんはいつも忙しく仕事してるんだから突っかからないの」

「つるぎ様はパトっさん呼びをやめてください」


 さておき、三人は次の地に到着する――そこはシタ地方のすべての断罪所スタッフの登竜門、断罪学園『スクロール』を中心とした、学園都市ジャスタウェイである。



 再び戻って、百年前のジャスタウェイにて。

「うははは……また一組……みんなどーせ、どーせ獣! うはははは」

 と。

 魔女バッカがひとり、不気味に笑っていた――。

次回、第十三話『断罪学園暴力事件』。一話完結の話です。よろしくお願いします。

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