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第十一話 [E]Whichever one of you has committed no sin may throw the first stone at her. - Cパート

 ロミオルとアルバンスがミリィに性暴力を行ったことは確定として、求刑の話になる。

「ミリィさんはできる限り一番大きな刑を望んでいます。どうしますか?」

「は、はい。性的暴行ですと……いっとう大きなもので二十年の禁固となります」

「それが限界ですか?」

「ええ。これも本来はもっと被害者の多い場合の刑です」

「なるほど。どうですか? ミリィさん」

 ミリィは何もいわず、ただ静かに頷いた。


 断罪所のスタッフがアパシィ邸に向かう。加害者と鉢合わせないように、つるぎとミリィも断罪所を出る。絨毯を隠した場所まで歩いて、それから教会まで飛んでいく予定である。つるぎはミリィにウィッグを被せ、俯いて歩くようにいった。ミリィがジンコゥを歩いているところを目撃されては余計な騒ぎになるからである。

 いつの間にか時間が経ったのか、空の向こうから夕焼けが近づいてきていた。


「つるぎさん」ミリィはいう。「少し薄暗いですわね」

「そうですね」

「明かりをいただけませんこと?」

「明かりですか?」

「ええ。そうですわね、トーチをくださいまし」

「はーい」

 つるぎはトーチを生成し、魔法で火をつけてミリィに渡す。

「ありがとうございますわ」


 絨毯の隠し場所は、アパシィ邸の向かいの住宅の狭間だった。絨毯は抱えて動くには大きいため、ジンコゥに着いて、スーがアパシィ邸から出てきたときに咄嗟に差し込んでおいたのだった。

「ちょっと砂とかついちゃいましたね」と絨毯をはたくつるぎの隣で、ミリィはアパシィ邸を見ていた。騒ぐような声が漏れていた。


 間もなくして、アパシィ邸から、ロミオルとアルバンスが、断罪所のスタッフたちに手縄をかけられて出てきた。


 ミリィは、たん、と地面を靴で蹴って駆け出し、全力で走って、ロミオルの身体に火のついたトーチを押し付けた。


「ミリィ!?」

 とロミオルが叫ぶと同時に、ロミオルの服や髪に着火した火が燃え上がった。

 ミリィは返す刀でアルバンスの頭と服に火をつけた。

「あっちゃあああぁぁーっ!?」

「ひいいぃいぃっ誰か! 水! うああっ!!」


「おい! な、何をしているんだ!」と男性スタッフがミリィの両肩を手で掴む。


「やだああああああああああああああっ!!!」

 ミリィは半狂乱になり、男性スタッフの服にも火をつけた。

「うわあああっつ!」

 男性スタッフはびっくりしながらもその場に転がって消火をした。


 そのとき、大量の水が上から降り注いだ。ロミオルとアルバンス、男性スタッフについた火はそれでさっと消えた。つるぎの魔法だった。つるぎは三人に駆け寄って火傷を魔法でさっと治療し、うずくまるミリィの手を引いて空飛ぶじゅうたんに乗った。


「つるぎさん」

「みなさんごめんなさい! 失礼しました!!」

 つるぎは三人に謝罪をして、ミリィとともに絨毯で飛び立った。



 教会に向かう上空、空飛ぶじゅうたんのうえ。

 つるぎは、どうしてあんなことをしたのかと訊きたかったが、答えなど決まっているだろう、とすぐに思った。

 ミリィが凶行に出た理由が、わからないとは、いわない。

「つるぎさん」ミリィは悄然とした声音でいう。「どうしてあんなことをしたんですの」

「あんなことってなんですか」

「火を消して、火傷を治したことですわ」

「そうしないと死んでしまうと思ったからです」

「どうして死んでしまわなくてよかったんですの?」

「……違いますよね、ミリィさん」


「どうして殺してしまわなくてよかったんですの?」


「もう刑は決まっていたでしょう。裁きは下されますよ」

「懲役ですわ。生き延びるのですわよ、私を嬲った記憶を抱いて」

 ミリィはそういうと、自嘲気味に笑う。


「まさかつるぎさんは、あのクズどもの命が、私の命と同じくらい大切だなんて、説きませんわよね。だから、私と同じくらい、あいつらは殺されるべきではない命だとか、そんな愛のないことを仰いませんよね」


 人の命は平等であると、女神教の戒律は説いている。

 だからこそ、どこの誰が殺されることも、許してはならないのだと。


「そんなこと、わたしは、いってませんよ」

「じゃあどうして。どうして、どうして、どうして。あなたのせいで、私、ずっともやもやしたまま、なんにもすっきりしないまま、どうしても心が晴れないまま、不幸に生きていくんですわ」


「そうかもしれませんね」つるぎはミリィの目を見ていう。「ミリィさんは、あのふたりに死んでほしかった。しばらく牢に入れられるとかで済まさず、殺してほしかった。わかっていますよ、知っていますよ。あなたの殺意は嘘じゃなくて、いま、心から望んでいるって。でも、ダメだと思いました」


「どうして!」ミリィは上空でもおかまいなしにつるぎの胸倉を掴む。「つるぎさん、あなた、いったでしょう! 馬鹿でも狂ってても自己中でも、幸せならいいと! 最終的に幸せになれたらその人生は正解だと、説いてくださったでしょう!? ならばどうして、どうして、止めたんですの!!?」


「わたしはあなたが! ミリィさんが、他人を殺して、幸せになれる人間だとは、思わない! 心から復讐を望んでいたとしても、いい逃れのできない、やらないことも選べたような人殺しをして、次の日からずっと笑顔でいられる人だとは、思わない!」

「……つるぎさんに何がわかるんですの! 私の!」

「わかりませんよ! わたしはミリィさんじゃないので!」

 でも、とつるぎはいう。


「でも、あなたは自分がいっぱいいっぱいなとき、わたしにちょっと嫌味にあたったくらいのことを、わざわざ謝る人なことは知っています! わたしが湊くんと一緒に外にいるべきだと思って、独りにしても大丈夫だと平気なふりをする人なことも知っています! わたしと一緒にいた時間の、思い出の品を欲しがるほど情の深い人ってことも知っていますし! それに、それに、……ミリィさんの本棚にあったファンタジー小説は、すごく優しい物語でした!

 あなたのことなんて、わかっていないかもしれないけれど、でも、すごく優しい人だってことくらい、知っています! だからあなたに、わたしは、後悔、してほしく、なく、て」


「……つるぎさん」


 ミリィはつるぎが泣いているところを初めて見た。


 ミリィにとってツルギ・ニナガワは、ずっと笑っていてずっと変で、ずっと優しい人間で、そして弱点なんて、どこにもないように思えていた。ずっとあっけらかんとしていて能天気で馬鹿みたいで、だからこそミリィも少し楽になれるような――神様だった。


 だから、衝撃的だったし――引き起こしたのは自分だと思うと。


「ごめんなさい、つるぎさん」ミリィも、ぼろぼろと、泣きだした。「私のために、泣かないでくださいまし。お願いですわ」

「ミリィさん、わたしは、ミリィさんに、幸せに、なって、ほしくて」

「つるぎさ、ん」


 蜷川つるぎとミリィ・アパシィは、空飛ぶじゅうたんの上、夕暮れの下で。

 いつまでも、友達同士みたいに、泣き合っていた。

次回、第十二話『ニムルとカンタレラ』。第六話からここまでのエピローグみたいな回です。よろしくお願いします。

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