第八話 [E]ポヰズニング・エスケヱプ - Cパート
「あ、パトスさんこれ似合うんじゃないですか? お花のブローチ」
「大神官であるわたくしが公費で自分用のお花のブローチを購入していたら大問題でございます」
「大問題大神官……」
「浮かんだ言葉をそのまま口に出されてます?」
湊はブローチを棚に戻す。花を象った赤い宝石のブローチが咲う。
グザイの町の特産品は宝石だった。百年前から富める町であったのは、鉱石の採れる山の傍に町があったことと、宝石にする技術があったことで商人や旅人が通っていたことが大きな要因だった。
つるぎは青い宝石が好きで、湊はそれがどういう青色であるか把握していたので、あとはそれを見つけるだけだった。とはいえ、ひかりの当たり具合などによって印象も変わるため、少し難しい作業だった。熱心に宝石棚を見つめる湊を見て、パトスは嘆息する。
「まったく、大変ですね勇者様は。彼女の自由に振り回されて……やっぱり宿にいると急にいいだすなんて、こちらの身にもなってほしいものです」
パトスの言葉をガン無視して宝石を漁り続ける湊。
何せそこは広大な宝石館で、左右も上も宝石だらけで大変だった。カラーパレットでまとめてくれればいいのに、と思いながら湊は探していた。
「まあ、女の気まぐれを許すのが男の持つべき懐の広さであるということでしょうか」
とパトスがいうと、
「違いますよ」
と湊はいった。
「相手が好きだからやりたいことをやっていてほしいって思う気持ちに、性別なんて関係ないです。僕が女性でつるぎが男性でも、僕とつるぎだったら、変わってなかったと思います。それに寛大さとかを男らしさとして扱ったら、そうあれないことに息苦しくなる男性も少なくないと思うので、そういうのやめましょうパトスさん。人を評価するとき性別の話しないほうがいいです」
「……異世界の論理ですね」
「感情ですよ。論理より大事な」
湊はつるぎの好きそうな青色の宝石のペンダントを見つけると、同じ形の赤色の宝石のペンダントを持って会計をした。湊は鮮やかな赤色が好きだった。
宿に戻った湊は、ロビーでつるぎと一緒に、屋台で売っていたワッフルを食べた。ミリィが落ち着いてきたという話を聞く。つるぎが周りに聞こえないように声を小さくして、ミリィに女神殺しを打ち明けたと湊に伝えると、そっか、と薄い反応だった。
「ミリィさんはなんて?」
「私に話を聞かせるために大それた冗談をかましたのでしょう、みたいなことを泣き止んだあといわれたから、否定も肯定もしないでおいた」
さすがにそれは嘘だろうと、そのときミリィは思っていたのだった。女神が死ぬというところから、ありえないとミリィは判断した。
このパンゲア界の民の間では、女神は代替わりこそすれ死にはしない、という認識になっている。絵や銅像にすることを禁じられているため先代の女神の姿を覚えている者は少ないが、それでも自分の人生を直接的にも間接的にも救った女神がもういないとなったら、どうしても絶望感があるものである。
ゆえに天界はその認識を正そうとしないし、女神自身も先代女神が死んで背中から生えたブラックベリーを食べて権能を受け継いだというような話は民にはしない暗黙の了解があった。
「安心してもらうために夢を壊さないって表現すると、古いアイドル観みたいだね」
「たしかに。偶像だねえ、わたし」
つるぎはそんなことをいって、ワッフルを食べ終えた。
それから湊が宝石館の話をして、ペンダントを贈った。
「すごい、素敵。ありがとう湊くん、とても嬉しい。うあ、海のひかりみたい。好き」
「どういたしまして。ちなみにペアです」
「わあ……えー嬉しい、ありがとう。綺麗。湊くんも似合ってる」
「よかった」
「いやー……ちょっとちょうどよかったかも」
「ちょうどよかった?」
「ガボで買ったロケットペンダントあるでしょ、あれミリィさんにあげちゃって。何か思い出がほしいっていわれたから。それでいま、首につけるものなくなったなって」
「なるほど。……この時代のものを百年前に住む人にあげていいの?」
「バレなきゃいいんだよバレなきゃ」
「つるぎが小学生みたいなことをいっている……あるいは悪い大人のようなことを……」
それから、湊は改めてつるぎと宝石館に行った。湊がつるぎ向けじゃないと思っていた宝石にもつるぎは胸をときめかせていて、まだまだ自分のわかっていないつるぎがいるのだと思うと、そのことがどうしようもなく愛おしく感じた。
宝石館から出るころには夕暮れが近づいていたけれど、パトスが呼んだ御者が待ち構えていて、ふたりは馬車に載せられた。
「これからどこへ?」とつるぎはいった。
「キャルゼシア大橋の向こうへ」
次回、第九話『川向うの孤独』。よかったら評価やポイントなどいただけると励みになります……!




