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第八話 [E]ポヰズニング・エスケヱプ - アバンタイトル


「ふう危なかった、湊くんが回復魔法できなかったら死ぬところだった」

「本当によかった……よかった……よかった……」

「よしよし。ありがとうね、心配かけたねえ」

 泣きそうになりながら抱きしめてくる湊の頭を撫でたりキスしたりして落ち着かせながら、つるぎは考える。


(異世界なら超即効性の吐血猛毒があっても不思議じゃないとして、そこは疑問に思うところじゃないとして。誰が、なんで?)


「……私の身代わりになってしまいましたのね」とミリィはいった。

「あ、たしかに。そのシチュー、ミリィさんのためのものですよね」

「調理はスーさん」と湊がいう。「僕は何も入れていない」

「湊くん、スーさんから、絶対食べさせるようにいわれてたんだよね」

「うん」

「じゃあ犯人は決まりだね。でもいったいどうして」


 噂をすれば影が差す、というふうに、スーが廊下から部屋にやってきた。

「ミリィ様、お加減はいか」

 部屋を覗き込んだスーは、生きているミリィ、なぜかいるつるぎ、転がっているシチュー、それからつるぎの腕のなかでこちらを睨みつける湊を見て、どういうことだろう、と思考に時間をとられた。


「えい」

 つるぎは植物魔法で太いツタを作り出し、スーを縛り上げて廊下に転がした。


「あなたのせいでつるぎが血を吐いて死ぬところだった」

 と湊が立ち上がってスーに向かおうとするのを、つるぎは抱きとめて抑えた。

「気持ちはわかる。わたしも逆だったら殺そうとしてる。でも、不殺でいきたいし、湊くんに手を汚してほしくないし、なんにせよ事情を訊きたい」

「……わかった」

 湊はつるぎの腕のなかに戻る。


「スー」ミリィはいう。「どういうことですの? あたかも、私がシチューを口にして死んでいるころだろうと見計らって来たように思えましてよ」

「関係ございません、なんのことですやら」


「あ、もしかしてミリィさんに嫉妬したんですか? 好きですよね旦那様のこと」

 揺さぶりを兼ねてつるぎがぶっこんでみると、スーは信じられないものを見るような目でつるぎを見た。

 ダメ押しでつるぎは続ける。

「ごめんなさい、手帳の日記が断片的に目に入ってしまいまして」

「……最低。他人の日記を覗くなんて」

「説明なさい、スー」ミリィは動揺を隠せない震えた声でいう。


「説明も何も、ニナガワのいう通りです。妬いたんですよ、羨ましくて。

 愛しの旦那様の子を身体に孕むことのできたあなたが羨ましくってしょうがなかった。

 だから死んでほしかったんです」


「はい?」

「待って?」

「どういうこと?」

 と三人とも同じように驚く。

 つるぎは一応、耳栓を作って湊の耳を塞いでから、スーに訊く。「えっと、え? アルバンスじゃないんですか?」

 スーは、どうしてアルバンス様が関係あるんですか、という。


「私は見ました。幾月か前の晩、旦那様がミリィ様の部屋に侵入し、お犯しになられていました。私が見間違えるわけがないです、あれは旦那様でした。ミリィ様は薬で眠らされているようでしたから、ご存知ないでしょうけれど」


 ミリィはカーペットに吐瀉物を撒き散らし、それからカーペットの毒シチューを手ですくって食べようとした。つるぎが咄嗟にその両手をツタで縛ることで、その自殺は未遂に終わった――ミリィは狂ったように笑いだした。


「馬鹿ですわ、馬鹿ですわ私は、アルバンスだけを警戒していれば、よかったなんて。アルバンスだけが最悪だなんて、みんな、みんな最悪だったのに」


「ミリィさん、失礼」

 つるぎはミリィに入眠魔法をかけて眠らせる。あまりにも気の毒だし、睡眠薬のようなことをするのは気が引けたけれど、あまり騒ぐと人が集まって余計にややこしくなりそうだった。


「……まさかアルバンス様も?」

 予想外だったのか驚愕しているスーもついでに眠らせて、つるぎは深呼吸をする。

 最善を考える。最悪から見た、最善を。


「湊くん」つるぎは湊の耳栓を外してからいう。

「何」

「わたし、窓からミリィさん担いで出るから。着替えのとこに置いてある荷物を持ってくるの、お願いしてもいいかな。待ち合わせは教会でどう?」

「うん、わかった」

 いるべきではない家というものがある。



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