第六話 劇場の町で - アバンタイトル
朝起きると百年前の世界だった。例によって町の入口に転がされていた――湊はつるぎの頬を撫でて起こす。つるぎはゆっくりと目を覚ますが、まだ眠たいのか湊の肩を借りてどうにか起きる。
男も女もめかしこみ、静かに気取った佇まいの奥には今日の物語への期待が秘められている。語り部すらもその熱狂を楽しみに、朝から宝物を端正に研ぎ澄ます。
煉瓦造りの劇場の町、ダリアンヌである。
この世界で初めて建てられた劇場といわれている大劇場、様々な店、催事場、そしてシンボルとなる紅色の美しい塔があるため、観光客を含めた人通りが多い。現代でいう港町ガボに引けを取らない賑わいだった。
「さて何をすればいいんだろう」とつるぎがいったとき、
《お目覚めになりましたか?》と身分証明カードからパトスの声がした。
「おはようございます、パトスさん。今日は何をすればいいですか」
《いつも通り、貴様らにはキャルゼシア様の足跡を辿っていただきます。キャルゼシア様はこの町で……》
「この町で?」
《とくに仕事もなく、普通に町の各施設を一日楽しまれたそうです》
「えっ? ……遊んでいただけということですか?」
《平たくいえば。ダリアンヌの町はガボがまだ漁村である当時のリリシシア王国領においては随一の繁華街といえる場所ですから、堪能しなければ損であると考えられたのでしょう。あるいは、人々がどのような娯楽に興じているものか触れないことには神として民の心情を解することは難しいということかもしれません。いえ、きっとそういうことでしょう》
それらしい理屈をつけないといけないのって大変そうだなあ、と思いながらつるぎはパトスの話を聞く。
《と、いうわけで。貴様らにはダリアンヌの町を、キャルゼシア様のルートに沿って楽しんでいただきます》
「え、ルート固定なんですか?」
《そうですね。いくらなんでも好き勝手に遊んでよいとなると研修としてなりたちませんので。その代わり、勇者様の同行に関しては今回も不問に付します》
「わかりました。だってさ、湊くん」
「ツアーみたいなデートになりそうだね」
「だね。なんだっけ、そうそう、聖地巡礼みたい」
「自分で殺した相手の聖地を巡礼ってサイコ感あるなあ」
湊は肩をすくめた。
《ご理解いただけましたね。それでは行先の指示を出させていただきます。まずは――》
ダリアンヌの町に、ゆらめくように近づくひとりの女がいた。
背の高い女だった。視力がよくないのか、眼鏡をかけていたけれど、それよりも特筆すべき特徴があった。
黒いドレスに黒いフード。黒ずくめの格好に、目のさめるような金髪が映えていた。
「うはは。うは、うははは、は。人間なんて、獣ばっか。デートなんて上品ぶっても、やりたいだけの馬鹿ばっか」
いうまでもなく、魔女だった。
四人の魔女のひとり、魔女バッカが――ダリアンヌの町に足を踏み入れた。




