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第五話 漁村ガボ - Cパート

 結論からいうと、フラウはマメドンのうろこを呑んで不死となり、マメドンは人間となった。そして剥がしておいたうろこを自分で呑み、マメドンもまた不死となった。

「これでフラウさんは死なないし陸でマメドンさんとずっと一緒に生きていけます」

「女神さんにこげなこと訊くのも不躾だけんど、なんでそったらことできたんだべ。マメドンの尾ひれが、なして、人間の両足になっとるべ」

「女神が創ったものは別の女神の力で削除も加工もできるんですよ。マメドンを人魚から人間に加工しました。その前に人魚のうろこを取っておけば効果がある……といいなと思ってやってみました」

「はええ。ありがてえべ」とフラウは頭を下げた。


「つまり、ニナガワツルギーって本当に女神だったんだ」とマメドンは自分の両足を確かめながらいう。

「え、信じていなかったんですかマメドンさん」

「あなたみたいな場当たり的が過ぎる人が女神なわけなかったから」

「デュクシデュクシーもそんな感じだったらしいですよ?」

「知らない。様子とか全然見に来てなかったから」


 そんなこんなで。

 つるぎが用意した服と亜麻色の髪を隠すウィッグに包まれ、湊におぶられて、マメドンはフラウの家にやってきた。フラウはつるぎが置いた食材の山にびっくりして、神のごとくつるぎを拝んだ。

「おねえの部屋があるべ、マメドンはそこで暮らすだよ」

「ありがと」

「フラウさん、この家をバリアフリーに……手すりとか多い感じにしましょうか?」

「いいべか!? それでマメドンが歩く練習できるべ!」


 フラウは村の仕事があり、三人を残して家を出た。つるぎが生成した工具や手すりのパーツを受け取った湊は、家中に手すりを付け始めた。ひと息ついたつるぎに、マメドンはいう。

「そっちは不老不死? ふたりとも」

 つるぎと湊の関係は、洞窟から帰るときに伝えていた。

 つるぎは堂々と、死にますよ、と答える。


「湊くんはきっと普通に死ぬとき死ぬし、わたしも、寿命はないですけど心臓を突かれたり首を絞められたりしたら死にます」

「よかったの? 人魚のうろこ、吞まなくって」

「興味ありますけど、女神が不老不死になったら怒られそうなので」とつるぎは笑う。


「でも、湊くんがそうしたいって願うんなら、怒られちゃおうかなって思ってますよ」


「……ふぅん」

「さ、湊くん大丈夫か見てきます。わたしも湊くんも、DIYあんまり経験ないんでちゃんとした手すりじゃないかもしれませんけど、堪忍してくださいね」


 どうにか手すりの設置を終えたつるぎと湊は、思い立ってフラウの家を出て、村の入口に向かった。そして入口のすぐ傍の森で、壁のように建ち並ぶ大量の樹の前に立った。人間のひとりやふたりくらいであれば木々の隙間を往くことは可能だが、馬車などで物資を運ぶにはあまりにも狭すぎであり、ガボとリリシシアの間を狙いすましたかのように塞いでいる。

 しかしそれは女神デュクシデュクシーの創造物である――つるぎは手をかざせば、あっさりと削除することができた。

「魔女アッカは怒らないかな」

「まあ、正当防衛じゃなければ人に危害を加えないって約束したし」

 少なくとも魔女アッカからすれば、誰を罰すればよいかわからない状態であることはたしかだった。

 もうすぐ夕方だ、と湊がいった。


 夜になり帰ってきたフラウは、用意されていた料理を見て嬉しい悲鳴を上げた。つるぎの用意した食材で湊が作ったグラタンとグリルチキン、それからサラダだった。

「仕事で疲れてると思ったので。熱いので気をつけて」と湊はいった。

「お、おらこんなにしてもらってええんだべか……」フラウはもはや震えていた。「女神さん、食ったらお礼させてほしいだ、何すればいいかわがんねけど」

「そしたら、二個お願いしていいですか?」

「なんだべ?」

「今日泊めてほしいのと、あと、フラウさんの部屋に入っちゃったんですけど、あそこに飾ってあった絵……もらっていいですか?」

「絵って……どれだべ?」

 食後にフラウを連れたつるぎが指さしたのは、キャンバスに描かれた数ある絵のひとつ、亜麻色の髪の美しい女性の絵だった。




 翌朝、現代に戻ったつるぎは、抱きかかえて眠っていた絵をきちんと持ってくることができていることに安堵した。過去からものを持ってくることができるのだ、ということの確認にもなった。

 一緒に身支度をしながら湊はいう。

「気になったんだけどさ」

「なあに」

「マメドンさんが人間になる必要はあんまりなかったんじゃないの? フラウさんが不死のまま陸に住んで、マメドンさんの洞窟に顔を出し続ければよかったのでは? 時々海に泊まりに行ってさ」


「うん、そうだよ? でもそれだと感情的なマメドンさんから人魚の力を奪えないから。死ななくてもフラウさんをうっかり怪我させたとか、フラウさんが別の子に恋しちゃったとかでもマメドンさん怒ると思う。それで海の問題が再発したら意味ないから」


「ああ、無力化」

「あとは、人魚は神獣として畏れられていたとしても、途中からは民に迷惑をかけたり、船を沈めて死なせちゃったりしていたから。放置してたらもしかしたら、恨み骨髄な村人からマメドンさんが酷い目に遭ってたかも。殺せずとも岩を叩きつければ痛いだろうし」


 不信心者となったこの世界のフラウがいるように、感情によって信仰から踏み外すこともある。村人のなかにも人魚が神獣だろうと復讐してやりたい者がいてもおかしくない。被害を出さなくなったことから、大人しくなったいまがチャンス、と思われてもおかしくはないのである。


 ちなみに昨日のうちに、フラウとマメドンにそのあたりの話はしてある――マメドンが元人魚だということを隠したほうがいい、人魚は女神が退治したということにしたほうがいい、とつるぎがいうと、フラウは合点したがマメドンは得心がいかない様子だった。アイデンティティの問題でもあるから、つるぎはそれ以上の説得のようなことはあえてしなかった。


「マメドンさんがもうちょっと無欲だったらその形にならないところだった。よかったよかった、都合よかった」


 つるぎはへらへらとそういいながら寝癖を直す。

「その形にならなかったらどうするところだったの?」

「作戦考え直しかな。とりあえず、マメドンさんをわたしが削除しちゃう以外の道でね。民に被害を出した魔物だけどさ、それでもフラウさんは大事に想ってるから、軽率に殺したくないなって」


 キャルゼシアの功績と送られていた尊敬、死刑になったマメドンの昔の恋の相手、そして人魚を神に削除され不信心者となったフラウ。つるぎはそれらに思うところがあり、不殺を心がけようと考えたのである。


「あとまあ、デュクシデュクシーが創造して放置したのが悪いっていうか。倫理観がない子になっちゃったのはしょうがないというか、マメドンさんも被害者だと思った」


「なるほどね。そうだ、もうひとつあるんだけど、気になったこと」

「うん」

「結局、フラウさんとか、何弁なの? あれ」

「ガボ弁でしょ」


 寝室を出たつるぎはオーナーに絵を渡していう。

「また燃やされても悲しいですし、しっかり隠しておいてくださいね」

「……どうして、ここにあるのか、わかりませんが」オーナーは涙ぐみながらいう。「ありがとうございます。大切にします」

「喜んでもらえてよかったです」


「でも、よいのでしょうか。叔母が不信心者であったというのは、本当のことです。大切にするのは、いけないことではありませんか」

「愛することは罪になりませんよ」

 わたしがさせません。

 つるぎはそういって笑った。





次回、第六話『劇場の町で』。大劇場のあるダリアンヌという町を観光する回です。よろしくお願いします!よかったら評価などいただけると嬉しいです……!

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