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第四話 港町ガボ - アバンタイトル

「あれ?」

 とつるぎはいった。

 大商人ライドに洗脳ハーレム能力を与えなかったにも関わらず、現代に戻ってみればリリシシア王国には銅像の残骸があったからである。銅像が作られることはあるかもしれないが、爆発は起きないはずである――それとも別の理由で爆破されたのか、と思っていたところにパトスはいう。


「おや、ご理解いただけておりませんでしたか? つるぎ様が干渉した世界は、あくまでもこの世界にとっての異世界でございます。異世界で起こったことは、この世界に影響を及ぼしません。変わったものはあくまでも、異世界の辿る未来のみです」

「あ、ああ。そうなんですね」


 なんだか肩透かしな印象だったが、しかし異世界のリリシシアでは同じことが起こるわけではない、この世界のリリシシアでライドが好き勝手にやったからこそ生まれた生命などが消え去るわけでもない、という意味でもあるわけで――つるぎは逆に、ほっとした。


 湊はいう。

「そういえば、この世界から異世界に干渉することで、干渉した世界としなかった世界に分岐されたりしないんですか? 物語とかだとそういうのもありますけれど」

「されません」パトスは断言する。「世界は、未来は、起こることを辿って伸びるものではなく、起こったことを積み重ねて延々と成長するものです。つるぎ様の干渉もあくまで素直に積み重ねられます。可能性の分岐世界は誕生しません」


「本来起こるはずだったこと、みたいなのはないんですか。じゃあ予言鳥ってどうやって予言をしていたんですか?」

「さあ。弟は天才でしたから。わたくしには伺い知れませんでした」

 パトスは寂しそうに笑った。


 それから三人は馬車に乗った。港町ガボに向かうためである。鳥を使って移動をするほどの距離ではございませんので、とパトスはいった。手配済みの御者は三人の姿を見ると、光栄とばかりに活き活きと準備を終わらせた。



「皆様、朝食はお済みですか」と御者はいう。

「いいえ、まだです」とパトスは答える。

「さようですか、さようですか。でしたら、ご朝食にエビフライ・サンドイッチはいかがでしょう。私の妻が営んでいるサンドイッチ店で一番人気の商品であり、今朝できたてです」

「いただきたいです」とつるぎはいった。


「それはよかった、ぜひご堪能ください。天界の皆様の足となれるばかりか、お食事にも関わることができるとは、人生でいっとうの幸福です」


 わざわざ朝食抜かせたのってこのためですか、と湊はパトスに耳打ちする。

 奉仕させることも慈愛のうちでございますから、とパトスは小声で返した。


 ふわふわのパンのなかにサクサクの揚げ衣、そしてエビのプリプリとした弾力を楽しみながら、三人は馬車に揺られ続ける。つるぎはいまや灯台となった魔女の塔を見ながら、塔の周辺の森も通りやすく整備されているのだ、と気づく。


 百年も違えばそういうものかもしれないが、リリシシア王国も百年前にはまるで違っていたことを湊は思い出す。ライドと食べに行った酒場も、肉類はあったが海鮮類は乏しいといってよかった。ガボが漁村から港町となったことも関わっているのだろうか、と湊は考えた。


 そんなふたりの考えを読んでいるかのように、パトスはいった。

「百年前、魔女アッカはあの塔から眺める鬱蒼とした森が好きだったそうです。リリシシア王国とガボの間の森の通行を容易にしようと伐採を行おうとした人間は魔女アッカによって殺されました」

「そうなんですか? アッカちゃんが」


 つるぎは新たな情報に驚いた。魔女アッカと話をして、いまのところ世界に混乱をもたらそうと画策している魔女はいないそうなので気にせず研修を行っていく予定ではあったが、そうはいっても自分の都合で命を奪う魔女を野放しにして本当によいのか、つるぎはときどきわからなくなる。

 そうした自分本位の殺害も、あの飲みにケーションで考え直してくれたらよいけれど、とつるぎは思う。


「ええ。それまで二十年ほど……つまりいまから百二十年ほど前からでしょうか、漁村ガボとリリシシア城下町の物理的繋がりは魔女アッカと入り組んだ森の木々によって阻まれておりましたが、百年前、大商人ライドによってようやくの再開が行われたわけです」

「阻まれる前は放置されてたってことですか?」と湊。


「いいえ……百二十年前、大きな火事が起こった際に、当時の女神――キャルゼシア様より先代、女神デュクシデュクシー様が直々に木々を再生しようとしたそうです。その結果、おびただしいほどに木々が生え、壁のようになってしまいました」


「……そういうのって天使の仕事ですよね?」とつるぎ。「自然を保つために魔法を使うというのは、天使の環境課の業務では」


「ええ。ですがデュクシデュクシー様は決まりを軽率に無視して行動する女神であったとのことです……当時、わたくしはまだマンナカ火山で暮らしておりましたので、伝聞のみの情報となってしまいますが。そもそも実はデュクシデュクシー様がうっかり放ってしまった火だから自分で責任を取ろうとしたのではないか、とすら噂されております」


「なるほど。……女神関連の資料を通読していたとき、たしかに女神デュクシデュクシーはトラブルメーカーというか、思いつきで行動をされているような印象がありました。大変だったでしょうね、当時の大神官や天使の方々」

 とつるぎがいうと、


「そうですね。つるぎ様にそっくりです」

 とパトスはいった。



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