第三話 魔女アッカ - Cパート
「つるぎちゃん、どうしてその男が好きなんだ?」
飲み会を終え、一緒に片づけをしているつるぎに、アッカは訊いた。
「えー? 好きだから好きです。なんで?」
「妹が彼氏で失敗したことあるの思い出して。あたしは他人より自分のほうが面白いと思ってるから恋愛どうでもいいんだけど、でも実際どうしてそんな恋とかするのかなって。好きだから好きといっても、最初に近づくきっかけとかあるだろ」
「そうですね。最初は、湊くん、放っておけないというか。図書室友達だったんですけど、自分の弱さを認められてない感じがして……穏やかでおおらかなとことか、家事が得意なところとか、ちょっと発想が人と違うとことか、いいところいっぱいあるのに、自分は弱いからダメだって、その一点で全部を否定してる人で。弱いくらいみんなどっかそうだし、男の子だから強くなくちゃダメなんて古臭いのに、もったいないな! って感じたのが、距離を縮めようって思った理由ですかね」
「もったいない? なんだいそれは」
「なんでしょう。わたし、もっとこうしたほうがいいとか、こっちのほうがみんなが幸せになれそうとか、いっぺん思っちゃうとどうしても、試してみたくなるんです」
それで迷惑をかけることも多いんですけれど、とつるぎは照れ笑いする。
「あ、そう。つまり可哀想なやつだったわけだ。そこから、好きに繋がるもんなのかね?」
「それが、湊くんのこと肯定して、元気になった湊くんとちょくちょく遊んだりしてたら、湊くんからお礼というか、お返しをしてくれた日があったんですよね。その日から意識しはじめたというか」
「どんなお返し?」
「秘密です」つるぎはいう。「秘密は恋のたしなみですから」
「はっ! つるぎ、大丈夫!? ゴキブリにされてない!?」
「そういう夢とか見てたの? 大丈夫だよ」
森のなかで、つるぎに背負われていた湊は目を覚ました。気絶をしている間につるぎが身体も服も洗浄していたので、茶髪男の体液の臭いはなかった。
「ごめん、つるぎ! 魔女と一対一だったよね、怪我ない?」
「大丈夫大丈夫、飲み会してたら打ち解けた。ワイン美味しかった」
「そ、そうなんだ」湊はほっと胸を撫でおろし、それからつるぎに降ろしてもらう。つるぎが引きずっていた棺を持ち、並んで歩く。「えっと、ここからどうするのかな?」
「湊くんが起きる前にパトスさんに確認したけど、これからリリシシア王国に一旦戻って、また宿で寝るって。起きたら元の時代」
「そうなんだ。……打ち解けたっていってたけど、魔女は、じゃあもういいの?」
「んー、絶対に大丈夫って感じではなかったというか、他の魔女次第みたいだけど。でも塔を出るとき、いってたよ。
他の妹たちも、まあしばらく会ってないけど誰かに迷惑かけようって思うようなタイプじゃないと思うから、気にしなくてもいい……だって」
「そっか。じゃあいったん考えなくていいのかな」
いっぽうそのころ――シタ地方の西方にある町。
宿の一室に魔女・バッカはいた。部屋の外で繰り広げられる、旅人カップルの大喧嘩を観察していた。女が泣きながら別れを告げたところで、バッカは満面の笑みを浮かべた。
「うははは。やっぱり愛だ、なんだ、いっても結局ね、ね、ね! 結局みんな、あのクソとおんなじ……綺麗に繕ったって、どうせ獣、だよね、ね、ね。うちがちょっと、ちょっかい、かけただけで、どんなカップルも別れちゃう……最高だね、ね、ね! うはははは!」
同時期、シタ地方の北方にある――高台の上の一軒家。
魔女・ソーダクラッカーはウーアハ王国から帰ったところだった。そこで見てきた国王の様子を思い出して、にやにやと笑う。
「もう少し、もうちょっと。もうひと息、もうじきだよな……リリシシア王国にも行って、我輩が魔法をまたかけちゃえば、戦争だよな。にやにやにや、まったく、機嫌よくなってきたぜ」
時を同じくして、シタ地方の東、リリシシア王国領とウーアハ王国領の境の森にある――秘境の廃村。
魔女・ブーは、昨日と同じように、一昨日と同じように、先月と同じように、泣きべそをかきながら、廃村のなかをうろうろとしていた。
「えーん。えーん。だいじだったのに。どこにいったのか、どんなのだったか、わすれちゃった。なんでぼくはいつもそうなの。もうやガボくだけじゃなくって、みんなみんな、ぜんぶわすれちゃえばいいのに」
「ところで、次はどんなところに行くの?」と湊は訊いた。
「ガボっていう港町。なんでも、かつて人魚がいたんだって」とつるぎは答えた。
次回、第四話『港町ガボ』。観光とか。よろしくお願いします!




