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猪肉サラダとお飲み物

『きゅうりと猪肉の冷しゃぶサラダ、中華風甘辛ソース和え』


 人数分の前菜が出そろいまして、いただきますの時間です。



「猪をこんな風にして食べるとはなあ」



 猪は実のところ食べ飽きるほどに食べている颯。料理法もそれなりに知っているつもりでしたし、腕の方にもそれなりに自信があったのですが、この料理はやはりおいしそう。


 きゅうりと薄切り肉を一緒にくるっと巻いて、ソースたっぷりつけて、ぱくり。



「おお、これは旨いな」



 沸騰しない温度でじっくり湯通した後氷水に潜らせた猪肉(ししにく)はとてもジューシー。旨味を一切損なわず臭みだけが見事に取り除かれており、これが塩と酢で漬けてぱりっと食感が良くなったきゅうりと見事に調和しています。



「おいしい……」



 凪紗も目を丸くします。まるで猪肉ではないかのような食べやすさ。それでいて猪肉でしかありえない豊かな野味(やみー)


 花椒や五香粉を利かせた甘辛いソースが野性味あふれる猪肉の奥に分け入って、隠された旨味をこれでもかと引き出しているのです。



「うむ、旨いのじゃ。これは酒が欲しくなるの」


「あ、とってくるよ。何がいいかな?」



 腰を浮かせる兵太郎を紅珠がぎゅうと椅子に押しこめます。



「お前様は座っておるのじゃ。酒くらい自分で出す。お前様も酒でよいかの?」


「ありがと。じゃあちょっとだけ」



 日本酒にも白ワインにもビールにも合う前菜ですが、コース仕立てのお料理ですから兵太郎のお仕事はこれからが本番。お酒はほどほどに、です。



「私はワインを頂きますわね。颯さんと凪紗さんはどうされますか? 日本酒とビールもございますわよ」


「おお、嬉しいねえ。んじゃあ俺も日本酒でお願いするかな」


「ちょっとお父さん!」



 遠慮も躊躇もない颯に焦る凪紗ですが、お料理でのおもてなしは兵太郎の趣味です。お客様がお酒があればより楽しめるというのなら奥様達に是非はありません。



「いえいえ、ご遠慮なく。こんなおいしいお料理が食べられるのもお二人のお陰ですから。凪紗さんも良かったら是非」


「いえ、そんな。私は車の運転がありますから……」


「あらあら残念。そうだ、おうちはご近所ですし、お嫌いでなかったら今夜は泊っていかれては? ねえ兵太郎」



 藤葛がぽんと手を叩くと、兵太郎もにへらとわらいます。



「ああいいねえ。凪紗さんは蜂蜜は好き?」


「蜂蜜ですか? 好きですが……いえ、そんな申し訳ないです」



 なぜ急に蜂蜜の話を振られたかわからず凪紗は戸惑いますが、そうそう厚意に甘えてばかりもいられません。


 しかし前菜がよほど気に入ったのか二人の美人女将のせいなのか、颯の方は飲む気まんまんのようです。



「こんな美人さんに酌してもらえるとはありがたいねえ」


「まあお上手。さあどうぞ」


「凪紗ちゃんよー、折角だしやっかいになろうや」


「もう、お父さんったら」



 藤葛に酒をついでもらいながらでれでれと鼻の下を伸ばす父の姿にげんなりと肩を落とす凪紗です。



「ええ、ええ。是非是非。部屋ならすぐに準備いたしますのよ。お隣さんですしご遠慮なさらず」



 ごとんごとんごとん。



「あれ、なんだい地震かね? 今少し揺れたような」


「さあ気のせいではないですか? お部屋も準備できましたし、ぜひ泊っていって下さいまし。凪紗さんもお酒でよろしいですか? 兵太郎、お願いしますわ」



 はあいと間延びした返事をした兵太郎がにへらとおちょこを差し出せば、凪紗だって受け取らないわけにはいきません。



「じゃあ少しだけ……」



 そしておちょこに兵太郎からお酒を注いでもらってしまえば、今夜のお泊りは決定です。飲酒運転ダメ、絶対。



「凪紗さんにはノンアルコールのも用意しておこうか。クロちゃんと同じのでいいかな? お料理にも合うと思うよ」



 兵太郎の言葉にクロはぴょんと椅子から飛び降ります。



「スダチと蜂蜜のジュースです。おいしいのです。凪紗さんも飲んでみますか?」



 ちなみにこのジュース、スダチは市販の果汁ですが、蜂蜜は紅珠を慕う蜂たちが厳選して集めた兵太郎もにへらと太鼓判の極上品です。



「じゃあお言葉に甘えてそちらもいいですか?」


「畏まりました! ご用意します」



 クロはわんわんだばだばと冷蔵庫に向かいました。


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