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凄い奥さんたちの凄い所

 伊達は藤葛が妖力で編んだ真新しい服に着替えさせられていました。さっきまで着ていた服は狸流変身法全自動洗濯乾燥機の手洗いコースで洗濯中です。一時間ちょっとで乾燥まで終わるでしょう。


 藤葛は大妖怪ですので繊維の奥までナノレベルの泡が入り込んで洗浄。洗剤なしでも驚きの白さに。急速乾燥モードでも衣類の繊維を痛めずまるで新品のような肌心地をご実感いただけます。しかも電気代もお得。ほとんどが藤葛の妖力で賄われていますので実質ゼロ。まあなんて凄い。これだけ凄いとお値段の方も気になってきますが?任せてください。そこは大妖怪でしかもできる奥さんの藤葛ですから安心です。兵太郎も知らないうちにお風呂場の近くに設置されていました。実質タダ。まあなんて凄い。


 ちょっと待ってください!実は一台のお値段ではございません。緊急時には二台に増えるんです。えええ! 一台じゃないんですか? ええそうなんです。なんだったら三台にも増えます。まあ、こんなにすごい洗濯機がタダで三台ですか。流石に邪魔では? そこもご安心ください。だだっぴろいこくり家ですから三台あっても邪魔にはならないんですが無駄ですからね。不思議空間に収納できますので場所を取らないんです。わあすごい。場所を取らないのは素敵ですね。はい、音も静かですからご近所への配慮も不要。夜中でも安心。でもこくり家の近所には他の家がないので元々配慮不要なんです。へえーそうなんですね。



 さて通販のCMはこの辺にして物語へと戻ります。こんなんいくらでも続けられますからね。



***


「こりゃあけっこうなもんご馳走になっちまって」



 伊達が飲んでいるのは兵太郎の淹れたハーブティー。カモミールやレモンバームなどのリラックス効果の高いハーブをブレンドした兵太郎のオリジナルです。


 ほっとする香りに伊達も大分落ち着いて、紅珠と会った時のことや鶏を飼育することになったいきさつをおしえてくれました。




「紅珠様に分けていただいた鶏がはあ忘れられませんで、それが高じてとうとう自分で作るようになったんでさあ」


「なんとまあ。いたずら鼬がずいぶんと出世したものじゃ」


「へへえ、お恥ずかしいこってす」



 伊達はぼりぼりと頭を掻きました。


 昔話を聞きながら賄いご飯を作っていた兵太郎、何やら神妙な気持ちです。



「ずっと前に伊達さんと紅さんが会って、伊達さんが鶏肉が好きになって、それを一緒に食べるのってなんだかすごく不思議だね」


「へえ兵太郎さんの言う通りで。あっしとしましては恩人の兵太郎さんが恩神の紅珠様の旦那様だったてえのが何よりの驚きでさあ。ありがてえありがてえ」


「うむうむ。儂も運命的なものを感じるのじゃ。きっと何百年も前からこうして儂らが結ばれることは決まっとったのじゃな」


「へえ、まったくその通りにちげえねえです」



 ありがてえありがてえ、と伊達は兵太郎と紅珠を拝みはじめてしまいました。慌てたのは兵太郎です。



「やめてください伊達さん。お世話になってるのはこっちなんですから」



 紅珠は神様ですが兵太郎は人間。それも割と駄目な方の人間です。拝まれても困ります。でも実は運命とか百年前からとかその辺は否定してません。兵太郎もそうだったらいいなと思っているからです。


 それを見ていた藤葛、こほんこほんと咳払い。



「一応申し上げておきますけど、私も兵太郎の奥さんですので。そこはご理解くださいましね」



 紅珠と伊達の昔話は興味深いですし、兵太郎も一目置く鶏肉や卵につながったのはめでたいことですが。でも紅珠だけを奥さんと認識されるわけにはいきません。



「へえへえ、勿論でぇございます藤葛様。悪名高い大狸を成敗なさったはぁ偉い方だ。藤葛様も兵太郎さんの奥さんにふさわしい凄い方だあ」



 伊達は手を合わせますが、藤葛はちょっと不満です。



 伊達が悪狸を退治した藤葛を凄いと思ってるのは本当でしょう。


 でもなんか違うのです。紅珠のエピソードと比べると弱いのです。なんかこう、運命が~的な部分で負けているのです。正ヒロイン度が足りないのです。ダブルヒロインは仕方ないとしても負けヒロインは駄目です。そこに一定の需要があるのは確かですが、今はそれは関係ないのです。



「もう。そんな物騒なお話ではなくもっと別の所で凄い、奥さんらしいと認められたいのですが。こんなこと言っても仕方ないですわね」



 ふうとため息をつく藤葛に、兵太郎は不思議そうに言いました。



「でも藤さんてとっても凄いし奥さんらしいと思うんだけど、って僕が言うのも恥ずかしいけど」



 えへへ、と最後の方は照れ笑い。ちょっと気をよくする藤葛です。



「では兵太郎、私の凄いところを一つ上げてくださいな」



 拗ねたふりをして面倒くさい系女子にありがちな質問をしてしまう藤葛。兵太郎はうーんと首をひねります。おや。珍しくちゃんと考えているようですね。


 さて家や畑を一瞬で作ってしまう藤葛。凄い所ならいくらでもあげられそうですが、敢えて一つ選ぶなら……?



「やっぱり美人で優しい所かなあ」



 あっ、今二つあげました。ずるいぞ兵太郎。



「まあまあ、嫌ですわ兵太郎」



 おほほほほほと嬉しそうな藤葛。すっかり機嫌も直って面倒くさ女子モードも解消です。



「私、お洗濯の様子を確認してまいりますわね。伊達さん、どうぞゆっくりなさって下さいまし」



 るんるんと足取りも軽く、廊下の奥へと消えていきました。



「むう。藤葛めうまくやりおって」



 ちょっと悔しい紅珠。でも今兵太郎に同じことを聞いても同じ答えが返ってきそう。それにもし違う答えが返ってきたらもっと悔しくなりそう。


 違うんです。丁度いいタイミングでオリジナルに褒めてほしいんです。となれば別の機会を狙うしかありません。大丈夫。チャンスはきっとやってきます。



「兵太郎さん、アンタやっぱすごい人だあ」



 やり取りを見ていた伊達はえらく感心したのでした。



 さて兵太郎に自分の仕事を認められ、鶏を作る妖怪としての力取り戻した伊達。恩人でしかも同じく恩神の紅珠の旦那さんである兵太郎には、ほとんど崇拝に近い思いを抱いております。


 でもまだ伊達は知りません。兵太郎が本当にすごいのはここからなのです。


 さあ最高の鶏と卵を作る伊達に、最高にした鶏と卵を食べてもらいましょう。



 とんとんからり、とんからり。


 

 かくして包丁や鍋たちが、不思議なリズムを刻み始めました。


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