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伊達さん

 駐車場に入ってきた車は大きな白いワンボックス。大分使い古されているようで、兵太郎のおんぼろ車といい勝負。


 クロは車の周りをぐるぐる回り、お客様が下りてくるのを今や遅しと待ち構えます。幸い雨もあがり、日も差し始めました。お客様をお迎えするにはちょうどいい。


 興奮のあまりクロは子供の姿に戻ってしまった上に、耳としっぽが出てしまってます。大変大変。人に見られたらコスプレ男の子と思われてしまいます。



「クロちゃん、駄目だよ駐車場は危ないから」



 後ろから追いついてきた兵太郎にひょいと持ち上げられてしまいました。



「あっ、ごめんなさい兵太郎」



 やる気が先走りすぎてしまいました。クロは大反省。それはそれとして兵太郎に抱っこされてしまいました。やったね! 従者としてはいけないことですが不可抗力なので仕方がありません。



 ばん、と音がしてワンボックスから降りてきたのはよれよれの服を着たみすぼらしいおじさんでした。車と同じように使い古された服もしわくち、無精ひげだらけ。お客さんにはとても見えません。



「あっ、伊達(だて)さん! 」



 でもおじさんを見た兵太郎はぱっと笑顔になりました。クロを下ろすと嬉しそうに手を振っています。抱っこは終わりのようです。残念。おじさんも顔を服と同じようにしわくちゃにして兵太郎に手を振りました。


 伊達と言うおじさんはどうやら兵太郎の知り合いのようです。



 あれ? でもこのヒト……?



 ……。



 とても上手に化けていますがクロの鼻はごまかせません。



「何奴! 兵太郎に手を出すなら容赦はしないぞ!」



 クロは兵太郎の前に立ちはだかり、全身の毛を逆立てて牙と爪でしわくちゃおじさんを威嚇します。おじさんはびっくり仰天。うひゃあ声を上げると濡れた地面に尻もちをついてしまいました。



「わあクロちゃんどうしたの。伊達さん大丈夫ですか?」



 兵太郎が駆け寄ろうとしますが後ろからクロに抱き着かれて止められてしまいました。小さいのにとんでもない力です。



「駄目です兵太郎。この(ヒト)人間ではありません!」


「ええ、そうなの?」



 がっちりクロに抑え込まれた兵太郎。兵太郎は尻もちをついているおじさんと後ろから抱き着いてくるクロを交互に見やって首をひねります。



「でも、伊達さんだよ?」



 クロは伊達さんを知りません。でもって言われても困ります。でも妖怪が伊達さんに化けているのはわかります。



「兵太郎、この人は伊達さんじゃありません。妖怪が伊達さんに化けているんです」



 クロがにらみつけると伊達のおじさんに化けた妖怪がひぃいと後ずさりました。



「待って待って、クロちゃん。その人伊達さんだから。妖怪かもしれないけど伊達さんだから」


「いえ、そうではなくて妖怪が伊達さんに化けて」


「ううん? だって伊達さんが妖怪なんでしょ?」


「?」


「?」



 かみ合わない主従の会話。おかしいのはどっちでしょう?


 二人の頭の上にぽわんと「?」が浮かびました。妖怪「絵妄魈(えもうしょん)」のいたずらです。漫画やアニメではよく見かける妖怪なのですが、小説に出てくるのは珍しい。



「お待ち下せえ強い方。確かにあっしは妖怪。でも兵太郎さんになにかしようなんて気はこれっぽっちもねえんでさあ」



 仰向けに倒れたままおじさん妖怪が言います。どうやら伊達さんに化けている妖怪なのではなく、伊達さんが「何か」の妖怪のようです。一応えええ、と一応律義に驚く兵太郎。でもそれだけでした。



「伊達さん本当に妖怪だったんだ。知らなかったなあ」



 兵太郎はするんとクロの手から抜け出すと、ひっくり返ったままの妖怪伊達さんを助け起こしました。



「えっへっへえ、やっぱ兵太郎さんだあ。あっしはアンタが大好きだあ」



 うえっへっへ、と伊達さんは笑います。妖怪みたいな笑い方だなとクロは思いました。でも兵太郎は伊達さんのことをすっかり信じ切っているようです。




「伊達さんごめんね。びっくりさせちゃって。クロちゃん。伊達さんは凄い人……人じゃないかもしれないけど凄いんだよ。ほらそんな怖い顔しないで、ちゃんと挨拶して」



 クロは困ってしまいました。妖怪は追い出さなくてはいけません。それは奥さんたちから任された大事なお仕事です。でも兵太郎の言うことに逆らうこともできません。



「どうか信じて下せえ強い方。あっしは兵太郎さんに助けられた身。兵太郎さんに恩を返したいという思いはごぜえますが、悪さあしようなんてとんでもねえです」



「ええ、僕何もしてないですよ。伊達さんにはこっちこそお世話になって……」



 妖怪にぺこぺこと頭を下げる兵太郎。



「兵太郎さん、アンタわかってねえんだあ。アンタのお陰であっしがどんだけ救われたか。アンタあっしの命の恩人だあ」



 うえっへっへ、と伊達さんは笑いました。



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