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古杣とヨナルデ・パズトーリ

 音也のクリエイターネームになっている古杣(ふるそま)とヨナルデ・パズトーリはどちらも音にまつわる妖怪です。


「やなり」と同じように、姿を持たない音だけの妖怪と言うのはとても多いのです。有名どころでは「あずきとぎ」や「うわん」、「べとべとさん」などがいます。


 古杣(ふるそま)というのは夜中に木が倒れる音がするという怪異、ヨナルデ・パズトーリは夜中に斧を木に打ち付ける音がするという怪異です。


 朽木音也という本名と、過去の音にまつわる体験から音也が自分で自分につけたのでした。


 クロと名乗った少年はカフェらしき二階建ての大きな建物ではなく、その裏へと進んでいきます。どうやらクロのお父さんとお母さんは外で何かしているようです。


 クロ少年に続いて店の裏に回るとそこには畑がありました。。ずいぶんと大きな畑です。いろいろな作物が植えられているようで、中には実をつけた木もあります。


 畑にはお父さんらしき男の人ともう一人、クロのお姉さんでしょうか? 小柄な少女がいました。


 男の方は間の抜けたような顔を除けばごく普通のぱっとしない服装のぱっとしない人物ですが、少女の方は実に特徴的です。


 目の覚めるような紅色の着物と非常に整った可愛らしい顔立ち。ぬぼーっとした隣の男とは対照的で、二人が親子だといわれてもにわかには信じられません。


 着物姿の少女は様々な農作物がひしめく畑に向かってなにやら大きな声を上げていました。



「では今日の採用は以上のモノ達とする。本日選ばれなかったモノ達も悲観することはないぞ。ここにいる時点でお前たちは兵太郎が選んだエリートじゃ。自らを卑下することまかりならぬ。だが同時に慢心も許されぬ。いつ声がかかっても良いよう各自より良い品質目指して精進するのじゃ」



 普通の人間が見れば驚くか呆れるかのどちらかでしょうが、声と言うものに人一倍の関心を持つ音也には大変興味深い光景です。


 植物も音楽を聴くとか、褒めてあげるとおいしくなるなんて話を聞いたことはありますが、激励も効果があるとは知りませんでした。


 そう思いながら見てみると、植物たちもなんだか盛り上がっているような。演説が終わるとうおおとばかりに両手を振り回し……。



 ……と、これは流石に気のせいですね。たまたま風でも吹いたのでしょう。そこに音也の感性が音声を読み取っただけのことです。


 それにしても良いものを見、良いものを聞きました。



 まさかリアルののじゃろりに遭遇することになろうとは。



 年下の属性と言うのは音也の範疇ではありませんが、実際に触れてみると需要があるものにはやはりそれだけ力を持っているのだということがよくわかります。


 綺麗なお姉さんの優しい声と言うのが古杣やヨナルデ・パズトーリのウリではありますが、こういった要素も加えてみるのも悪くないかもしれません。



「兵太郎、紅様、保健所より使いの方がいらっしゃいました!」



 おっと、いけない。クロ少年の声に音也は我に返ります。


 そうでした。今の音也は「保健所職員」朽木 音也です。「寝落ち請負人」「自律神経調律師」古杣でもなければ、「深淵の誘惑」「音罪」ヨナルデ・パズトーリでもありません。


 クロに呼ばれて振り返ったお父さんとお姉さんらしき二人に音也は軽く頭を下げました。



「おお、査察の方じゃな。今日はよろしくお願いするのじゃ」



 着物姿ののじゃろり少女が音也に頭を下げました。隣であーどうもーとか言っている父親なんかよりよほどしっかりしています。



「こちらが店主の兵太郎。儂は兵太郎の奥さんですのじゃ」



 胸を張るのじゃろりに、音也はズッコケそうになるのを必死でこらえました。令和も六年ですから何とか耐えることができたのです。



「七年じゃぞ?」



 え? マジで? うわほんとです。びっくりです。令和も五年→「六年じゃぞ?」というネタの予定だったのですが確認してよかった。



「お、奥さん?」



 メタなネタをスルーしてズッコケを回避した音也は戸惑います。これは少女の冗談でしょうか?


 のじゃろりはどう見てもまだ少女と言う年ごろですが、年齢は見た目での判断は難しいもの。もしかするとと思ってみれば着物姿ののじゃろり少女にはある種の貫禄も見て取れます。


 そういえばさっきの演説もそうでした。音也にはわかります。ただ文章を読み上げただけではなく内容に心が追い付いていて、見た目通りの年の少女には似つかわしくない迫力でした。


 だからこそ音也は作物たちがざわめく姿を幻視したのです。幻視でなければ互いを励ましあい、肩をたたきあうセロリがいるはずがありません。


 でもそれにしても若い。若すぎる。お父さん大好きっ娘が奥さんごっこをしていると言われればそっちの方が納得がいってしまうのも確かです。


 男の方はというと、デレデレしながら「あーそうです。僕の奥さんです」などと言っていますが娘に懐かれて喜んでいるだけかもしれません。あんまり参考になりません。



 音也は判断を保留することにしました。



 保健所職員ですから、家庭の事情とかは気にしなくていいのです。世の中にはいろいろなご家庭があります。


 音也が気にしなければいけないのは何故か二階建てになっているカフェの方です。



 さてのじゃろり少女と冴えない男をメンバーに加え、一行はいよいよカフェへと向かいます。



 そこで音也は過去の呪い、あるいは福音との再会を果たすのでありました。


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