山路と若木
「え、あんたあの時の嬢ちゃんかよ。うわあ、別嬪さんになって。助けた甲斐あるわあ。こういう時守り神やっててよかったなーって思うよなあ。え、なになに、どうしたの?」
若木は喋りまくる山路にぴっとりと寄り添い、その大きな体に枝を撒きつけました。
「え、なに? 紅珠これどういうこと?」
「どうもこうもあるか。お前が転げ落ちてから今までずっとお前の傍におったんじゃ。そういうことじゃろが」
「いやなに言ってんの紅珠? 若木ちゃんダメだって。儂じいさんだよ? あんた木の娘だろ? 人生これからなんだから、もっと若くていい男捕まえなよ。人間のさあ」
山路の言葉に若木はショックを受けたように硬直してしまいます。
「お前は変わらんのう。木石だってもっとましな反応をするぞ」
「俺は石だし若木ちゃんは木だが」
「そういうのいいから。心配するでない木の娘よ。こやつはちゃらいが実は女が苦手なのじゃ。特に自分の好みのタイプにはの」
「うおい紅珠、そういうの言っちゃったらだめでしょ? だいたい愛とか恋とかってゆっくり時間をかけながらお互いの気持ちを尊重しつつ」
「尊重するというならちゃんと尊重せい。ぶっちゃけ割と好みじゃろ?」
「いやそうだけどさあ、って何言わせんの。駄目だって俺もうただの岩だから。お付き合いとかしてもつまらないし」
「面倒くさい奴じゃの。お前が只の岩であるはずがなかろう。ほら、もう一度見よ。これがお前の今の姿じゃ」
紅珠は神通鏡を取り出して、再び山路の姿を映しました。
「ちょ、やめて。見せないで。ショック受けるから……。おや?」
山路はしげしげと鏡をのぞき込みました。と言っても岩なので、とくに動きはありません。
「紅珠、もちょっと左の方映してくんない? そうそう、んで下から見る感じで、あ、もうちょい左……あ、行き過ぎ」
「ほんとに面倒くさい奴じゃ!」
「ほほうほう。顎の苔のとこもっかい見せて」
「どこが顎じゃ!」
文句を言いながらも紅珠は山路の指示通りに鏡を動かします。
「……紅珠、しめ縄とか持ってたりしない?」
「それな。残念ながらもっとらんのじゃ」
「だよなー。持ち歩かないよな。でもしめ縄なしでこれとか、もしかして俺、結構イケてる?」
実際かなりイケてるのですが、肯定するのも嫌です。しかし今は山路には自信を取り戻してもらわないといけません。
「……まあそこそこイケてるんじゃない?」
紅珠に賛同するように、若木もわさわさ揺れました。
「若木ちゃんありがと。マジでそう思う? マジでマジなやつ?」
わさわさわさわさ。
「ん~、んじゃ~、もういっそ、つきあっちゃおっかあ!」
わさわさわさわさわさわさわさわさ!
こうして道祖神山路と木の娘の若木はお付き合いをすることになったのでした。
めでたしめでたし。
「んじゃそういうわけで。紅珠、またな!」
「わさわさ」
「いやいやいや、待て待て待て待て!」




