皮算用
兵太郎とクロの男性陣は先にお風呂へ行きました。
その間、奥さん二人は店内で借金について話し合っています。
「予想通りとはいえあくどいのう。無一文の中三月で家を建て直し、利益を出さねば借金地獄とは」
「払えないのが前提でしょうね」
「ま、そうじゃろうな」
兵太郎の財産はこの家と土地のみ。返済ができなければ、兵太郎はさらなる借金を負わされた上、家と土地を取り上げられてしまいます。
ここまでは先方の中では決定事項なのでしょう。
でも、 それは捕らぬ狸と狐の皮算用。
おあいにく様、お気の毒様。
当世風にいうなら、ざまぁ。
この家と土地。どちらもやすやすと奪われるような方々ではないのです。
「もしも払えてしまったならどうなるのでしょうね」
「くかかっ。それはとても困るじゃろうなあ」
兵太郎を騙して土地を売った友人、仲介の不動産屋に怪しい金貸し。
彼らはもちろん許せません。でもその後ろには、もっとあくどい者たちがいます。
手に入るはずのものが手に入らないとなれば、兵太郎の友人たちは後ろにいる者たちから制裁を受けるでしょう。なんとかしようと躍起になって手を出してくるはずです。
さらにどうにもならないとなれば、後ろの者たちも出てくるかもしれません。
「当面の目標は再来月、八月末の返済ですね」
「うむ。そのあとどう出てくるかじゃのう」
「うふふ、楽しみですわねえ」
「なあに、案外何も起こらず、平和に店をやれるかもやっておれるかもしれんぞ?」
「ええ、ええ。確かに。そんな可能性もありますわね」
ざわり。
店内の照明が作る二人の影が一瞬だけ濃さを増し、大きな二匹の獣の形をとりました。妖気に引き寄せられた物の怪たちが、二人の心に呼応して、鏡や家以前の本来の姿を描いたのです。
兵太郎によって、かなりの力を取り戻している二人。
悪党どもが動き出すであろう二か月後、夏が終わるころには、さらに力をつけていることでしょう。
さあその時には黒幕気取りの小悪党どもに、存分に思い知らせてやりましょう。
自分たちが一体、何に手を出したのか。




