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狗のチョコレートケーキ

兵太郎と、二人の奥さん紅珠と藤葛、それに家来のクロ。


 家族四人で三時のおやつです。


 ところでなんで電話って二番何でしょうか。



 テーブル席に運ばれてきた来たのはチョコレートケーキ。


 チョコレートの艶やかな光沢を放つ生チョコクリーム(ガナッシュ)がケーキ全体を美しくコーティング。


 上面はカールした削りチョコレートチョコレートシェービングで一面を覆われています。


 カットされた断面は黒一色、と思いきや、チョコレートスポンジと濃厚ガナッシュの五層仕立て。


 見た目だけでもチョコレートのあの甘さと香りが漂ってきそうな一品です。




「兵太郎、兵太郎、凄いです!チョコレートで作ったチョコレートの塊です!」



 紅珠と藤葛の席に置かれたチョコレートケーキを見てクロが兵太郎に報告しました。


 クロなりの感動を伝えたのですが、あまりおいしそうに聞こえませんね。


 兵太郎の席にもケーキが置かれます。


 家来のクロの分は一番最後。それは当然です。分をわきまえて、クロは他の席に置かれた光を放つチョコレートケーキを見てワクワクしながら大人しく自分の分を待ちました。


 でも、残念。


 クロのケーキが一番最後なのは、クロが家来だからではありません。


 だってこのケーキは兵太郎が、クロの為に作ったのです。



「はいお待たせ。クロちゃん、これからよろしくね」



 ことりと目の前に置かれた眩いばかりの光を放つケーキには、砂糖菓子で作られた真っ白なプレート。


『クロちゃん』の文字と、狗の姿の自分の似顔絵が、チョコレートで見事に描かれていたのでした。



「わあ、わああ!兵太郎、兵太郎、ありがとう!」



 クロは奥さんたちの前であるのも忘れて思わず兵太郎に抱き着いてしまいました。もしも狗の姿のままだったら、顔を嘗め回さずにはいられなかったでしょう。


 抱き着かれた兵太郎は照れたようにぽりぽり頭を掻いています。



「こ、こら、離れるのじゃ。兵太郎に抱き着いていいのは奥さんが抱き着いている時だけじゃ」


「あっ、ごめんなさい紅様」


「まあまあ、紅さん。クロの気持ちはよくわかります。今回は許してあげようじゃありませんか」


「藤よ、貴様クロに甘くないか? しかたない。今回は特別じゃぞ。こんなことなら儂も最初狐の姿で来て兵太郎を嘗め回しておくんじゃった」



 ぶつぶつ言いながらも、紅珠も特別に許してくれました。



「さあいただきましょう。もうおあずけは沢山ですのよ」



 もこもこ犬の毛皮のようなチョコレートシェービングの下、表面を覆う生チョコクリーム(ガナッシュ)は硬めに練られており、フォークを当てるとこつんとかすかな音を立てて割れました。


 フォークで切り出した一かけらを口に含むと、濃厚な香りが口いっぱいに広がります。


 生チョコレート(ガナッシュ)の滑らかさと深いコクは、まるで溶け込むような舌触り。


 シェービング、解けだず温度の違う二種のガナッシュ、チョコレートスポンジ。


 食感の違うチョコレートの三重奏が、口いっぱいに広がります。



「おいしいです、兵太郎!チョコレートよりもチョコレートです!」



 舌足らずなクロの感想は、奇しくもこのケーキを見事に表現していました。



「旨いのう。スポンジのところの酸味がまたよいのじゃ」


「香りも良くてすっきりしますわね」




 奥さんたちが気が付いたとおり、チョコレートスポンジの層が重なる部分にはオレンジジュースをベースにしたシロップ液(ポンシュ)がしみこませてあります。

 

 ポンシュには香りづけの為にお酒も少しだけ使っていますが、クロに合わせてしっかりとアルコールは飛ばしてあります。


 ポンシュの程よい甘さと酸味、爽やかでフレッシュな香りは、チョコレートよりもチョコレートなケーキをより完璧に仕上げています。

 


「あ、嬉しいな。チョコとオレンジって合うよね」



 奥さんたちに褒められて、兵太郎はいつも通りの締まりのない顔で、にへらと笑いました。



「じゃあ僕は珈琲を淹れてくるよ」




クロちゃんは妖怪なのでチョコレートを食べても平気ですが、チョコレートは犬にとって毒です。決してあげないでください。


多分キツネやタヌキにとっても毒だと思います。ご注意下さい。


他の食べ物についても同様です。


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