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仕えたいのはあなたのせい

「……はーい」



 はい、手を上げている兵太郎。発言どうぞ。



「良かった。ずっとしゃべれないのかと思った。ええと、君も妖怪っていうことだよね?」



 あこがれの兵太郎に声を掛けられ、狗狼(くろう)族の男の子はきらきらと目を輝かせます。



「はい。その通りでございます」


「昨日ショッピングモールであった子だよね?なんか雰囲気違うけど」


「はい。兵太郎とボクは昨日は優しいお兄さんと可愛い弟という間柄でしたが、今は主従。同じように接することなど到底できません」



 過去の二人の間柄についても認識に相違があるようですが、兵太郎はそのことには触れないことにしました。突っ込み切れませんからね。



「そこがわかんないんだけど。なんで主従だなんて言い出してるの?」


「はい。兵太郎が店内でにやにやしながら買い物をされているのを見て、素適な方だなあと思っていたのですが」


「うーん。そんなにやにやしてたかなあ」



 してましたよ。兵太郎には自覚がないようですが、買い物かごに商品を一ついれてはにへら、一つ入れてはにへらと締まりのない笑みを浮かべてました。


 人間のお客さんたちには遠巻きに苦笑されていましたが、妖には好評だったようですね。



「こんな方にお仕えできたらいいなと思いながら後をつけていましたら、目が合ったのでせめてご挨拶をと思い近づいたのです」


「ううん? 早くもわからなくなってきたよ?」


「そうしたらなんとチョコレートを賜りました。なので兵太郎とボクは主従関係になりました」


「ううん???」


「あとは奥方様二人にご了承いただければ、晴れてボクはこの家の子として兵太郎に仕えることができるのです」


「ちょっと待って。ええと?」



 兵太郎は混乱してしまいました。この子がすごくおかしなことを言っているのはわかるのですが、おかしすぎて具体的にどこがおかしいか指摘することができないのです。


 助けを求める様に二人の奥さんを見やりますが、何故か奥さんたちは渋い顔をしています。



「あらあら、兵太郎? この子にチョコレートをあげたのですか?」


「困った旦那様じゃのう。妖に好かれやすい体質だというのは伝えたはずじゃが。お前様が妖に物をやることの意味、ちょっと考えればわかるじゃろ?」



 困ったものだ、と言わんばかりの奥さんたち。でもちょっと考えればと言われても、考えるのが苦手な兵太郎にはさっぱり訳が分かりません。



「チョコあげるのって駄目なの? 」


「お前様よ、他に彼女がいるのにヤンデレ属性の女にプレゼントを贈る男についてどう思う?」


「刺されると思うし、刺されても仕方ないかな」


「じゃろ? お前様がしたのはそういうことじゃ」


「えええええ……」


「良い例えです。ヤンデレを引き付けまくる男の彼女の身にもなって欲しいものです」


「えええええ……」



 確かによい例え。この例えで言うとその彼女というのもきっと、ヤンデレ属性持ちに違いありません。




「でもさあ。この子が妖怪だなんてわからないじゃない」


「お前様。最近だとそういうの、人間相手でもアウトじゃからな」


「知らない人からチョコレート貰ったとか、不審者扱いで通報されますからね。むしろ妖怪でセーフだったかもしれません」


「えええええ」



 世知辛い世の中ですが仕方がありません。世の中には妖怪よりよっぽど悪い人間がいますからね。



「ううむ。主と慕う兵太郎から物を貰ったとなれば、道理はこ奴の方に道理はある、か」


「だ、そうですよ。良かったですわね。その忠義、しっかりと兵太郎と私たちに捧げなさいな」



 両方の奥さんからOKが出て、狗狼の男の子は飛び上がらんばかりに喜び、その後慌ててまた地面にひれ伏しました。



「ありがとうございます! 許される限り、お仕えいたします!」


「うむ。じゃが、ちゅうは駄目じゃからな!」


「そうですよ。ほどほどになさい」


「駄目じゃ、と言っとろう!」



 こうして、狗狼の男の子は兵太郎と主従関係となったのでした。



「……はーい」



 はい、手を上げている兵太郎。発言どうぞ。



「あの、主従とか仕えるとか言われても困るんだけど……」



 しん、とした静けさと、この流れで今更そんなこと言い出すの? という空気が場を満たします。



「そ、そんな!」


「お前様、それはあまりに酷というものじゃぞ」


「流石に可哀そうですわ」


「え? あれ? 僕の発言の方がおかしい感じ?」



 アレなところ以外では現代の一般的な人間である兵太郎には、仕えるとか仕えられると言う言葉はピンとこないようです。



「まあまあ。そんなに難しく考えなくても。喫茶店をやるのでしょう? 兵太郎が店長なら、この子は住み込みの従業員として使ってあげればよいのでは?」


「うむ。小童のくせに儂らの妖気に耐えおった、なかなか見どころのある奴じゃ。良い働きをするじゃろうて」


「あ、そういうのでいいの?」



 男の子はぱっと顔を輝かせます。



「はい! なんなりとお申し付けください!」



 こうして、狗狼の男の子は、そのうちオープンする喫茶店の従業員となることが決まったのでした。






「で、店はいつ開くんじゃ。オープニングからもう一月半も経つんじゃが?」


「経ってませんよ。まだ三日目です」


「あれ? そうじゃったっけ?」

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