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狼限無

「なんだこいつ、バケモノか?」



 はい正解。そこのチンピラ風の社員さんに5点プラス。


 突然現れて英を押さえつけていた三人を吹き飛ばしてしまった少年に、集金屋の社員たちはどよめきます。



「てめえら、なにビビってやがる! 相手は所詮ガキ一人だろうが!」



 集金屋のボスの八見(はちみ) 金太(きんた)が机の上にあるボタンを押しながら手下たちを叱咤しました。


 この少年、確かに腕は立つのでしょう。しかし一人でやってきたのは大間違いのコンコンチキ。寧ろこれは大チャンス。八見はひとりほくそえみます。


 少年が口にしたこくり家といえば、例のあの老人が欲しがっていた喫茶店です。


 少年を捕らえてこくり家の主に迷惑料を請求してやれば、暴力怖さに家を明け渡してくれるでしょう。コツは散々脅した後、最後に逃げ道を用意してやること。


 あの家さえわたしてくれりゃいいんだ。悪い様にはしない。なんだったら逆に少しばかり金払ってやったっていいんだぜ?


 奥の扉が開いてぞろぞろと手下たちが入ってきました。その数なんと10人。八見が机の上にあるブザーで呼んだのです。


 あの老人は迷惑ジジイではありますが、良い客であるのもまた事実。顧客満足度の向上のため、八見は手下たちに命令します。



「ガキだろうが構わねえ。痛めつけて大人の怖さってやつを教えてやれ!」



 勝ち確定モードで間合いを詰めてくる手下たちに、クロは内心ため息をつきました。


 本当に暴力を振るうことに慣れ親しんだ者ならともかく、抵抗できない相手を一方的にいたぶってきたような連中です。クロからしてみればいつぞやこくり家にインネンつけてきた高校生たちと一緒。


 いくら数が増えてもどうと言うことはありません。


 しかしそれはそれとして、主をたばかり、主の友人に暴力を振るった彼らにはそれ相応の報いをくれてやらねばなりません。


 彼らが「集団」をして力というのなら。


 その力、存分に見せつけてやりましょう。



 さあ、悪夢の始まりです。



 うぉおおおおおおおーーーーーん!



 少年の口から発せられるのは、魂消るような獣の咆哮。


 それに物の怪達が応えます。


 クロの影が三つに分かれ、そこから這い出して来るのはクロと寸分違わぬ姿の三人の少年。


 クロイチ、クロジ、クロゾウ。


 実体のない分身の身ながら主兵太郎より名を賜った、接客もこなせるスーパーエリート。ちなみにこの三人を見分けられるのはクロ自身と兵太郎だけです。



「え、あ……? 何、えっ?」



 (オオカミ)の咆哮を間近で聞かされ、既に戦意喪失をしているところに起きた理解不能な出来事に、集金屋の手下たちは反応(リアクション)出来ません。



「な、何をしている貴様ら。相手はたかが子供四人だ。とっととやってしまえ!」



 随分な無茶を言うものです。さっき一瞬で三人の男が吹き飛ばされました。そんな相手が四人。理屈的には一瞬かからない時間で自分たちは吹き飛ばされてしまいます。


 じゃああんたがやってくれよ、と言うのが手下たちの本音です。


 大体、たかが四人って言うけど、さっきまでたかが一人だったじゃん。どういう理屈で四人になったんだ。



 しかし、まだ悪夢は終わりません。



 うぉおおおおおおおおおーーーーーん!



 呼び出されたエリート分身たちは即座に自分の役目を理解して、それぞれに高く吠えました。分身体でありながら接客を任せられる程の彼らです。それができないはずがありません。


 彼らの影から、更に分身たちが飛び出します。


 各々三体、合計、本体含めて十三体。


 一瞬で三人を蹴散らす少年が十三人。一瞬で三人だから、それ十三人いて、こっちが十人だと、ええと? あれ、こっちの人数って合ってる?


 もう計算もできませんが、こんなの駄目です。無理です。こわい。何なら泣きたい。助けてお母さん。


 しかし無情にも、イケメン少年集団のリーダーは同じ顔をした手下たちに命令を下します。



「命は取るな。怪我もさせるな面倒だ」



 その意味を完全に理解して、普段は表情に乏しい分身たちが口の端を吊り上げました。その口元には白く輝く(オオカミ)の牙。



「その上で我らが主をたばかった罪の重さ、骨の髄まで叩き込んでやれ」



 ******



 さてタグのついていない暴力シーンはカットいたしまして、集金屋の地下室には十数人の社員が転がされております。


 詳しい描写は省きます。大丈夫、みんなちゃんと生きてます。



 あっ。



 どかっ、がきっ、べきっ。



 死んだふりをして逃亡を図った卑怯者がいたようですが、大丈夫、みんなちゃんと生きてます。



「お伺いします。英さんの借金は、後いくら残っていますか?」



 イケメン化け物集団のリーダーが、イケメン化け物に囲まれてコンクリート床に這いつくばっている集金屋のボスの八見に聞きました。



「ひ、ひいいいいっ、ありません、一円もありません!」


「あれっ? おかしいな。ボクの計算違いかな? あなた達が今まで英さんから取り立てたのって……」


「うひいいいいっ、か、返します。全部返します」


「そうですか。それは良かった」



 そもそも、英に借金は在りません。取り立てられなかった分を支払う義務などありません。そこを暴力で無理を通すのが集金屋。


 彼ら自身がそれを認めてしまえば、全額返金は当然です。



「ついでにお伺いします。当店の、こくり家の借金はいかほどでしたっけ」


「ひいいいっ、無いです、無いです。ゼロ円です」


「そうですか。それはどうもありがとう」



 クロは集金屋のボスとボコボコにされた集団に向かってぺこりと頭を下げました。


 この国では違法な金利での貸し付けは許可されていません。あまりに法外な金利に至っては原本の返却義務すらありません。


 それでもいわゆる闇金は存在します。返済義務はなくても彼らは暴力や迷惑行為をもちいて「取り立て」を行います。それに抗うことはとても難しい。


 決して許してはいけない行為ですが、返さなくてもいいよと言うなら話は全然変わってきます。


 つまりこの人たちはこくり家の為に、善意の寄付をくれたありがたい人たち、ということです。頭を下げるのは当然です。



 どうやら悪夢が終わったとホッとする集金業者たち。



「最後にもう一つだけお聞きします」



 びくりと肩をすくめる彼らに向かって少年の姿をしたバケモノが言いました。



「貴方たちにこくり家を買い戻すように指示した、クソジジイさんのことを教えて下さい」


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