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科学的根拠

「はぁ、はあ、ふう」



 雑兵は真っ二つになった車から何とか這い出しました。


 ドアは地面に接しているらしく空きませんでしたが、それ以外で開いてる部分が多いので問題ありませんでした。


 それにしても一体何が起きたのでしょう。道の真ん中にたたずむあの猟師の娘を見つけ、はねてやろうと車を加速して。


 それから娘が大きな刀を振りかぶって……?



 いやいや。ナイナイ。ありえない。



 衝突のショックによる混乱でしょうか? もしかすると気を失っていてその間に夢でも見たのかも。そうに違いありません。それが一番科学的です。


 心の芽生え塾は世界の真実を求める者たちの学び舎。花蕾である雑兵は科学にも精通しています。文学部出の青二とは違うのです。


 もう一つの車からは同じように青二と、それに助けられるようにして弥津子が這い出てきました。この状態でも両方作動したエアバックはたいしたものです。守ろう安全基準。


 そんなことより車から助け出された弥津子が小さくありがとう青二さん、と言ったのを清廉潔白な雑兵は聞き逃しませんでした。


 同じ位ではクンをつけて呼ぶのがルールなのに、花蕾でありながら規律を守れないなんて。しかも引き出された後も手をつないだまま。青二はハレンチ野郎ですが、弥津子もとんだビッチです。



「弥津子サン、青二クン、大丈夫ですか?」



 年長者であり最も花蕾の歴も長い雑兵は、しかし内心の軽蔑をおくびにも出さず二人に歩み寄りました。



「はい。なんとか」


「雑兵さんもご無事でしたか」



 ビッチとハレンチ野郎は雑兵に話しかけられてやっとつないでいた手を放しました。



「一体何が……。クマか何かに襲われたのでしょうか?」



 青二の言葉にんなわけないだろコイツ馬鹿だなと科学的な雑兵は思いましたが、花蕾なので口にはしません。



「さあ、私にもわかりません」


「でも運転してたのは雑兵クンですよね?」


「……どういう意味でしょう?」



 語気を強めると、青二は案の定黙りこくりました。小心なくせに嫌味を言うとはどういう神経をしているのでしょう。



「二人ともやめてください。全部私のせいなんです。だからこんな時に争わないで下さい」


「そんな、弥津子サンは悪くないですよ」


「いえ、弥津子サンのせいではありません」



 青二とセリフがかぶりました。弥津子は明らかに雑兵に向けて言ったというのに。これだから空気の読めない男は。しかし花蕾故にぐっとこらえます。



「しかし困りましたね。車がこれでは……」



 ぎぇええっ、ぎぇええっ、ぎぇええっ。



 気を取り直して今後のことを考えようとした雑兵でしたが、闇の中遠くで何かが鳴く声にぎょっとして声を詰まらせました。


 鳥? 夜なのに?



「う、うわあっ?」



 小心な青二などは驚きのあまり悲鳴を上げています。



「きゃあ!」



 弥津子は雑兵の胸に飛び込んできました。雑兵はそれを優しく受け止めます。



「す、すいません雑兵クン。つい……」


「大丈夫。弥津子サン落ち着いてください」



 雑兵は紳士的に弥津子を宥めました。弥津子の気持ちもわかります。やはりこんな時には青二などでは頼りにならないのです。



「まずはこの先どうするかを考えましょう」


「でも雑兵クン、先に車がこんな風になってしまった原因を調べないと」


「調べてどうするのです? 分かったからと言って車が直るわけではないでしょう。それより今何をすべきかを」


「お願い二人ともやめて! 私の為に争わないで!」


「えっ? あ、ああ~。いえ。だってもし熊か何かの仕業で、まだその辺に潜んでいたら……」


「……え」



 ぎぇええっ、ぎぇええっ、ぎぇええっ。



「…………」

「…………」

「…………」



 

 こんな山の中、しかも辺りはもうかなり暗くなっています。あたりに何かが潜んでいても気が付くことはできないでしょう。


 もしも青二が言う通り熊だったら? いえ、熊ではありません。それは非科学的です。熊には走っている車を二つに割ることなどできません。



 じゃあ、熊よりも恐ろしいナニかだったら……?



「あの~、そろそろいいですか?」



 コントをつづけていた三人に、突然背後から声がかけられました。



「うおっ?」


「ひゃあああ!」


「ぎゃあああ!」



 三人は勇敢にも腰を抜かす寸前で踏みとどまりました。


 見ればそこにいたのは見たもの全員が間違いなく美しいと評するであろう一人の女性でした。しかし彼らは見た目などには騙されません。



「雑兵クン、こいつ猟師の娘です!」


「なるほどそういうことですか。全てあなたの仕業と言うわけですね」


「一体いつからそこに!」


「いえ、初めからずっといたんですけど……」

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