第110話 未曽有の大盛況
「お待たせしたのじゃ。こちら縫霰鹿のプレートですじゃ。以上でお揃いでしたかの?」
「木苺のタルトとショートケーキでございます。どうぞごゆっくり」
「いらっしゃいませっ。何名様ですかっ!」
七月も終わりに近づく土曜日のランチタイム、縫霰湖のぬしの噂がSNS広まりまして、それに付随して「こくり家」の映えご飯の噂も広まりまして、こくり家は未曽有の大盛況を迎えておりました。三匹の妖怪たちも大忙し。
「上の台からお皿をとってポン♪ ご注文、ありがとうだポン♪
アディオス♪ オルヴォワール~♪」
藤葛が作った狸型配膳ロボットも頑張っています。車輪なのに階段も上り下りできるとか凄い。気分次第で流れる曲が変わるのも凄い。
お皿洗いはクロの分身が担当です。さらに修業を積んだ結果、三体くらいなら無表情ながらクロそっくりに作れるようになりましたが、子供バージョンなのでホールには出られません。分身とはいえクロですから、お皿洗いの手際は見事なものです。
分身と言えば料理担当の人間兵太郎も当然分身します。いつもより分身の数を増やしてえへらえへらと嬉しそうに頑張ります。
「兵太郎、チキンのヌシカレー二つ入りました!」
「はあい。承りましたあ~」
湖のヌシの為に作ったヌシカレーは定番メニューとなりました。しかも大変な人気です。
ぬっしー目当てに来て立ち寄った喫茶店にぬっしーに因んだメニューがあれば頼んでみたくなるのは人の性。手間がかかる分普通のカレーに比べて少々値が張りますがそれでもこちらを頼まれるお客様がほとんどです。
ぬっしーを象ったユーモラスな見た目は大変にSNS映えします。以前にご来店されたお客様が「ぬっしー撮影成功」としてSNSに投稿したヌシカレーの写真にはたくさんのインジャネ?が付きまして、それを目当てにご来店のお客様もチラホラ。
メニューの名前は「湖のヌシカレー」ですがネットでは既に「ぬっしーカレー」と呼ばれており、「こくり家」よりも「ぬっしーカレーの店」と言った方が通じるくらい。丸い手の部分がハンバーグになっているのも人気のヒミツ。
ぬっしーを見るために大勢のお客様が立ち寄られておりますが、それに加えて本日は口コミで広まったお子様向けイベントが目的の親子連れも多いようです。
忙しいランチタイムの後に奥様達が交代で担当するこのイベント、土日祝日限定予約制ではありますが飛び入り参加も大歓迎。
本日は紅珠先生担当の草花遊びです。
「ほほう綺麗にできたの。どれせっかくじゃ。写真を撮っておこうかの」
「吹き方にもちとコツがいるのじゃ。唇を軽く当ててふーっとな」
シロツメクサの花冠に笹の船、大きな葉の面や草の笛。お父さんやお母さんだってしたことがない遊びを紅珠はたくさん知っています。
最後は参加者みんなで四葉のクローバー探し。そうそう見つからないからこその幸運の印、見つけた時の喜びもひとしお。一生懸命探すと何故か参加者全員分見つかりました。あら不思議。
見つけたクローバーはアイロンで水分を飛ばしてラミネート加工。しおりにしたものをプレゼント。お子様ももちろんお父様お母様にも大好評。
湖を見て美味しいご飯を食べていっぱい遊んで、たいへん楽しい休日でした。
さてお客様、明日は藤葛先生によります鹿の皮を使いましたレザークラフトを予定しております。
ご予約などいかがですか?




