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こくり家業務特典

「採れたてのヤマドリタケがこんなに。すごいねえ」



 にへらにへら、兵太郎がだらしなく頬を緩めます。


 兵太郎がヤマドリタケと呼ぶずんぐりキノコ。正式な名称はヤマドリタケモドキと申します。兵太郎のお料理の先生がひとまとめにしてヤマドリタケと呼んでいましたので、兵太郎もそれに倣っているのです。


 ナッツのような強い香りと濃厚な味わいが特徴で、一口で「特別」だとわかる強い旨味を持っています。


 どちらかというと国内よりも海外でよく食べられている超高級キノコで、先生の国では「ポルチーニ」と呼びます。


 キノコの王様とも呼ばれる大変においしいキノコで、日本の山にも自生しています。ただしよく似た毒キノコもありますので、専門家か兵太郎が一緒でない場合はご注意下さい。



「乾燥させたのもおいしいんだけど生なんて珍しいし、今日はそのままいただこうかあ」



 珍しいというか生のポルチーニなんて普通手に入りません。となればお客様に出す前にはまずは味見が必要。それはこくり家の妖怪たちの特権です。


 そんなわけで本日一仕事終えてからの朝の賄いは、ローズマリーを混ぜて焼いたロールパンと、オリーブオイルでソテーしたフレッシュヤマドリタケ、それにベーコンエッグです。


 キノコの王様というだけあってヤマドリダケのソテーは流石の貫禄。


 焦げ目のついたヤマドリタケがオリーブオイルを纏って美しく輝きます。一緒に炒めたイタリアンパセリが彩を添え、見た目にも豪華な装飾品の様。



「まあまあ綺麗ですこと。それに良い香りですわねえ」



 早速頂いてみましょう。狸の方の奥さんは贅沢な厚みを持つヤマドリタケのソテーを一切れ、フォークで口へと運びます。



 ぱくり!



「んーっ! これは凄いですわ!」


 

 一口食べて藤葛はタレ目がちな目をまんまるにして驚きの声を上げました。


 たかがキノコと侮るなかれ。


 きめ細かく寄り合わさった繊維が作り出すしっかりした歯ごたえとぷりっとした弾力。咀嚼すれば密度濃く編まれた構造体からあふれ出すガツンと強烈な旨味のジュース。


 一口目からギアMAX。一気に旨味の世界へ連れ去るその加速はまさに王の名にふさわしく、単品でメインを張るのに十分な力を持っています。


 一方古来、栗とキノコにはうるさいとされる狐の方の奥さん。ちぎったローズマリーパンにソテーを一切れ乗せました。皿の端のオリーブオイルを少々垂らして、大きなお口でぱくり。



 !!



 ローズマリーのほのかに甘く、森林のような清々しい香り。それが王様キノコとの強烈な旨味と合わさればもうこれは森の大王様。



「ううむ。キノコの出汁というのはどれも旨いが……。これはまた格別な味わいじゃの」



 森の大王様の凱旋パレードに、山の神様紅珠もほくほくと納得です。



 お楽しみはもう一つ。


 兵太郎にすすめられるままに、お皿に残った(ポルチーニオイル)をスプーンで一掬い。ベーコンエッグに垂らせばあら不思議。いつもおいしいベーコンエッグがさらに高級なお味に早変わり。


 ベーコンエッグがヤマドリタケから染み出る濃厚な味と香りに埋もれてしまわないのは、こちらも一級品の鼬の伊達さんの卵の力です。



「おいしいです! 伊達さんありがとうございます!」



 お子様姿でベーコンエッグを食べながら、クロが此処にはいない伊達さんに向かってお礼を言いました。




「おいしかったねえ。さて日替わりランチはどうしようかな?」



 大変おいしいこのソテーですが、このままランチに出すわけにはいきません。


 なにせ国産の採れたて新鮮生のポルチーニ茸。それがごろごろ入ったこのソテー、実は値段を考えるのも恐ろしいくらい。


 向こうからやって来たとはいえ、いえ来てくれたからこそ、安い値はつけられません。これはあくまでお味見のための、こくり家の妖怪達の特権です。


 まあ実際のお値段をつけるのは狸の方の奥様にお任せなのですが。そういうのは兵太郎にはよくわかんないですからね。


 一人前に使うヤマドリタケの量をセーブしつつ、高級感と贅沢感はしっかりキープ。できるだけたくさんの人にこの素晴らしいヤマドリタケを味わってもらいましょう。それは兵太郎のお仕事です。



 パスタ? リゾット? シチュー? それともピザにしましょうか?


 オリーブオイル、トマト、生クリーム、ああチーズも捨てがたい。合わせるのはベーコンが、いやいややっぱりここは伊達さんの。



 にへらと笑う兵太郎の頭の中で、ずんぐりキノコが様々な食材をパートナーにとんとんからりと華麗なステップを踏み始めました。


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