物の怪が支配する山
いつもご来店ありがとうございます。先日、このお話が注目作品としてトップページに掲載されました。皆様本当にありがとうございます。お陰でたくさんのお客様に来てただくとこができました。
今後も張り切ってまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
山の神様に無礼を働き、道の神様の忠告も無視してタンクトップご一行が山道を下っていきます。
両脇に背の高い木が生い茂り、昼間だというのにずいぶんと暗い道。これだから田舎は嫌いです。
ほー、ほー、ほー。
道の外、深い深い森の中、鳥の鳴く声が聞こえます。
バイクに乗っているのにはっきりと、その声は三人の耳に届きます。
ほー、ほー、ほー。
バイクを進めても全く変わらず、その声はすぐ近くから聞こえます。
一体どこで鳴いているんだろう?
カネオが視線を巡らすと、すぐそばの木の上に大きな鳥がいるのを見つけました。
「えっ?」
とても大きな鳥でした。
ガラス玉のような大きな目でじっとカネオを見下ろしておりました。
「ほー、ほー、ほー」
ぞっ、と背中に寒いものが走りましたが、バイクに乗っていますからすぐにその姿は見えなくなります。猿か何かを見間違えたに違いない。カネオはそう自分を納得させました。
木の枝を手で掴む人の顔をした鳥などいるわけがないのです。見間違えに決まっています。
ほー、ほー、ほー。
くすくすくす。
いひひひひ。
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「なんか道おかしくないっすか?」
後ろからヒマンタイに言われてタンクトップはバイクを止めました。
気が付けば随分細い道に入り込んでいました。行きにこんな道を通った記憶はありません。
「おい、カネオどうなってんだ」
先頭を走っていたタンクトップが一番後ろについてきていたカネオに聞きます。
「すいません、すぐに調べます」
カネオはスマートフォンを取り出しますが、電波状況が悪いのか現在位置がわかりません。
「ったく使えねえ奴だな」
カネオが必死にスマートフォンを操作する中、ヒマンタイがタンクトップに聞きました。
「タンクトップさん、走ってる時なんか聞こえませんでした?」
「ああ? 聞こえたって何がだよ」
「なんか笑い声みたいな……」
そういいながらヒマンタイは不安そうにあたりを見回します。
タンクトップは大きく舌打ちしました。図体はデカいくせに肝っ玉の小さい奴です。森の中で笑い声が聞こえるはずはありません。自分にも聞こえたなんて絶対に言えません。
だってそんなの怖いじゃないですか。
「だから全部トリックだっつってんだろ。何ビビってんだよ」
大きな声を上げながらもつい辺りを気にしてしまったタンクトップの耳に、かすかな音が聞こえました。
ぷ~ん。
とても嫌な音でした。
どこからともなく聞こえる笑い声とか、絹を裂くような悲鳴とか、そういう類の嫌さではありません。もっと身近で現実的な嫌さです。
それは聞きなれた音でした。
ぷ~んというかすかな、それでいて人の心をかき乱す羽音。夏の夜の睡眠を妨げる吸血の悪魔の羽の音。
「うおっ? なんだっ、痒いっ?」
気が付けば三人は蚊の群れの中にいました。あわてて追い払おうとしますが凄い数。既に何か所も刺されていることに今更ながらに気が付きます。
手足をばたばた振り回す三人に、さらなる試練が襲い掛かります。
ぶーん!!!!
「うわああああああ、スズメバチだあああ!」
残念、アシナガバチです。
まあいずれにしても一大事には変わりありません。蜂の群れから逃げるため、三人はバイクを置き去りに走りだしました。
しかしどこに逃げたらいいものか。
「池だ、あそこに池があるぞ! 池に飛び込めば安心だ!」
誰かがそういいました。
言われて見やれば前方に大きな池があります。蜂も蚊も水の中までは追ってこれません。利口な三人は迷わず池に飛び込みます。
どぼん。
と、飛び込んだつもりでしたが不思議なことにそこに水はありませんでした。三人が頭から飛び込んだのは池ではなく、何かの野性動物のお気に入りのおトイレでした。
かくして蚊と蜂と、そして蠅とを大量に引き連れて、三人は這う這うの体で山から逃げていきました。
後日、バイクは山の麓に不法駐車されていたということで三人は警察から呼び出しを受けることになったということです。
困ったお客様編、もう一話だけ続きます。どうぞお付き合いくださいませ。




