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アクションスター、クロ

 躱す、躱す、躱す、躱す。時に大あくびを、時にとんぼ返りをまじえながら、クロは悪党三人の攻撃を捌きます。


 できるだけ派手にいきましょう。お客様を退屈させてはいけません。



「ちょこまかと逃げ回りやがって!」



 確かに逃げてばかりでは芸がない。ならばもう一芸見せましょう。



 ぱん。



 顔面めがけて放たれたタンクトップの突きを、体格差をものともせず一切の揺らぎも無く受け止めて見せました。



 ぱんぱんぱん。



 何発打っても一緒です。



「でもこれじゃなあ……」



 受け止めるのは簡単ですが、迫力の無いパンチで単調な攻撃を続けられてはお客様が退屈してしまいそう。かといって反撃すれば一発で終わってしまいます。



「舐めやがって!」



 ヒマンタイが背中の木刀を抜きました。やったね念願の凶器です。お客様からきゃあと心配の声が上がりますが大丈夫。ヒマンタイが振り回す木刀をクロは紙一重で躱します。


 ヒマンタイの動きは当然スローモーションですが、それでも振り回しているのは木刀。当たればただでは済まないでしょう。お客様達はひやひやしながら見守ります。


 しかしそれも極わずかな間でした。ヒマンタイが早くもスタミナ切れを起こしたからです。


 ふうふうと胸を押さえて座り込むヒマンタイの肥満体の影から何かが飛び出しました。



「ヒャッハー、目つぶし攻撃をくらえ!」



 奇襲攻撃をお客様にもわかりやすく大きな声で宣言し、カネオがその手に握りこんだ砂をクロの顔面へと叩きつけます。


 女性のお客様が思わずきゃああと悲鳴を上げました。


 卑劣な攻撃を受け、クロは美しい顔を抑えてうずくまってしまいます。



 クロ危うし……!



 なんてね。当然全部、演技です。



 悪党どもには背を向けて蹲ったまま、クロは声を上げたお客様にぱちりとウインクを飛ばします。


 ぽっと顔を赤らめるお客様。しかしその直後再び息をのみます。クロの頭上、ヒマンタイがまさに木刀を振り下ろさんとしていました。



 クロ、再び危うし……!



 ご安心下さい。勿論全部、お見通し。


 後ろを向いたまま頭上に振り下ろされる木刀を、見事真剣白刃取り!


 これには観客も湧きました。想像をはるかに超えるクオリティ。


 そう思って見てみればやられ役たちのへっぴり腰もなかなか堂に入った物。彼らも相当な経験を積んでいるに違いありません。ほら見て下さい、後ろ向きに刀を掴まれたヒマンタイの愕然とした表情。なんて真に迫った演技でしょう。


 クロが両手で挟んだ木刀をえいやとひねるとヒマンタイの巨大な体は見事に宙を舞いました。



 あら大変、そのまま落ちては大怪我です。



 一転、やられ役の心配をしだす観客の皆様。ですがそこはご安心。心優しきお芝居のイケメン主人公。


 しっかり襟元を掴んでくるりとすんと尻から地面に落とします。打ち合わせ通りになのでしょうが見事なもの。クロはもちろん、あの作りこまれた体で見事に宙を舞って見せたヒマンタイにもお客様から拍手が贈られます。


 何が起きたかわからないヒマンタイは目を白黒。見ていたタンクトップとカネオは唖然。完全に戦意喪失といった体。ではそろそろ幕引きといたしましょう。



「ヒイィ!」



 真に迫った悲鳴を上げるカネオに地を蹴って肉薄。顔のすぐそばを打ち抜くように右ストレートの空を裂く音はお客様まで届き、カネオはへなへなと座り込んでしまいました。



「てめえ!こっちに 来るんじゃねえ!」



 未だ虚勢を崩さないタンクトップの態度はいっそ見上げたもの。



 びゅんと距離を詰め、振り回していたナイフを取り上げると胸のあたりを軽くひと押し。タンクトップは無様に尻もちを付きました。


 取り上げたナイフを観客に見せながらぐにゃりとひんまげて、「偽物」であることをお客様にアピール。そうそうこれはお芝居です。なんの危険もありません。タンクトップは口をあんぐり。まるで化け物にでも遭ったかの様な顔にお客様から笑いが漏れます。。まさに名演技。


 喝采を送るお客様にお辞儀をしようとして、クロは慌てたように頭をあげます。。


 ズリズリと三人の悪党を引っ張って来て並べると、ぺんぺんぺぺん。それぞれの頭を叩いて、しっかりお辞儀をさせました。



 お客様は再び大喝采。やられ役達にも惜しみない拍手が贈られます。



「おぼえてろ〜〜!」


「こ、こんな店二度と来るか!」


「ヒィイイ! 待って下さいタンクトップさん! ヒマンタイさん!」



 退場の小物っぷりも申し分なし。温かな笑いと拍手が逃げる彼らを追いかけました。

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― 新着の感想 ―
本当に路傍の苔にならなくて良かったね
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