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100億円契約の勇者と復讐の帝国   作者: アンギットゥ
第6章 裏切りの血脈編
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第57話


 

「ネウラ。覚醒したのですね」

「はい。姫さま。私は石化ではなく、敵の動きを抑えるようです」

「戦闘ではその方が役に立ちますね。石化した相手を斬ると、刃こぼれしますから」


 ネウラは力が落ち着くのを感じた。

 そっと目を開ける。

 

 仲間達がいた。

 空人とセティヤ、スワーラ、そして妹たちも集まっている。


「これで私も少しは役に立てるようになりますか」


 ネウラはぽつりと呟いた。

 妹を失った悲しみは消えないが、ほんの少し劣等感は薄らいだ気がする。

 セティヤやスワーラのように能力に目覚めた。

 それが嬉しかった。


「なにいっているんだ。あんたはずっと役に立っていたぜ。俺が安心して敵陣に突撃出来るのは、あんたがいるおかげだよ。俺に指揮は無理だからな」

「空人殿……」


 惚れた相手に言われると、こんなに嬉しいのだとはじめてわかった。


「ネウラ。あなたがオーガや妹たちを指揮してくれるおかげで、私も安心して戦えています。ありがとう」

「姫さま」


 敬愛する姫であり、大事な妹のひとりにいわれると胸が熱くなる。


「あたしも指揮なんて面倒なことは無理だから、助かっているよ。モリコ王国から避難民を連れてくるときも、あんたが避難民達を守ってくれると確信していたから戦いに集中出来た。ラーテとの戦いのときも、あんたがいたからモリコ王国のひとたちは無事だって確信していたよ」

「それはありがとうございます」


 ネウラはスワーラを気に入らないと思っていた。

 そんな相手に感謝の言葉を掛けられて、意外に嬉しかった。


 ――ああ、私は勝手に劣等感を抱いていただけだったのか。


 ネウラは理解した。

 自分は役に立っていた。

 少し考えればわかったことだ。

 空人やセティヤが活躍出来ていたのは、自分がバックアップを勤めていたからだ。

 

 馬鹿だったな、と反省する。

 なんの劣等感も抱く必要はなかった。


 シェイプシフターも倒した。

 自分を十二分に誇っていいではないか。

 

「すこし……つかれました……」


 ネウラは片膝を付き、ロングソードで体を支える。


「疲れたんだろう。少し休めよ」


 空人は肩を貸してくれた。


「医務室にいきましょう」


 セティヤも肩を貸してくれる。

 自分にとって大切なふたりが肩を貸してくれるのが、ネウラはとても嬉しかった。


 

 








「さて、こいつで最後か」


 空人は上空に浮かびながら、眼下の光景を静かに見下ろした。


 デマルカシオンの採掘基地はすでに崩壊し、炎と黒煙に包まれている。


 建物の残骸が無惨に崩れ、爆発の余韻がまだ大気を揺らしていた。

 砲撃の跡が地面を焼き尽くし、警備の装甲車両の残骸が無数に散らばる。


 夜空に向かって立ち上る炎が、闇を赤く染め上げる。

 焦げた鉄と焼けた油の臭いが、風に乗って広がっていく。


 ネウラが力を覚醒してから数日後、オーランド王国にあるデマルカシオンの採掘基地を次々と強襲した。


 罠を警戒し、全員で攻撃した。

 過剰ともいえる攻撃力で、反撃の隙を与えずに次々と壊滅させていった。


 僅か一日で、オーランド王国にある全ての採掘基地は潰えた。

 

「目的のひとつは達成したな」


 空人は呟き、肩越しに仲間たちの姿を確認する。


 スワーラは逃走する装甲車両の横腹を、レッドフィンガーで殴りつけて破壊していた。


 ネウラは目を細め、倒れ伏したゴブリンたちを冷ややかに見つめていた。


 スワーラは妖精たちを引き寄せ、戦いの余韻を楽しむように微笑む。 


 オーガたちは勝利の雄叫びを上げていた。


 損害はゼロ。

 圧倒的な勝利。

  

「残る目標はこの国を支配するというコカトリスシェイプを仕留めるだけか」



 



 




 霧が漂う広大な玉座の間。

 その中央には、黒曜石のように冷たい漆黒の玉座がそびえ立ち、その上に座すのはコカトリスシェイプ――オーランド王国を支配する異形の存在。


 鋭い爪が玉座の肘掛けをゆっくりと叩き、瞳には冷たい光が宿っている。

 長い尾が蛇のようにうねり、空気を裂くかすかな音を立てた。


 重苦しい沈黙を破って、怯えた兵士が玉座の前に膝をつく。


「……報告いたします、陛下。全ての採掘基地が――壊滅いたしました」


 報告したゴブリンの声はかすれ、震えを隠しきれなかった。

 その言葉が放たれた瞬間、玉座の間の空気が凍りつく。


「……全て?」


 コカトリスシェイプの声は低く、耳にこびりつくような不快な響きを持っていた。

 冷たく鋭い瞳が兵士を貫く。


「は、はい……勇者一行により……」


 言い終わる前に、ゴブリンの全身が強張り、その目に恐怖が張り付いた。

 コカトリスシェイプの視線が、まるで刃のように彼を貫いたからだ。


「勇者どもめ……」


 その名を口にした瞬間、玉座の間を満たしていた霧が、まるで意思を持つかのように渦を巻き始める。


 重く、粘り気のある霧が兵士の足元を這い上がり、全身を包み込んでいく。


 コカトリスシェイプの脳裏に思い浮かぶのは、ふたりの仲間のことだ。






 空人が来ることを想定し、研究所に罠を貼った。

 




 一週間前のことだ。


「俺、勇者どもを罠に掛けるために死ぬわ」


 リッチシェイプはあっさりと告げた。


「なにを言っている、リッチシェイプ」

 

 コカトリスシェイプは驚いた。


「俺が管轄している研究所に、勇者どもは必ず来る。そのとき、俺は勇者に討たれる。ラーヴァシェイプ、お前は勇者の仲間の妹の姿をしているから潜り込め。隙を見て、勇者を始末しろ」

「オッケー、あたしがひとりいれば片づくと思うけど。まだ死にたくはないから、少しずつ始末していくわ」

「頼んだぜ」

「おまかせー」


 リッチシェイプとラーヴァシェイプは握った拳を突き合わせて、互いに笑いあった。


「貴様ら、なにを言っている? 仲間が死ぬのだぞ」

「ああ、コカトリスシェイプ。俺は別に死んでもいいんだ。つーか、死んでいるし。いきなり異世界に連れてこられて、実験台になったからムカついたけどよ。俺は元の世界ではチンピラで、ろくでもない人生だった。死んでも仕方ないと納得もしているんだわ」


 リッチシェイプは言葉を切り、肩をすくめた。


「だがラーヴァシェイプや他にも、この世界で勇者に討たれるのは惜しい奴がいっぱいいるんだわ。この世界を征服して、帰還して欲しいわけよ」

「そんな理由で……」

「一度失った命だ。たまたま手に入れた二度目の命、将来有望な若者――というほどでもないか。まあラーヴァシェイプはおばさんか?」


 リッチシェイプはニヤリと笑う。


「もう、あたしは天才美少女剣士よっ」


 ラーヴァシェイプはシックスの顔で、頬を膨らませた。


「その天才美少女剣士さまが、こんなところで命尽きるのも勿体ないだろう? 元の世界に帰してやりたいんだよ、俺は」

「だが、リッチシェイプよ。その子の姿は違うのだぞ」

「そこはなんとかなるでしょう。俺たちに技術協力している奴がいるとかいう噂を聞くぜ」


 コカトリスシェイプは頷いた。

 現代兵器を僅か十五年で再現し、量産体制まで持っていくのは、あまりにも速すぎる。

 シェイプシフターのなかでも優れた技術者は何人もいるが、現代兵器を再現するだけで百年は掛かると聞いたことがある。


「俺は死ぬ。だが、その代わりに勇者どもを仕留めろよ」

「任せて。あんたの死は無駄にしないわ。出来れば、勇者の仲間のひとりでも道連れにしてちょうだい」

「それくらいのことはしたいものだ。まかせとけっ」


 リッチシェイプは胸を叩いてみせた。


「お前たち……」

 

 リッチシェイプは本当に死を恐れていない。

 

「あたしが勇者たちに近づいている間、位置を伝えるから部隊を手配してね。出来れば大部隊を送って、注意を引きつけて。頼んだわよ、コカトリスシェイプ」


 ラーヴァシェイプは笑ってみせた。その笑みには信頼が滲んでいる。


「もちろんだ。私の指揮と霧を操る能力で、必ずひとりずつ仕留めてみせよう」 










 コカトリスシェイプはゆっくりと立ち上がる。

 オーランド王国を全ていた仲間との会話を思い出すと、怒りが増してくる。

 自分への怒りだ。


 勇者たちを始末出来なかっただけではなく、全ての採掘基地を短時間で失った。

 次はこの城に向かってくるはずだ。


「いいだろう……ならばこちらも、全ての戦力を投入して迎撃するだけだ」


 その瞳には、ただの怒りではなく、狡猾な策略の光が宿っていた。


「オーランド王国に配備された、全ての戦力をこの城の周辺に集結させよ。勇者を全ての戦力で叩きつぶす!」


 コカトリスシェイプの声が静かに玉座の間に響いた。

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