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100億円契約の勇者と復讐の帝国   作者: アンギットゥ
第6章 裏切りの血脈編
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第47話




「ネウラ。あなたは空人に惚れていますね?」

「ハッ、姫さまはお見通しですね」


 ゴブリンをロングソードで斬り伏せながら、ネウラは答えた。

 セティヤの拳を受けたゴブリンの頭が弾け飛ぶ。

 

「ネウラお姉様は正直ですね」

「セティヤに嘘はつけないよ」


 セティヤの右回し蹴りがバリケードごとゴブリンを蹴り飛ばし、ネウラのロングソードがゴブリンの首を斬り飛ばす。


「面倒ですね」


 ネウラは一瞬、自分のことをいわれているのかと思った。

 セティヤがそんなことをいうはずがないのに。

 そんなことを考えてしまうのは、少しネガティブになり過ぎているのかもしれない。


 セティヤが大きく息を吐いた。

 右の手甲——レッドフィンガーに赤い光が収束し、次第に渦を巻くようにエネルギーが膨れ上がっていく。

 周囲の空気が震え始めた。


 赤い光はさらに強さを増し、セティヤの両手はまるで燃え上がる炎そのもののようだった。

 そのエネルギーは集中し、もはや制御を超えるかのような圧力を生んでいた。


「殲滅、レッドフィンガァァァ!」


 セティヤが右手を突き出す。

 圧縮されたエネルギーが解き放たれる。

 赤熱の閃光が炸裂し、猛烈な熱波が廊下を駆け抜けた。

 バリケードが一瞬で灼け、ゴブリンたちは閃光の中心に呑み込まれ、影すら残さずに消滅した。

 

「さて、進みましょう。あなたの妹たちを助けて、空人との仲を進展させてください」

「セティヤ。あなたはいいの?」


 この状況で聞くことではないのはわかっている。

 いまは妹を救うために戦っていて、集中すべきなのはわかっている。

 だが、聞かずにはいられない。


「正直、ネウラ以外だったら嫌ですよ」

「それはスワーラでも?」

「少し嫌ですね」


 セティヤは苦笑する。


「あなたの妹たちを助けるときに、こんなことを話すのは間違ってはいると思っています。でも、こんなときだからこそ話したかったんです。いつ死ぬか、わからないのが戦場ですから」


 セティヤははにかんだ。

 その表情を見て、ネウラは心が痛んだ。

 いつ死んでもいいように、悔いがないように話しかけてきた。


「私が死んでも、ネウラは躊躇わずに空人と恋をしてくださいね」

「セティヤ……」


 ネウラは心苦しかった。

 セティヤは死ぬかもしれないと思っている。

 戦場に絶対はない。どんな敵が現れるか、わからないのが戦場だ。

 

 いままで生き残ってきたのは運がいいだけかもしれない。

 セティヤの言葉は理解出来る。


 だが、彼女にこんな気持ちを抱かせた自分が悔しい。


「姫さま。あなたは死なせません!」

「私も死にたくはありませんよ」

「いいえ、なにがあっても守ってみせます! それが私の、セティヤ・フェッテ専属護衛騎士隊長ネウラ・デューサとしての誇りです!」


 十二年前、木登りして落ちてきたセティヤを救ったとき、自分は心に決めた。

 この新しい妹を守り切ろうと。


 その誓いを違えたことはない。


「ありがとう。そしてごめんなさい。あなたが守ってくれるのに、私が死んだあとのことなんて話すのは失礼でしたね」

「いいえ、姫さま。戦場は過酷です。気弱になるのも無理はありませんっ」

「そうですね」


 セティヤは頷いた。


「では、急ぎましょう。敵は一掃しましたが、増援が来るかもしれません」

 






 空人とスワーラ、オーガたちは研究所の廊下を走っていた。

 オーバーブラスターでバリケードごとゴブリンを一掃したため、敵の妨害はない。

 数十メートル先の部屋のドアが開いていた。


 部屋から漏れる灯りが、廊下を照らしている。


「罠かしら?」

「罠っぽいな」


 空人とスワーラは互いの顔を見合わせる。

 ドアにそっと近づき、室内に飛び込んだ。


 十数体の白衣を着た黄色い肌のゴブリンがいた。

 空人はクレセントムーンで次々に斬り伏せる。

 たしかゴブリンは色によって知能に差があるという。

 アパッチ等を操縦するのは知能が高いホワイトゴブリン。

 技術者や整備を担当するのはイエローゴブリンだったはずだ。


 仮に非戦闘員だとしても、生かしておく理由はない。

 

 スワーラのほうをむけば、ゴブリンの喉にナイフを突き刺していた。


「やはり接近戦もいけるのか」

「王族だからね。妖精が使えない状況も想定し、徒手空拳でも武装したゴブリンを倒す訓練は受けているわ」

「この世界の王族は逞しいねえ」


 頼りになるのはありがたい。


「それよりも、こいつはなんだ?」

 

 空人は室内を見渡す。


 椅子に人々が拘束されている。

 ヘルメットを被らされ、まるで魂を削られるような苦しげな声が漏れていた。

 人々の足元には魔法陣が青白く輝き、囚われた人々の体にじわじわと光が吸い込まれていく。


「これは拷問魔法よ。捕虜から情報を引き出すために使われるものだけど、危険だから――」


 空人はスワーラの言葉を待つことなく、魔方陣を斬り裂いた。


 人々の声は消えた。

 スワーラはひとりひとりの無事を確認し、ホッと息を吐く。


「あんた、最後まで話は聞きなさいよ」


 スワーラが呆れながら言う。


「どうせ慎重に解除しなければ、とんでもないことになると言うんだろう?」

「わかっているならば、もっと慎重に」

「大丈夫だという確信があったのさ」


 空人は肩をすくめてみせた。


「また年の功とでもいうの?」

「簡単な推理だ。デマルカシオンの目的は人々を苦しめること。魔方陣を破壊して、死んだら苦しめられなくなる」

「つまり、この人たちは生きている限り、拷問魔法の苦痛を思い出して苦しむわけね。例え魔方陣を破壊して解放されたとしても」

「そういうことだ」

 

 趣味の悪い話だが、奴らならばやりそうだ。


「わかったわ。とりあえず、この人たちを研究所の外に連れて行きましょう。お願い出来るかしら?」


 スワーラはオーガたちに話しかけた。

 オーガたちは頷いて、その巨体で意識を失った人達を纏めて抱きかかえる。

 そのまま研究所の外に連れて行く。


「オーガは乱暴なイメージがあったんだけど、融通が利くのね」

「強いものに従うのが、オーガの掟らしいぞ」

「フェッテ家のフィジカルモンスターと一緒にしないでほしいわ。あれは数ある王家のなかでも別格よ」






 セティヤとネウラもまた、同じように囚われの人々を見つけていた。

 白衣を着た黄色い肌のゴブリンを倒したのも変わらない。


 空人たちとの違いは、ネウラの妹三人がいることか。


「トゥエ、フォー、シックス!」


 ネウラは妹たちを見つけて駆け寄ろうとした。

 セティヤに肩を掴まれなければ、妹たちのところに飛び込んでいただろう。


「ネウラ。罠です」

「しかし……!」

「あなたの気持ちもわかります。ですが彼女たちを救うには、こうするのが一番です」


 セティヤは魔方陣を殴りつける。

 魔方陣が粉々に砕け散り、破片が宙に舞う。


 ネウラは妹たちを解放するために、駆け寄った。

 順にヘルメットを外していく。

 誰もが意識はなかった。


「この人たちを至急、研究所の外に」


 ネウラは付いてきていたオーガたちに指示を出す。

 ここは危険だ。

 そう判断したのは正しいかった。


 ネウラは後ろを振り返る。

 妹のひとり、トゥエがネウラの脳天にナイフを振り下ろしていた。

 そのナイフを握った腕を、セティヤが掴んでいる。

 

「トゥエ、どうして?」


 ネウラはわからなかった。

 ヘルメットは洗脳装置だったのだろうか? だったら、セティヤに妹を傷つけないように頼まなければ。


 セティヤの両手のレッドフィンガーが赤く染まる。

 捕まれたトゥエの手が燃えていく。


「姫さまっ」


 ネウラはとっさに叫んだ。


 いつの間にか、トゥエはセティヤの背後に回っていた。

 セティヤは後ろ回し蹴りで、トゥエを蹴り飛ばす。


「卑劣な罠ですね。肉親の情を利用して、私たちを罠に陥れようなんて。デマルカシオンのやりそうなことです。そうですね、シェイプシフター!」


「ククク、いつ俺に気づいたのかな?」


 トゥエの姿をしている。

 だが、その声は性格の悪そうでねちっこい。

 

 トゥエの姿が変わる。

 骸骨が黒いローブを着ている。

 右手には大きな命を狩るのに適した大鎌を握っていた。

 

 あれはアンデッドのリッチだろうか。


「俺はリッチシェイプ。この研究所の所長をしている」

「あなたの目的はなんです?」

「俺は元の世界に戻りたい帰還派という奴だ。『無尽の戦乱』派とは目的が異なる。しかし、派閥争いなんて不毛だろう? 無駄な労力だ。俺たち帰還派もこの世界に怨みがあるのは変わらない。だから考えた! この世界の魔法を使い、この世界の住人に終わらない悪夢をみせる!」

「趣味が悪いですね」

「貴様らが勇者召喚というくだらないことをしなければ、こんな結果にはならなかった」

「勇者を召喚しなければ、私たちにいまはありませんでした」

「だから俺たちの犠牲は仕方ないと言いたいか!」


 リッチシェイプの声が怒りに震える。


「ふざけやがって! いまここで貴様らの首を刈り取ってやる!」


 リッチシェイプが大鎌を振り下ろす。

 怒りに震えているが、その剣筋は淀みがない。

 卓越した技量の持ち主だと一目でわかる。


「セティヤ!」


 ネウラはセティヤとリッチシェイプの間に入ろうと跳んだ。

 

 ——間に合わない。


 ネウラの心のなかに焦りが生まれる。

 セティヤが強いのは知っている。


 だが、セティヤとは相手が悪い気がした。

 つまり死ぬ可能性がある。

 

 ——こんなところで、セティヤを。


 リッチシェイプの大鎌の刃が、セティヤの首元を捉える。

 セティヤはレッドフィンガーで弾こうとするが、直前で鎌の軌道はセティヤの胴体に変わる。


 クレセントムーンが大鎌の刃を受け止めたのはそのときだった。


「未来の嫁を守るために、助けに来たぜっ」

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