表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100億円契約の勇者と復讐の帝国   作者: アンギットゥ
第6章 裏切りの血脈編
46/58

第46話


 夜の帳が静かに降り、オーランド王国南部の森林地帯は闇に包まれていた。

 木々の梢が風に揺れ、時折、葉擦れの音が不穏なささやきのように響く。

 空人たちは、息を潜めながら獣道を辿り、森の奥へと進んでいた。


「僅か五日でここまで来られたのは、ほんと便利だな」

「森林同盟六州内は転移ゲートで簡単に移動出来ますからね。森林同盟六州を出たらフォーラレとバスでの移動になりましたが、『インビジブル』の効果で敵に発見されないのでスムーズに来られました」

「この獣道も車輌で移動出来れば楽だったんだが、ここまで何事もなかったんだからラッキーだよな」


 道中でデマルカシオンの部隊を何度も見た。

 発見されていれば、戦闘になり、余計な時間を喰う。

 敵の警戒も強まり、戦闘も増えただろう。


 『インビジブル』は本当に役に立つ。


「問題は『インビジブル』は激しく戦うと、効果が切れることだな」

「戦闘中でも移動するだけならば、『インビジブル』は解除されないんですけどね。姿を消したまま戦うのがフェアでないのは確かですが」

「物量差を考えれば、不可視で攻撃するのはハンデくらいだと思うけどな。まあ、いいさ」


 そもそもシェイプシフターを倒して、スキルが開放されるというシステムがよくわからない。

 最初からスキルを全て開放してくれれば楽なのに、なんらかの制限が掛かっている。

 何者かの思惑を感じなくもないが、いまは目の前に集中だ。


 ゴォォォォォ――、という滝の音が聞こえてくる。

 

 目的の滝は近いようだ。


 空人は足を速める。

 セティヤ、ネウラ、スワーラ、オーガたちも続く。


 段々と滝の音が大きくなってくる。

 近づいているのがわかる。


「あれか」


 空人は呟いた。


 深い森の奥、巨大な滝が轟音を響かせていた。 

 岩肌を滑る水流は銀色の光を帯び、白い霧となってあたりに立ち込めている。


 空人たちは周囲を警戒しながら、滝に接近する。

 情報では滝の裏側にデマルカシオンの秘密研究所があるという。

 空人は慎重な足運びで、白い霧を越えて、滝の裏側に足を踏み入れた。


 人工的な鉄扉がはめ込まれている。

 遠目には白い霧で隠され、近寄らなければわからない。

 いかにも秘密の研究所といった感じだ。


 見張りはあえていないのだろう。

 もし見張りがいれば、なにかの施設があるのだと知らせているのと一緒だ。


「スワーラ。なにを研究しているのかは、本当にわからないんだよな?」

「不明ね。わからないわ」

「そうか――」


 空人は鉄扉を睨んだ。

 

「研究所の詳細は不明。さて、どうするか」

「まずは二手に分かれましょう。空人とスワーラ、それからオーガが二十名。私とネウラ、残りのオーガたちというのはどうでしょうか? 他にも分岐点があると思うので、状況に合わせてわかれれば探す効率はいいと思います」

「その案に俺は賛成だが、みんなはどうだ?」


 ネウラ、スワーラ、オーガたちは一斉に頷く。


「研究所内にシェイプシフターや強力な敵がいる可能性がある。もしも強敵に遭遇したら、真っ先に逃げてくれ。自分の命を最優先だ。研究所で捕らわれているひとがいたとしても、置いて逃げろ。いいな?」

「あたしの精霊を人数分、配っておくわ。単独で動くことがあるかもしれないから、連絡が取れるはずよ」


 スワーラが四十三体の精霊を召喚し、精霊の身体のそばを精霊が舞う。


「この鉄扉をいまからぶった斬る。警報装置が鳴るだろう。覚悟してくれ」


 空人はクレセントムーンを抜き、鉄扉を袈裟に斬った。

 研究所内に突入。

 予想通り、警報が鳴り響く。


「ご丁寧に道がふたつに分かれているぜ」


 空人は笑った。


「俺は右側に行く。スワーラとネウラは左を頼む」




 





「敵の襲撃は想定済みか」


 空人は左腕のガドリングシールドを、バリケードを構築したゴブリン達に向けながら呟いた。


 バリケードは床のブロックがせり上がったものだ。

 ゴブリンはバリケードに身を隠しながら、AK47の引き金を引く。 

 耳をつんざく銃撃音が、広い廊下に轟いた。


 空人はガドリングシールドの銃口を向けた。

 ガドリングシールドの銃身が回転を始める。


 高速回転する銃口は夥しいビームを放ち、バリケードを貫く。

 バリケードの隙間からゴブリンたちの死骸が崩れ落ち、焼けた金属と血の匂いが充満する。


 廊下から銃弾が飛んでくる。

 新たなバリケードが構築され、ゴブリンがAK47を向けていた。

 空人はガドリングシールドで、バリケードごとゴブリンを蜂の巣にする。

 

 空人たちは破壊したバリケードを越えた。

 新たなバリケードが空人たちの前に立ちはだかった。


「まるで時間稼ぎだな。これは当たりか?」

「そうかもしれないわね。でも時間が掛かるわ」

「面倒だからあれを使う。オーバーブラスター!」


 空人の眼前が輝き、十字架型のビームキャノン――オーバーブラスターが構築される。

 空人はオーバーブラスターを構えた。


 その砲口から放たれる微かな光の粒が集まり、次第に眩い輝きを放ちはじめる。

 危険を察したゴブリン達がバリケードから飛びだして、後ろに逃げ出していく。

 

 そのゴブリン達をビームが飲み込む。

 人質がいるから、出力も抑えている。

 その分、チャージする時間は早い。


「これで移動が楽になったな」

「あんた、無茶するわね」


 空人の傍らでスワーラが苦笑する。


「面倒なのは嫌いなんだ」

「その割には女関係で面倒なことになっているみたいだけど?」

「なんのことだ?」


 スワーラは盛大にため息を吐いた。


「ネウラの気持ち、気づいていないみたいね」

「おいおい、なんの話だ? 俺とネウラはただの戦友だぜ」

「あんたが鈍感だってことはわかったわよ」


 スワーラは再びため息を吐いた。


「あんたの惚れ惚れする剣技は、剣士ではないあたしから見ても見とれるわよ」

「そうかね。剣技だけで惚れるならば、俺のうえはいくらでもいるぜ。いままで戦ってきたシェイプシフターどもは俺に勝るとも劣らない強敵だらけだ」


 勝てたのは飛太刀二刀流の技が知られていない。初見殺しなのは大きい。

 つまり運が良かった。


「ううん――それだけとは思わないけど。あんた、ネウラを何度も助けたでしょう」

「仲間だからな」

「他になにかない? 気の利いた台詞を吐いたとか。あんた、結構キザなこと言うし」

「スワーラ。はっきり言うぜ。あんたの出した条件全て、俺以外にも当てはまると思うぞ。ネウラはあれだけの美貌の持ち主だ。他の男が放っておかないだろう」


 スワーラはなにを言っているのだろうか。

 多分、勘違いだろう。

 戦いが終わったあとに、ネウラもつれていくとは約束している。

 だが、それはセティヤの付き添いだ。

 あのふたりの深い絆ならば、互いに離れたくはないと思うのも理解出来る。


「あの子がデューサ家でなければ、縁談で持ちきりだったわよ」

「それはどういう意味だ?」

「ネウラの家は全員が娘で、騎士になっている。騎士は平時でも命を落とす危険があるわ。家の存続を考えていないのよ」

「この世界でも家の存続は大事なんじゃないのか?」

「大事よ。でも、デューサ家は特別なのよね」


 スワーラは歯切れ悪くいう。

 躊躇っているようだ。


 武装したゴブリンが背後から来る気配を感じ、空人は背後を振り向きながらガドリングシールドを構えた。


「それよりもいまは戦いに集中するぞ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ