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100億円契約の勇者と復讐の帝国   作者: アンギットゥ
第5章 陸上巡洋艦ラーテを迎撃せよ
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第28話 



 空人、セティヤ、ネウラ、そしてオーガたちはフィウーネ王国の生き残りの人達を運んだ。

 そのあとで、キビセルカと話をする。

 話し合いのあと、モリコ王国に向かう。


 モリコ王国にいるスワーラをスカウトし、一緒に戦ってもらうためだ。


 インビジブルは便利で、敵に発見されることなく道中を進めた。


 いくつもの山を越え、森を抜け、村や街を通り過ぎていった。

 道中のあちこちで戦闘の跡が残り、死体が散乱していた。

 あちこちで武装したゴブリン部隊を何度も目にした。


 生存者たちに銃口を向け、威嚇射撃をする場面もあった。

 ゴブリン達は威嚇射撃に怯えて逃げるひとたちを見て、あざ笑っていた。

 セティヤがサイドカーから跳びだし、ゴブリンに攻撃する。

 空人も加勢した。


 戦略的には見過ごすべきだ。

 自分たちがモリコ王国に向かっているのをデマルカシオンに悟られたくはない。

 だが、黙って見過ごすことも心情的には難しい。

 

 きっと自分たちの行いはひととしては正しくて、勇者としても正しくて、でも世界を救うものとしては失格なのだろう。


 いや、と考え直す。

 目の前で苦しんでいるひとに手を差し伸べなくて、世界は救えない。

 自分たちは正しいことをしている。そのはずだ。

  

 

 日が暮れて、腹も減ってきたのでいったん休憩することにする。

 目の前には湖が広がっていた。

 

 湖畔で食事をするのは、少し贅沢な時間だろう。


「今日の飯は汁なしラーメンだ」


 空人はデリバリーバックから、汁なしラーメンを取り出す。

 セティヤとネウラ、オーガたちに配る。


 札幌の北大近くにある汁なしのラーメンで、仕事の合間に食べに行っていた。


「前にもラーメンは食べましたが、今回は汁がないのですね。なにかメリットが?」


 セティヤは浮かない顔で尋ねてきた。


「配達中に汁なしはこぼれる心配がないのが利点さ」

「それは配達員のメリットでしかないのでは?」

「いや、真面目に気を遣うんだぜ。汁がこぼれるかどうかって。こちらの評価に響くし、なにより汁がこぼれた商品をお客様にお渡しするのは罪悪感があってさ」

「そういうものなんですか」

「まあこれは経験してみないとわからないことか」


 経験してみないとわからないことは多い。

 異世界で勇者として召喚され、戦う感覚も、お話で触れるのと経験するのは大違いだ。

 

「まあ、食べてみてくれ」

「はい」


 セティヤは頷く。


「麺がもっちりして、味も染みていて美味しいですね」

「だろう。ここは最近人気が出ている円山製麺なのもあるけど、美味しいんだ」

「正直、音を立てながら汁と一緒に食べるのが苦手でした。でも、汁なしはその必要がないのがいいですね」

「そういや、外人さんは音を立てるのが苦手って意見が多いんだった」


 数日前、空人はラーメンを出した。

 そのときに、セティヤに普通のラーメンの食べ方を教えるときに、勢いよく食べるのだと教えた。セティヤは困惑していた。


「このお肉と野菜の組み合わせも美味しいですね」


 セティヤは美味しそうにパクパクと食べていく。

 あっという間に完食し、満足そうな顔をした。

 それからほんの少し、悲しそうな顔になる。


「大丈夫か?」

「はい……ご心配をお掛けしました」

「破壊された街を見て、心を痛めているのか?」

「おわかりですね」

「そりゃな。俺がここの世界に召喚されて二週間くらいか。たったそれだけの日数だけど、命を共にしているんだ。あんたのことはわかるようにはなるさ」


 一緒にいた時間は短いが、何年もの付き合いがあるような濃密な時間だった。

 祖父がほんとうに信頼出来るのは戦友だったと語っていたのを思い出す。


「私たちはゴブリンに虐げられた民を助けた。でも、一時的に助けただけです。ほんとうは森林同盟六州にでも避難させるべきだった」

「そんなことをしていたら、モリコ王国にいつ到着するかわからないぜ」

「頭ではわかっているのです。この戦いを終わらせるのが最優先です。それが民の幸せだとわかってはいます。でも、こうして温かい食事を食べていると、一時的に助けた民の顔が浮かんできます」


 セティヤは優しい。

 それは美点であり、指導者としては向いていないのかもしれない。


「今回の作戦が成功すれば、少なくとも一時的に助けたひとたちは救えるはずだ」

「それはわかっています。少し感傷的になっていましたね」

「いいんじゃないか、あんたは人間なんだ」


 空人はセティヤの頭を撫でた。

 セティヤは空人に寄りかかってくる。

 ほんの一時でも、彼女が癒やされるならばそのままにしておこうと空人は思った。

 




 戦渦で焼かれた大地に、朝日の光が注がれる。

 空人とセティヤは十数キロ離れた場所から、異世界に似合わない異様な光景を見ていた。


「空人。あれはなんですか?」

「デマルカシオンの駐屯地だな」

「あれがデマルカシオンの駐屯地」


 セティヤが息を飲む。

 無理もないと思った。

 この世界とはあまりにも異なる理論で構築されている。


 十数キロにわたり、鉄条網が張り巡らされている。

 その内側には、土嚢を重ねて作られたバリケードが連なっていた。

 このふたつに気づかれずに突破するのは困難だろう。

 仮に突破したとしても所々に設置された監視塔が睨みをきかせている。


 駐屯地のなかを車両が行き交い、武装したゴブリンたちが忙しなく動いている。

 簡素なテントやコンテナが不規則に並び、その間に立ち上る煙が、発電機の稼働や調理用の火の存在を示していた。


 戦車や装甲車、戦闘ヘリも複数見えた。

 戦車はドイツ製のレオパルドⅡ。

 装甲車は日本製の96式。

 戦闘ヘリは米国製のアパッチと、出自の異なる兵器が混在していた


 しかしこの統一感のなさが、逆にデマルカシオンらしい。

 ゴブリンの武器はAKにRGBという旧ソ連の武器だ。


 この駐屯地の先に、モリコ王国はある。


「いまにも総攻撃するような気配がするんだが、俺の気のせいか?」

「私も同意見です。悠長に眺めていれば、モリコ王国は滅ぼされてしまいます」

「だよな。ネウラ。ちょっと来てくれ」


 空人は後ろを振り向き、ネウラを呼んだ。


「敵駐屯地を殲滅するのですね」


 バスを降りてきて、ネウラは開口一番にいった。


「まず俺が先陣を切る。ミサイル攻撃をして、監視塔や司令部を吹き飛ばす。あれは燃料コンテナだと思われるから、攻撃すれば大爆発を起こすはずだ。敵が混乱している間に、セティヤとネウラは攻撃を開始してくれ」

「空人殿。シェイプシフターはいると思いますか?」

「なんとも言えないな。モリコ王国を攻撃するための軍の指揮を執っているとは思うが、この程度の駐屯地にいるかどうか」


 セティヤとネウラは目を丸くする。


「空人から見れば、この程度なのですか?」

「簡易的な駐屯地さ。配備された物量は大したものだが、急ごしらえ感は拭えないな。例えばあの鉄条網なんて、本格的な基地だったら分厚いコンクリートにでもするさ」


 異世界では鉄条網だけでも、十分な効果があるかもしれない。

 そう考えれば、シェイプシフターがいる可能性はある。


「もし現れたら、呼んでくれ。俺がぶった斬る」

「いいえ、空人。私が倒します」

「そいつは頼もしいな。まあ臨機応変に行こうぜ」


 空人は頷いた。







「さあて、挨拶代わりの一撃を受け取れよっ!」


 空人は一瞬の静寂の後、軽やかに足を踏み切った。

 一瞬の跳躍で、重厚な鉄条網をまるで何でもないかのように飛び越える。

 駐屯地全体を見渡し、ターゲットを瞬時にロックオンする。


 肩部、腰部、そして脚部に搭載された無数のミサイルを一斉に開放。

 次の瞬間、無数の小型ミサイルが火を噴きながら四方八方に飛び散った。


 轟音とともに爆発が連続して起きる。

 ミサイルが地面に着弾するたびに、土砂と炎が高く吹き上がり、衝撃波が空間を斬り裂く。

 駐屯地の監視塔や司令部と思われるテント。

 バリケードは、一瞬で粉砕され、炎と破片の中に消えた。

 逃げ惑うゴブリン兵たちの悲鳴も束の間、肉片が四散する。


「ガドリングシールド!」


 空人は着地と同時に、ガドリングシールドを装着。

 燃料コンテナにビームを叩き込む。

 コンテナが大爆発を起こし、炎が巨大なキノコ雲を形成した。

 燃料の誘爆が次々に起き、爆炎が連鎖するように駐屯地全体を飲み込む。

 ゴブリン兵たちは、炎に包まれて一瞬で灰と化した。


 武装したゴブリン達が向かってくる。

 胸部のガドリング砲で一掃する。

 ガドリングシールドでレオパルドⅡ、アパッチ、96式を順に破壊していく。


 ――俺一人で十分だったか?


 空人は自問自答した。

 自分の火力は駐屯地をたったひとりで殲滅出来る威力があるようだ。

 いままでデマルカシオンの駐屯地と出会わなかったが、これだけの攻撃力があれば殲滅は容易い。


 セティヤとネウラ、オーガたちも攻撃を開始したようだが、逃げる残敵の掃討程度しかしていない。


 空人はガドリングシールドと胸部ガドリング砲で、残ったゴブリン達を一掃する。






 たった十数分で、デマルカシオンの駐屯地は壊滅した。


 いままでは全身のミサイルを使い、敵が混乱するなか、クレセントムーンで次々と斬っていっただろう。時間は掛かるが、敵の撃滅は出来た。


 ガドリングシールドと胸部ガドリング砲が、こんなに簡単に敵を撃滅出来るとは思わなかった。


「空人。敵は殲滅出来ましたね」

「こんなに簡単とは思わなかったけどさ」

「私も驚いています。オーガ軍団を相手にしたときに比べれば数は少ないですが、あのときは味方が五千もいました。物量差でいえば、いままでで一番不利だったはずです。空人の火力が強化されたおかげで、効率よく戦えます」

「これでデマルカシオンを倒すのは楽勝――と言いたいところだが、団体さんのお出ましみたいだな」


 空人は西のほうを向いた。


 遠くの地平線に、砂塵が立ち上がっていた。

 低く唸るような振動が地面を伝わる。

 静まり返った空気を裂くようにして、アパッチ攻撃ヘリが編隊を組んで接近していた。


 地上では、それに呼応するように戦車の車列が砂煙を巻き上げながら進んでいた。

 レオパルドⅡが地面を震わせ、砲塔は左右に動き、威嚇しているようだ。


「スナイパーライフル!」


 空人が叫ぶと同時に、彼の手元に眩い光が収束し、形を成していく。

 現れたのは、近未来的なデザインのビームライフル。

 鋭角的なフォルムにエネルギーが脈打ち、銃身からは淡い光が漏れ出している。


 空人は片膝を付き、スコープを覗き込む。

 引き金を引いた。

 銃口から一条のビームが発射され、アパッチを貫く。

 アパッチが空中で爆発し、砕けた黒い装甲の破片が地面に落下。

 地上を走行するレオパルドⅡの装甲を叩いた。


 続けて、空人は引き金を引く。

 今度は回転翼を貫かれ、制御を失い地面に落下していく。

 レオパルドⅡの真上に激突し、アパッチの爆発にレオパルドⅡが巻き込まれる。

 

 戦車の正面は分厚いが、上部は弱い。

 その上部に燃料と武装を満載したアパッチが爆発すれば、頑強なレオパルドⅡも耐えられない。


 空人は離散するアパッチを次々と撃ち、撃墜していく。

 レオパルドⅡもジグザグ走行で攻撃をかわそうとするが、空人は容赦なくレオパルドⅡの車列をスクラップに変えた。


「ひとまず、増援は潰したな。と思ったら、新手か」


 今度は東から、アパッチの編隊とレオパルドⅡの車列が見えた。

  

「削れるだけの戦力は削ってやる!」


 空人はスナイパーライフルを構えた。

 



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