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100億円契約の勇者と復讐の帝国   作者: アンギットゥ
第4章 フィウーネ王国編
23/58

第23話


「お前の首をもらおうか!」


 空人は斜め前に大きく跳んだ。

 暴風のような斬檄が目の前を通過する。

 ほんの少しでも反応が遅かったら、首が切り落とされていた。

 空人はヘルメットのしたで冷や汗をかく。


 空人はヘルメットのバイザー越しに敵を睨んだ。

 人の体に牛の頭。

 手にはハルバートを握っている。

 ハルバートも色々な種類があるが、この敵の持つハルバートは先端が斧のような形をしている。


 ――こいつが待ち伏せしていたシェイプシフターか!


 空人はクレセントムーンを振るう。

 この世界に来て、一掃磨かれたと実感出来る剣技。

 ただの一振りでも、強敵を一撃で葬れる必殺の威力があると自負出来る。 

 その一撃を、敵は斧の刃でいとも容易くはじき返した。


「やるな!」

 

 空人は空中で回転しながら、着地。

 レフトセンテンスも抜いた。

 二刀でなければ勝てないと本能的に悟る。


「我が名はミノタウロスシェイプ! デマルカシオン最強の戦士でアル!」


 ミノタウロスシェイプと名乗ったその姿は、納得だ。

 神話に出てくる牛の頭を持つギリシャ神話の怪物――ミノタウロスそのものだ。


「ハルバート、か。やりあうのははじめてだな」


 ミノタウロスシェイプがハルバートを構える。

 槍とは違う。左右の手で中央の部分を持っている。

 槍の場合は流派にもよるが先端を前に出すものだが、ハルバートは違うようだ。

 

 

 空人は両手をだらりと下げた。

 得意の無の位でミノタウロスシェイプに接近する。

 クレセントムーンを振るう。

 ハルバートの斧のような先端でクレセントムーンを引っかけ、体勢を崩してくる。

 返す刃が空人の胸に迫り、半身をひねることでかわす。

 次々と繰り出される突き。

 体勢を崩された状態で無理やりに体を捻りながらかわすのはきつい。

 かわしきれずに、少しずつ装甲に切り傷がついていく。


 クレセントムーンでハルバートの斧の形をした先端を受け止め、握っている手を放す。クレセントムーンがくるりと回転し、重力に引かれて落ちた。そのクレセントムーンの柄を逆手でキャッチし、前のめりに倒れながらミノタウロスシェイプの胴体に一撃を放った。


「これを防ぐかよっ」


 空人はヘルメットのしたで汗をかいた。

 ミノタウロスシェイプはハルバートの柄で、刃を受け止めていた。


「ぐっ」


 空人は頭に衝撃を受ける。 

 ミノタウロスシェイプが右肘をあげ、空人の頭を殴っていた。

 そのままミノタウロスシェイプは左足を前に出し、ハルバートの石突きで空人の頭を殴る。

 更なる衝撃が空人の脳を揺らす。


 空人が後ろに倒れ込んだのは、経験則からだ。

 ハルバートの刃が空人のいた空間を切り裂く。

 空人は倒れた勢いを利用して、後ろに転がり、距離を取った。


「こいつ、最強を名乗るだけはあるぜっ」


 ミノタウロスシェイプはこれまで戦ってきた相手とは違う強さがあった。


「西洋剣術の恐ろしさは、バインド――つまり、受け流す技術が凄いんだったな。知識として知ってはいたが、ここまでとは思わなかったぜ」


 日本刀は刀をぶつけ合う、鍔競りあいは基本的には行わない。刃こぼれするからだ。

 だが、西洋剣術は刀を受け流す技術が基本だ。


 飛太刀二刀流も受け流す技は幾つもある。

 だが西洋剣術ほど、洗礼されてはいない。


「つまらぬっ」

「なんだと?」

「つまらぬといったのでアル! 貴様の相手など、フェアリーテイマーで十分だ」


 ミノタウロスシェイプが右手を掲げる。

 前後左右からビームが放たれ、空人は後ろに跳んだ。


 この攻撃は覚えがある。

 森林同盟六州に避難民を連れて行ったときに戦ったシェイプシフター、フェアリーテイマーと同じだ。

 無数の妖精を使い、ビームを放ってくる。

 厄介な相手だ。


 その妖精がいつの間にか、自分を取り囲んでいる。


 空人は妖精たちを操る本体を探す。

 少し離れたところに、三体のヤギのような角を生やした男たちがいた。

 褐色の肌で、無機質な顔でこちらを見ている。


  

 この世界の魔族であり、フェアリーテイマーだろう。


 さらに別な場所にもフェアリーテイマーが二体、こちらを見ている。


「やれ、フェアリーテイマーども!」


 シェイプフシターに階級はないと思っていたが、上下関係はあるようだ 

 

「まずはこいつらから倒せってか! 上等だ!」 









「空人!」


 セティヤは空人に向かって叫んだ。

 フェアリーテイマーの攻撃を受け、駆けながらビームをかわしている。

 しかもそのビームの量は前回と比べて、三倍はある。

 あれだけの攻撃を受ければ、空人も耐えられなくなる。

 自分が援護に向かわなければいけない。


 そう考えたセティヤに、ハルバートが振り下ろされた。

 セティヤは跳んでかわす。


「ほう、これをかわすかでアルか!」


 いつの間にか、ミノタウロスシェイプが近くにいた。

 

「我は貴様に用があったのでアル!」

「私に?」

「あれを出せ!」


 破壊された建物から男女がゴブリン達に連れてこられた。

 その人数は五十人。

 全員が手足を縛られている。


「お父様、お母様、お兄様、お姉様、おじさま、おばさま……」


 セティヤの親族、つまり王族だ。

 デマルカシオンの侵攻で、これだけの王族が生きているとは驚きだ。

 徹底抗戦をして、死んだと思い込んでいた。

 

「人質ですか? 卑怯ですね」

「我が人質を取ると、思っているのか? でアル!」


 ミノタウロスシェイプは縛られた王族達に向かって、歩き出す。

 セティヤに背後を向けている。

 隙だらけの背に、セティヤは肉迫しようとした。


「――ッ」

 

 フェアリーテイマーのビームが、セティヤの動きを阻害する。

 そうしている間にミノタウロスシェイプは王族達の側に来た。

  

「我の目的は貴様に苦しみを与えることだ! 我らを地獄に落とした元凶のフィウーネ王室は、今日、この日をもって最大限の苦しみのなかで潰える!」


 どくん、っとセティヤの心臓が高鳴った。

 嫌な予感がした。

 その予感が外れるのを祈りながら、セティヤはミノタウロスシェイプから視線を離さない。


 ミノタウロスシェイプがハルバートを高く掲げる。

 まさか――


「親にとって、最も悲しいのは目の前で子を失うことでアル!」


 ハルバートが若い男の首を斬り飛ばした。


「セフィお兄様!」


 セティヤが悲痛な叫びを上げる。

 一番上の兄が殺された。

 優秀で優しく、次代の王として期待されていた兄は生涯をあっけなく閉じる。


 王と妃も叫びはしなかったが、悲しみに顔を歪ませる。


「そして子供にとっても、親を失うことは悲劇でアル!」


 王の頭をハルバートが真っ二つにする。

 

「さらに悲劇なのは、生きていると知った家族を皆殺しにされることでアル!」


 ミノタウロスシェイプがハルバートを振う。

 人質の頭を握りつぶし、巨大な顎で噛み砕き、殴られた部分ははじけ飛んだ。


「やめろぉ!」


 セティヤが駆けた。

 フェアリーテイマーのビーム攻撃を全身に浴びながら、前に出る。

 肉体の痛みは無視した。

 心の痛みのほうが大きかったから。

 親族に向けて手を伸ばし、必死に救おうとした。


 王族達の悲鳴と命乞いが響く。

 最初は気丈に恐怖心を抑えていた王族達だったが、次々と惨殺されるその光景から耐えられなくなったのだろう。


「遅いのでアル!」


 ミノタウロスシェイプのハルバートが、最後の人質を惨殺した。

 まだ十二歳の少女だった。セティヤの大事な妹のひとりだった。

 

「レティ……」


 セティヤの眼から涙が零れる。


「貴様ぁ、どうしてこんなことをした!」


 セティヤは吠えた。

 普段の自分からは信じられない荒々しい言葉が出てきた。

 こんなに心が揺れ動いたのははじめてだった。

 死んだと思っていた家族が生きていて、しかし無惨に殺されるのがこんなにも心を掻きむしるとは思いもしなかった。


「馬鹿め! 我が人質を取るわけがなかろうでアル! 人質どもを生かしていたのは、そこの娘に絶望を与えるためでアル! 我らの目的はこの世界の人間どもに地獄を味あわせること! 特に元凶となったフィウーネ王室のものどもは特別に辛い地獄を味あわせてやると誓っていたのでアル!」

「外道がぁ!」

「我らの憎しみを少しは思い知ったのでアル! そもそも人質などいなくても、我は貴様らを叩きつぶすには十分な実力があるのでアル!」


 セティヤの体が怒りで震える。


 自分たちの幸せは、シェイプシフターとなった大勢の人たちの犠牲のうえになり立ている。それは罪深いと理解しているし、憎むのもわかる。だが、こんなことをして許されるはずがない。


 この男がなにを抱えていたとしても、許さない! 絶対に許さない!

 

「おっと、最後の人質を忘れていたのでアル」


 ひとりの少女が連れてこられる。

 その年齢は六歳。


「マリー……」


 セティヤが一番可愛がっている妹だ。

 恐怖で全身が震えている。 


「あなただけでも――たすける!」


 セティヤが躊躇いなく跳んだ。

 いつの間にか、フェアリーテイマーの攻撃が止んでいたのも大きい。

 ミノタウロスシェイプのハルバートが振り下ろされ、マリーを守るために覆い被さったセティヤの背中に当たる。


 セティヤの皮膚の血管が裂け、血が吹き出す。

 このままハルバートの刃が進めば、セティヤの体は胴から真っ二つに両断されるだろう。

 だが、すぐにはならなかった。


 セティヤの肉体は、否、フィウーネ王室のものたちの肉体は多くの種族の血を取り入れている。皮膚さえも常人より頑丈だ。その王族、50人を惨殺したハルバートの刃には僅かな刃こぼれが出来ていた。


 切れ味が鈍ったハルバートの刃に、セティヤの頑丈な皮膚が加わり、致命傷を与えるのをほんの少し遅らせる。

 

 ハルバートが跳ね上がり、ミノタウロスシェイプは顔をしかめる。

 一条のビームがハルバートの刃に命中したからだ。


 そのことに驚いたミノタウロスシェイプの視界から、セティヤが消えた。


「なにが起きた――のでアル?」


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