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タヌキが化けた郵便ポスト

作者: 郁章


 化けタヌキのぴょん吉は、桃ノ木山に一匹だけで住んでいました。毎日、夜が明けてから日が暮れるまで、ずっと化ける練習をして暮らしていました。ある晴れた日の昼下がりのこと、ぴょん吉は久しぶりに町に出てみようと思いました。ずいぶん化けるのがうまくなったので、腕試しをしたくなったのです。ぴょん吉が町を歩いていると、赤くて四角いよく目立つ箱を見つけました。


(ようし、この箱に化けてやろう)


「ポポンがポン!」


そう言って、くるりと宙返りをすると、ぴょん吉は箱に化けました。

その時、小さな男の子がひとり、向こうに方から走ってきました。手には葉書を一枚持っていました。

男の子は、ぴょん吉が化けた箱と、もとからあった箱を見くらべると、困ったようにつぶやきました。


「あれれ。郵便ポストが2つもある」


ぴょん吉が化けた箱は、郵便ポストだったのです。男の子は、少し迷ってぴょん吉が化けた方の郵便ポストに、葉書を入れました。それから、両手を合わせて、 


「おばあちゃんにちゃんと手紙を届けてください」


と、大きな声で言いました。

さて、ぴょん吉は元のタヌキの姿に戻ると考えました。


「この手紙、どうしよう。おいら、手紙を届けてほしいって、頼まれちゃったしなあ。あの子のおばあちゃんにこの手紙を届けてやらなくちゃ」


手紙の宛先を見ると、『あしびやま くりのきばやし 1ばんち やまもと きよこさま』と書いてありました。そして、裏には、「おばあちゃん、だいすき。おしょうがつにあそびにいきます。まっててね。ごろうより。」と、書いてありました。


「『あしびやま くりのきばやし』って、一体どこなんだろう」


ぴょん吉が途方に暮れていると、近くの柿の木の枝から様子を見ていたカラスが、教えてくれました。


「あしび山は三つ隣の山だよ」


「そうなの?遠いなあ。何日もかかりそう。でも、頼まれちゃったからには、おいらがちゃんと届けなくっちゃいけないしなあ。」


「べつに、絶対届けなきゃいけないわけでもないだろう」


カラスが言いました。


「でも、この手紙がとどこかなかったらあの子が悲しむだろうし、もしかしたらあの子のおばあちゃんは手紙が届くのを心待ちにしてるかもしれないし。おいら、頼まれちゃったからちゃんと届ける責任があるんだよ」


「ふうん。そんなもんかね。じゃあ、カラスに化ければいいじゃないか。ひとっとびで着くよ」


「ようし、やってみよう!」


ぴょん吉は、「ポポンがポン」と叫ぶと、くるりと宙返りをしました。すると、そこには茶色のカラスが一羽いました。ぴょん吉が化けたのです。


「ちょっと不格好だが、だいたいカラスだな。それなら俺に、ついておいで」


黒いカラスが言って飛び立ちました。ぴょん吉カラスも慌てて翼を広げました。しばらく飛んでいるうちに、ぴょん吉はだんだん疲れてきました。

「ねえねえ、カラスさん。ちょっと休みたいんだけど」


「なんだって?まだほんの少ししか飛んでないじゃないか。」


「でも、もう、体が重くって」


黒いカラスが振り向くと、茶色いぴょん吉カラスが少し低いところを飛んでいました。でも、何か変です。


「あ、尾がタヌキのしっぽになってる。こりゃあダメだ。」


そういうと、黒いカラスは近くの木に降り立ちました。ぴょん吉カラスも後に続きます。


「おいおい、なんでしっぽが出てるんだい?」


黒いカラスがぴょん吉カラスに聞きました。


「おいら、疲れるとしっぽが出ちゃうんだ。」


「そりゃあ、困ったな。しっぽの重さで高く飛べないぞ。それに、疲れて落ちたら大変だ。このまま飛んでいくのはやめておこう。そうだ、電車に乗ればどうだい?あしび山まで二時間くらいで着くさ。」


「カラスさん、いいことを教えてくれてありがとう。おいら、電車に乗って届けに行くことにするよ」


ぴょん吉は笑顔で言いました。



ぴょん吉は、カラスに案内してもらって、今度は地面を歩いて駅までたどり着きました。駅の向かいのポ

プラの木の陰に隠れて駅の様子を観察していると、人間がやってきました。人間は、機械の扉を通りぬけると駅の中に入っていき、停まっている電車に乗り込みました。カラスがポプラの木の枝から言いました。


「もうすぐ電車が発車する時刻だよ。あの人間のように電車にお乗り。三つ目の駅が、あしび山のふもとの駅だよ」


「ありがとう。カラスさん」


ぴょん吉がお礼を言うと、カラスは「カア」と、一声鳴いてどこかへ飛んでいってしまいました。

ぴょん吉は、誰にも見つからないようにこっそり電車に乗ると、隅っこでうずくまっていました。やがて、電車が三つ目の駅で停まりドアが開きました。ぴょん吉は、電車を降りると駅を出ました。



 あたりの様子をうかがっていると、大きな松の木のてっぺんから、大鷹がぴょん吉に聞きました。


「あんた、タヌキなのに電車に乗ってきたのかい?どこへ行くんだね?」


「栗林一番地のおばあちゃんの家まで行くんです」


「ああ、山の真ん中だね。あたしならひとっとびさ。でも、タヌキの足で行ったら日が暮れちまうよ」


「え?そうなの?困ったなあ」


ぴょん吉が困っていると、大鷹が言いました。


「人間はバスに乗っていくよ。あんたもバスにのればいい」


「なるほど。そうしてみるよ」


「バス停はあの赤い屋根の家のまえだよ。バスに乗るにはお金がいるよ。」


「わかったよ。教えてくれて、ありがとう」


大鷹にお礼を言って、ぴょん吉は駅を後にしました。



 パス亭には、女の人がひとり立っていました。物陰から様子を見ていたぴょん吉は考えました。


(バスに乗るときは、おいらも人間に化けなきゃいけないな。そうだ、この手紙の男の子に化けよう)


「ポポンがポン!」


ぴょん吉がくるりと宙返りをすると、そこには手紙を持ってきた男の子が立っていました。ぴょん吉が化けたのです。

ぴょん吉は落ちていた木の葉を一枚拾うと、化け術をかけてお金に変えました。それを持って女の人のいるバス停に行きました。


「あら、小さいのに一人でお出かけなの?」


ぴょん吉を見て、女の人が聞きました。


「『あしびやま くりのきばやし1ばんち』のおばあちゃんの家へ行くんです」


ぴょん吉がそう言うと、女の人は感心して言いました。


「えらいわねえ。気を付けて行くのよ。私が降りるバス停を教えてあげるわね」


「ありがとうございます」


ぴょん吉は女の人にお礼を言いました。

やがて、バスが到着しました。バスは、田んぼの間の道をすいすいと走っていきます。


「坊や。次のバス停で降りるのよ」


女の人がぴょん吉に声を掛けました。しばらくするとバスが停まったので、ぴょん吉はバスを降りました。

バスを降りると、少し離れたところに、家がありました。ぴょん吉は家の戸をトントンと叩きました。おばさんが出てきて、ぴょん吉を見てびっくりしました。


「おや、坊や。どこの子だね?」


「ぼく、『あしびやま くりのきばやし1ばんち』のおばあちゃんの家へ行きたいんだけど、道を教えてもらえますか?」


「一番地なら、この前の道をずっと登って行ったところだよ。でも、・・・・・・」


「ありがとう」


そうお礼をいうと、ぴょん吉はおばさんの言葉を最後まで聞かずに、山へ続く坂道を登っていきました。



 その日の夕方、ぴょん吉は山の中ほどにある栗林一番地のおばあさんの家に辿り着きました。たくさん歩いて、ヘトヘトでした。


「あらあら、ゴロウちゃん、ひとりでこんな山の奥まで来たのかい。よく一人で来られたね」


「ぼく、電車に乗って、バスに乗って、ふもとの家で道を教えてもらってきたんだよ。」


「えらかったねえ」


「おばあちゃんにこの手紙を渡したかったんだ」


「まあ、手紙を・・・・・・」


おばあさんはぴょん吉が差し出した手紙を、受け取って読み始めました。


ぴょん吉はドキドキしました。やがて、手紙を読み終わったおばあさんは言いました。


「お手紙ありがとうね、ゴロウちゃん。さあて、今日はもう遅いし、泊まっておいき」


おばあさんは優しい声で言いました。ぴょん吉は、おばあさんの言う通り泊まらせてもらうことにしました。おばあさんが夕食の準備をし始めると、疲れていましたがぴょん吉も手伝いました。ところが、知らないうちにしっぽが出ていました。おばあさんは、孫のゴロウのお尻からタヌキのフサフサしたしっぽが出ていることに気づきましたが、何も言いませんでした。ぴょん吉は、晩御飯をたくさん食べさせてもらい、おばあさんの布団の隣に布団を並べて寝かせてもらいました。



 次の日の朝、ぴょん吉はタヌキの姿に戻っていました。隣で眠っていると思っていたおばあさんの姿はありませんでした。

「きっと、タヌキの姿を見られてしまったんだ。タヌキ汁にされてしまうかも」

そう思ってぶるぶる震えました。逃げようと思いましたが、どの戸も閉まっていて、どこから逃げればいいのかわかりません。

 そうこうするうちにおばあさんがふすまを開けて入ってきました。


「あらあら、起こしちゃったのね」


おばあさんが言いました。昨日と変わらず優しい声です。


「おばあちゃん、ぼく、だますつもりはなかったんだけど・・・・・・。ぼく、本当はおばあちゃんの孫のゴロウちゃんじゃなくて化けタヌキのぴょん吉なんだ」


「そうだったのね。でも、心配しなくてもいいのよ、ぴょん吉ちゃん。本当は昨日、しっぽが出ているのを見てタヌキが化けてきたんだって気づいてたのよ。それに、あなたは悪いことする子には見えなかったから、だまされたふりをしていたのよ。ゴロウちゃんのお手紙を届けに来てくれたんでしょう。ありがとうね。また、お手紙届けに来てね」


おばあさんは微笑んで言いました。ぴょん吉の震えが止まりました。ぴょん吉は、おばあさんも一人ぼっちで寂しかったのだと気づきました。

おばあさんは、「戸を開けましょうね」と、言って縁側の雨戸を開けました。ぴょん吉は、小さく頭を下げると、縁側からするりと外に出ました。外の栗の木には、心配して様子を見に来たカラスがとまっていました。ぴょん吉は、カラスと一緒に桃ノ木山に帰りました。



 それからしばらくしたある日、おばあさんに手紙が届きました。おばあさんが畑仕事をしていると、空からひらひらと舞い落ちてきたのでした。おばあさんが空を見上げると、茶色いカラスが一羽飛んでいきました。

おばあさんは手紙を読みました。


「おばあちゃん、おげんきですか。

このまえは、ありがとうございました。

ぼくは、やまで ばけしゅぎょうを がんばっています。

カラスにばけて とおくまでとぶことも できるようになりました。

また、あそびにきます」


と、書いてありました。

おばあさんは読み終えた手紙をエプロンのポケットに入れておいたのですが、いつの間にか葉っぱに変わっていました。



お読みいただき、ありがとうございました。

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