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序 赫糸の姫
遠い、遠い、昔の話。
あやかしの跳梁跋扈する世に人の国をつくった男は、夏の始まりに寵姫を喪った。
彼が夏の大陸を治める皇帝となった時、愛した女は、もう土のなかにいた。
――生まれ変わりの己よ、探せ。あの姫を。
数代先のとある皇帝は、初代の寵姫を〝赫糸の姫〟と名づけて云う。
帝が再び姫とめぐり逢えた時、国は栄華を極めるであろう、と。
――何度と繰り返しても結ばれぬ彼女を、今度こそ……!
夏紗国の古い言い伝えだ。
帝の子を成すためと女らの集う、夏紗国の後宮に、今。
あの赫糸の姫がおわします、とまことしやかに囁かれる。
紅をひいた艶めく唇が、茶会で、宮で、他の妃嬪や侍女たちと姫の話をする。
――ねえ、やはり皇太后さまの縁戚であらせられる貴妃さまかしら。
――それとも、主上のお気に入りと噂の徳妃さまかしら。
――妹君の長公主さまとの禁断の恋、という噂もありましてよ。
――あの双子のお嬢さまは……近頃入内した姫が……どこかの女官やも…………




