祭の夜
黄昏色に染まった夕空の下で生徒たちが盛り上がっている。
そんな光景を私は窓からぼんやり眺めながら、りんご飴を齧る。
「ほんとにここで良かったの?」
私の向かいでたこ焼きを頬張ってるはつらつとした少女が聞いてきた。
「いいの。私騒がしいのあんまり好きじゃないし。かなこそ私なんかと一緒にで良かったの?」
「ぼくは優香と一緒だったらどこでもいいよ」
「なにそれ私のこと好きすぎじゃない?」
「うん、好きだよ」
微笑みながらかなが言う。
「っ!?」
ショート髪でボーイッシュなかなに言われ私は思わずドキドキしてしまう。
顔が赤くなってることを自覚する。
「どうしたの? 顔赤いけど」
「なんでもない! よくそんな恥ずかしい台詞すぐに出てくるよね」
「え、恥ずかしい!?」
かなが慌てる。
「誰にでも好きとか言ってたらいくらうちが女子校でも勘違いされるよ。ただでさえかなは女の子にモテるんだから」
「誰でもなんて言わないよ」
「え」
「冗談でもなんでもなく、ぼくは優香のことが女の子として好き」
ドーン!!
花火が上がり、爆音が響いた。
だがかなが言ったことはしっかりと私の耳に届いた。
「うそ」
「ううん、ほんと」
かながまじめな表情で答える。
「……」
「それで、優香はどうなの?」
驚きで思考停止状態になりかけていると、かなに問われ我に返る。
「あ、えっと、その……わたひもすひ!」
だが慌てすぎてしどろもどろになり、最後噛み噛みになってしまった。
派手に自爆して超絶恥ずかしくなった。
「ふふっ」
「もう! 笑わないでよ!」
「ごめんごめん、優香が余りに可愛くてつい」
「むう。もう知らない」
ふくれっ面で私はそっぽ向いた。
「ごめんってば。これあげるから許して」
そう言ってかなは食べていたたこ焼きを差し出した。
「あーんして」
「はいよ」
かなは狼狽えることなく私にあーんした。
きっと私だったら同じことをやれと言われても狼狽えてしまうだろうな。
何の変哲もないただの学園祭の屋台で買ったたこ焼きなはずなのにかなからもらったたこ焼きは今まで食べたどのたこ焼きよりもおいしく感じた。
「許す」
「ありがと」
口の中をもぐもぐさせながら私が言い、かなが満面の笑みで礼を言った。
太陽のような笑みを向けられて私の胸の鼓動が早鐘を打つ。
「……その顔ずるい」
私は小声で呟いた。
「なんか言った?」
「なんでもない」
問いかけるかなに私はぶっきらぼうに返す。
「でも嬉しいな。優香が好きって言ってくれて」
「私もずっと好きだったから、かなのこと。恋愛的な意味で。でもずっと言い出せなかった。ごめんね、臆病者でさ」
「そうだったんだ。大丈夫だよ。そんなこと気にしなくても。ぼくはお互い好きあってることが分かって嬉しいよ」
「ありがとう」
先にかなに告白されてしまったのはちょおと悔しいけど、かなが私のことを好きということがわかって心の底から嬉しかった。
「末永くよろしくね、優香」
「こちらこそよろしく、かな」