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これまでよりこれからを見据えて(2)


 怪訝そうに尋ねてきた橘さんの疑問は()()()()だろう。むしろ俺が知りたいくらいだ。なぜ人妻に餌付けされているのかを。

 片や二股されて愛想尽かした元カノJK。もう一方はいつの間にやら懐いてきて、面倒を見てくれようとする美人奥様。俺の理想である平凡な恋愛は、この二人とは叶えられそうにない。

 橘さんにどう説明すべきか思考を巡らせていると、ニッコリ微笑んだ貴船さんが答えた。

 


「仲の良い友達……かな。あたしが勝手にそう思ってるだけかもだけど」


「いえ、俺もそう感じてますよ! 貴船さんは年上っすけど、すごく接しやすいですから」


「そっかぁー♪ 石切くんは年下の男の子って感じで可愛いよ☆」

 


 ちょっと余計な一言が混じったけど、大した影響はないだろう。しかしこの考えは甘かったらしく、あからさまに表情を曇らせた橘さんは、気に入らんとでも言いたげに指摘を加える。

 


「職場に手料理を持ってくるって、友達の域を超えてませんか? それに貴船さんは結婚もされてますよね?」


「こ、これは別に——」

 


 どうしよう。弁明しようと咄嗟に言いかけたものの、意見が真っ当で言い訳も出てこない。深い意味はないと告げても、否定された後が困るだろう。俺が頼んで作らせたなんて言えば、貴船さんが罪悪感を募らせるに決まってる。

 口を開けたまま硬直してしまい、元カノからの視線がズキズキ刺さる。だが貴船さんの瞳は色褪(いろあ)せたように輝きを失っていた。

 


「橘さんは石切くんへの執着心が消えないの? ちょっと自分勝手じゃない?」


「しゅ、執着などではありません! 純粋な想いから心配してるだけです!」


「純粋な想い? 一番仲良しな彼がいるのに?」


「あの人は……ただの友達です……」


「ほら、あたしと同じじゃん。それに石切くんはあなたのせいで傷ついて、ご飯食べながら号泣してたんだよ?」


「ほ、本当ですか石切さん……?」


「まぁ、情けないけどその通りだよ」


「そんなに酷い仕打ちを………してしまったなんて……」

 


 言葉を失い、絶望感を露わにする橘さん。サラッと論点をすり替え、瞬時に責めに転じた貴船さんは確かに怖い。どちらが危ない橋かと言えば、既婚者である彼女の方なのに。

 このまま泥仕合を見届けるのも億劫なので、非を認めてる元カノに引き際を示した。

 


「橘さん、終わったことだからもういいよ。これを機に相手の気持ちを知れたなら、きっといつか良い人と巡り会えて、幸せにもなれるさ」


「では……私にチャンスをくれませんか?」


「チャンス? どういう意味?」


「幼馴染との縁は切ります。ですからもう一度……もう一度だけ恋人同士になってください。私が本当に好きになれたのは、石切さんだけなんです!」


 

 力強く懇願され、若干たじろいでしまった。

 本音を言えば信用できない。長いこと()()()()()をしてきたのに、簡単に切れたりはしないだろう。しかも俺にそこまでする価値があるとは思えない。だけど嬉しかった。本気で好きだった人から真っ直ぐに好意を向けられたら、内心の動揺までは抑えられない。

 返答に悩んだ俺の視線は、自然と貴船さんに移っていた。しかし彼女は悲しそうな目に変わると、売り場の奥へと去ってしまう。大事なことなら自分で判断しろという意思表示だろうか。

 結局結論は出ないまま、現時点での胸の内を嘘偽りなく打ち明けた。


 

「ごめん、口約束をすぐに信じるのは無理だ。だからさ、りっちゃんのこれからの為にも、付き合う気がない相手とは少しずつ離れてみてよ。俺はもう君を毛嫌いしないし、友達として接する。君の本気が伝わってきたら、その時は復縁を考えよう」


「ありがとう石切さん♪ 必ず態度で証明しますから、ちゃんと見届けてくださいね♡」


「うん、分かった」


 

 元カノの喜んでる姿が天使過ぎて直視できない。どう考えても引く手数多なのに、なんで俺なんかに拘るのだろう? 自慢じゃないが、モテてた時期なんて小学生時代だけだぞ。

 話し終えるタイミングを見計らったかのように、貴船さんがレジまで戻ってくる。手には缶チューハイとカップアイスが二つずつ。確認すると、アイスの方は見覚えがあった。

 


「これ、あの時買ったやつですね」


「そー! 石切くんに奢ってもらったアイス♪ 色々食べ比べたけど、これが一番美味しかったんだよね〜」


「そんなにですか。俺も買って帰ろうかな」


「ぜひぜひ〜。オススメだよー☆」


「あっ、てか今回もいただいてるんで、俺が払いますよ」


「いいっていいってー。キミが美味しく食べてくれれば、それだけで満足だからさ♪ もちろん口に合わなければ、無理しなくていいからね?」


「分かりました。しっかり味わって、次に会った時に感想伝えますから」


「うん♪ 楽しみにしてるね♡」


 

 目の前の年上女性が女神みたいで眩し過ぎる。不覚にも離せなくなった目線が、ゆっくり下に降りていくと、その先には()()()()胸元、そして白い谷間があるではないか。着痩せするタイプなのか、結構ボリューミー。それにしても貴船さんの服、さっきまではこんなに着崩れてなかった気がするんだけど。

 ぼけーっと鼻の下を伸ばしていた俺は、隣にいるJKの高い声でふと我に返った。


 

「貴船さんの発言、とても友達に向けてるとは思えないんですけど!?」


「そ〜お? あたしからすれば、手を繋いだりキスしたりできる男子を、ただの幼馴染って言い張る方が無理あると思うんだけどー?」


「あっ、あれは向こうから迫ってきた勢いで……」


「あはっ☆ ガチでそういう関係なんだ〜。それなのに石切くんが好きって、さすがに苦しくなーい?」


「なっ……出任せで(たぶら)かしたんですね!? 高校生相手に汚い手まで使って、大人として恥ずかしくないんですかっ!?」


「あたし、怒ってるから」


「はい!? 私があなたに何をしたと——」


「大切な人が傷つけられて、ずっと怒ってるんだよね。石切くんが許しても、あたしは橘さんを絶対に許せないから」


「あなたになんの権利があるんですか!? ただの友人なら口を挟まないでください!」


「橘さん知ってる? 泣きながらご飯飲み込むのって、すごく痛くて辛いんだよ?」

 


 唐突に始まった舌戦は、介入する隙が無い。揺れ動く心境に戸惑いながら、自分の置かれた状況に、ただただ途方に暮れていた。

 


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