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悪役令嬢役を頼まれたので

 二つ年下の幼なじみ、ダグラスから、

「お願い! 人助けと思って!」

と頭を下げられたものの、…どうかと思うよ。


 ここ、辺境と言ってもおかしくないほどのど田舎、ホーフェンシュタインは、人よりも山羊が多いようなところだ。

 牧畜に酪農、ささやかな農業を中心に緑とのどかさだけが取り柄の我がポルシュ子爵領。

 田舎の弱小貴族の子供は、言うなればちょっとリッチな田舎者にすぎず、王都にだって滅多に行かないから、自分たちがいかに貴族らしくなく暮らしているかさえ気がつかないほどに領のみんなと変わらぬ暮らしをしていた。


 ダグラスはライヒシュタイン侯爵家の四男。一目見て違いがわかる、いいとこの坊ちゃんだ。

 小さい頃は体が弱くて、うちの領内にある別荘に療養に来ていた。しかし、田舎の洗礼を受け、周りのみんなと泥まみれになって走り回っているうちにずいぶん元気になった。八歳までここで暮らし、王都に戻ったのだけど、その後もちょっとした休みになると別荘に来て、うちにも遊びに来ていた。多分自領より頻繁に行き来してて、もう故郷といってもおかしくないだろう。

 王都から戻ってくるたびに背は伸び、体つきも立派になり、服装も田舎者のそれとは違っておしゃれになっていくこの幼なじみは、一応うちも貴族ながら身分の差って奴をしっかり見せつけてくれたりする。

 でも数日いるうちにこっちも慣れてきて、気後れすることなくこき使っている。


 で、もう間もなく王都での学園生活も終わろうというこの時期に、ふらりとやって来たかと思うと、

「お願い!」

ときたもんだ。

 話によると、卒業したら親の決めた婚約者と結婚しなければいけないけれど、婚約者には好きな人がいる。それは自分の友人で、友人の熱い想いも知っている。自分も実はそんなに婚約者が好きではない。だから二人の仲がうまくいくよう協力したい。

 そこで、婚約を解消しようと親に頼んでみたが、どうにも許してくれない。それなら勝手に婚約破棄を仕組んでしまおう、と言うお子様の浅はかな悪巧みを聞かされた。

 ダグラスに婚約者がいるのも驚いたけど、それ以上に大して好きでもない婚約者同士という展開が、あまりにも噂に聞くお貴族様の大人な事情って感じがして、

「ダグラス君も都会でいろいろあったんだねえ」

なんて、ちょっと年寄り臭い台詞が口をついて出てしまった。


「…それで、もう親を説得するよりも、俺がエルゼに婚約破棄を言い渡して既成事実を作ってしまえってことになって。傷心のエルゼを見れば、アーベルも放ってはおけなくなると思うんだ。あいつのことだから、秘めた想いを爆発させるにはかなりのエネルギーがいる。その起爆剤になろうという訳」

 なんて、安易に言ってるけど

「そううまくいくのかなあ…」

「いや、見れば判るよ、あいつらほんとーに、両思いなんだ。もう、何で俺の婚約者やってるのか、わかんないくらい。じれったいんだよなー。友人には幸せになって欲しいし、他の男に惚れてる女にときめかないだろ?」

 人が作ったドーナツをおいしそうに食べながら、ザ・婚約破棄ショーの段取りを語るダグラス。おみやげに持ってきてくれたお茶を出したら喜んでいた。いつもの定番の茶葉は相変わらずおいしい。

「まあねえ…。でも、大人の事情もあるでしょう? …絶対お父さんに怒られるよ」

「だって、言っても聞く耳なしなんだから、仕方ないだろ? どうせ四男だし、家継ぐ訳でもないし、次の宛もあるから、勘当されても大丈夫」

「宛って…?」

「実は、もう仕事決まってるんだ」

 そうか。そういうところの段取りはいいんだよな。

「と言う訳で、頼む! 俺の本命ってことでそばにいるだけでいいから」

 そう。さっきから頼まれているのは、俗に言う当て馬って奴。

 ダグラスには私という女がいて、「お前との婚約は破棄する!」という、絵物語に出てきそうな「真実の愛に目覚める」展開で勝手に婚約破棄宣言をし、今の婚約者、えっと、エルゼさんを自由にし、お友達でもありエルゼさんの本命でもあるアーベル君に絶好の場をお膳立てしよう、と言うプロジェクトに参加して欲しい、と言うことだ。

 …それって、私、ちょっとした悪役だよね。


「こんなこと、同じ学校にいる奴に頼むと嘘がバレバレだし、下手に貴族の令嬢なんぞに頼むと、それこそ次の婚約者に仕立てられてしまっても困るんだ。その点、ヴェローニカなら、顔も知られてないし、恋人の代役になっても後腐れないだろ?」

「まあねえ…」

 こんな王都から馬車で3日もかかるようなド田舎に住み、かつ一応は貴族の身分は持っている。多分、ダグラスの周りにいる女の中で一番頼みやすく安全なのは確かだ。

「一度王都に行ってみたいって、言ってなかったっけ」

 …興味はある。確かに、言いはしたけど。

「送り迎え、宿泊、お小遣いも用意するからさ」

 ん? お小遣い??

「軽い旅行気分でちょっと王都に来て、一週間ほど楽しく過ごして、最後に一日だけ小芝居に付き合ってくれたらオッケー。買い物もし放題で、ドレスも用意する」

 ド? ドレス? そんなもの、ここしばらく袖も通してないわ。

 思えば、社交界デビューの年に大雨で川が氾濫し、治水工事でドレスなんぞに金出す余裕なく、参加をやめちゃったもんね。欠席を咎める人もおらず、美談で済んで、ある意味ラッキーだった。

「一週間、終わったらちゃんと送るから。何なら、川の水車の壊れたの、直す技師を手配してもいいかな…」

 !!

 昨日戻ってきたって聞いたのに、もう水車が壊れたことを知ってやがる。くそぉ、こいつ、どこまで情報通なんだ。

 水車…。これ、今うちで一番の悩みの種なんだよね。だましだまし使ってたけど、もう素人の修理じゃどうにもならなくなってしまったのよね。

「こんな無理、ヴェローニカにしか頼めないんだ…。頼む! 俺の人生を救うと思って!!」

 結局、王都旅行と水車の修理に負け、私は悪役を演じにダグラスと一緒に王都に向かうことになったのだった。


 一応父にも

「王都に行ってきていい? ライヒシュタイン家に招待された。一週間で帰るから」

と様子を伺いつつも、

「行ったら、水車直す技師手配してくれるって」

と、とっておきのネタを出した途端、すぐにOKが出た。

 我が父ながら、現金だなあ…。


 三日も馬車に揺られて過ごす旅は実にお尻に優しくない。それでもうちの馬車よりはずっと立派で、揺れない方だ。サスペンション付きの最新型。さすが、今をときめくライヒシュタイン侯爵家だ。

 道中もそこそこいい宿に泊めてもらい、ようやく着いた王都のライヒシュタイン家。

 …でっかいわー。


 うちの領の別荘には、侯爵がいらっしゃったのは一、二回あるかないか。侯爵夫人は時々お越しになっていたけど、私のことなど覚えているとは思えなかった。

 しかし、貴族って人たちは侮れないのよ、本物の貴族は。

「あら、ヴェローニカさん、いらっしゃい」

 夫人は、私を見るなりにっこりと微笑んでお声をかけてくださった。まあ、私が来ることくらいは事前に連絡をしていただろうけど、一応こんな私でも顔と名前を覚えてくださってたんだ。貴族って、偉いなあ。

「いつもダグラスがご迷惑をおかけしているわね」

「いえいえ、迷惑なんて、全然っ、…でございます」

 つい地が出そうになる自分を抑え、ご挨拶を返す。「幼なじみのお母さん」扱いするには恐れ多い。

「ご旅行と聞いたわ。ゆっくりなさってね」

 にこやかな笑顔で立ち去る夫人。

 王都に一週間旅行する間、幼なじみのダグラス君ちを拠点にする田舎者を、夫人は警戒することなく受け入れてくれている。私のこと、どういう説明してんだろう。


 着いた日はとりあえず体を休めることにした。

 驚いたのは、客間に用意されていた服。

 服は一応自分のをそれなりに持ってきていたけれど、約束のドレスだけでなく、普段着も数枚用意されていて、一体いつ採寸したんだ? というくらいになかなかぴったりのサイズ。

 見比べれば、確かに王都で私の自前の服はちょっとみすぼらしいかもしれない。自分にとっては一張羅な服も用意された普段着にも及ばない。

 汚したらどうしようと思うと、なかなか着る気になれなかったけれど、

「帰る時には持って帰っていいよ」

と、気前よく言われたこともあって、遠慮するのはやめることにした。


 翌日、お屋敷に客人が現れた。

 細身でちょっときつめだけどそこそこの美人。まばゆいばかりに輝くブロンドの髪はくるくるカールして、見るからに上等で流行のドレスに身をまとい、カップ一つつまむ仕草も隙なく美しい…。

 これが、当て馬にしてやられる設定の、エルゼ・クラインベック伯爵令嬢。

 いやいやいや、絶対無理でしょう。どう見ても、こちら様は奪う者、捕食者の立場にある人間だ。

「ずいぶんと素朴な方をお選びになりましたのね」

 敵役の選択にご不満な様子。

「似た者より信憑性があるだろう」

「まあ、そうですわね」

 二人の間に流れる空気がこわーい。

 自分を見定めに来ているのはわかっていたけど、つい、

「婚約解消後の勝算はあるんですか?」

と、余計なことを聞いてしまった。すると、ちょっと不安げな顔を一瞬見せながらも、強気を崩さず

「大丈夫ですわ。…当日のエスコートだって、頼めましたもの」

 …うん? エスコート??

「私達の仲が最悪だって事はもう一年かけて周知してありますの。卒業パーティにエスコートもしない婚約者、それを嘆く私を気遣ってくださるのよ。お優しいでしょ」

「え、…卒業パーティで、やるんですか、婚約破棄ショー」

「ショーって言うな」

「そんな大舞台で、恥ずかしげもなくやるんですか!! もっとこじんまりとしたところで、…」

「あなた、ばかでしょう」

 美人の冷たい視線が飛んだ。

「卒業パーティ以外で、アーベル様の前で婚約破棄を告げる方法があれば、教えていただきたいわ」

 えええええ。

 そんな大舞台だと知っていたら、引き受けなかったのに…。

 そういやドレスを作ってもらってた。それでもせいぜいホームパーティレベルだと思ってたのに、卒業パーティ。しかも、こいつらお貴族様が通うとなれば王立学園…。ま、まさか、王様来ないよね??

 やっぱり引き受けるんじゃなかった。

「今更怯んでもダメよ」

 私の心の弱音を見抜いて、エルゼ様が睨みを利かせた。

「私はダグラスから婚約破棄されるの。そして私はアーベル様と堂々とお付き合いするのよ。私の家はライヒシュタイン家でも、ヘンケル家でもどちらでもいいの。でも私はアーベル様でないと嫌。わかってるわね」

 こ、こわい。この人、恐いんですけど。もしこの人が自分の婚約者の隣にいて、譲れと言われたら、私、絶対譲る。絶対配役間違ってるって。

「君は私の隣にいればいい。黙って立ってるだけでいいから」

 …キミ? 今、「私」って、言いました?

 ダグラス君。あんたが私のこと「君」とか、自分のこと「私」とかいうの、初めて聞いたんですけど。

 火花を散らすダグラスとエルゼ嬢。

 ああ、駄目だ。この二人、本当に相性が合わないようだ。

 …いや、ある意味、合いすぎて駄目なのかも。

「いいこと? 失敗は許されなくてよ。人生がかかっているんですからね」

「君こそ、アーベルを奮い立たせろよ。あいつは肝心な時に及び腰になるからな」

 その点には、さすがのエルゼ様も不安が残るらしい。隙がないように見せながらも、こうして見せるちょっとうろたえるような姿が年相応でかわいらしいなあ。

 …私、一応この二人より年上なのよね。

 都会の若い貴族様は大変ねー。かくいう私もそろそろ相手を見つけないといけない時期…、いや実際には出遅れてはいるんだけど、僻地の領地を継ぐ女の入り婿探しってのも、そう簡単ではないようで、父も探してはいるようだけど、今は私の夫よりも水車優先だもの。

 ま、父は別に一生独身で養子もらってもいいって言ってくれてるから、今は夫より領地運営。田舎暮らし最高!


 三日後の卒業パーティを前に、私はダグラスに連れられて王都観光をした。

 侯爵邸の侍女さんは髪を結うのが上手だった。着替えくらい一人でできると思っていたけれど、おしゃれな服は後ろボタンが多くて、お手伝いがないとろくろく着ることもできない。くれるって言ったけど、こんなの着る暇ないよね。毎日忙しいのに、人手を借りて着替えるなんてありえない。まあ、お隣の領主様のところに話し合いに行く時には、こういう服ではったりかますといいんだろうけど。

 誰の目があるかわからない、ということで、ここでも既に演技は始まっていて、腕を組んだり、手をつないだり、親密さをアピール。…って、こんな小細工、いるのかね。全然平気だけど。こちとら、取っ組み合いだってしたことのある幼なじみだもん。

 家族や家のみんな、領の友達へのお土産も買ったし、水車を直してくれる技師さんとも挨拶したし。再来週には来てくれるらしく、ほんと助かった。持つべきものは金もつてもあるお友達だわ。

 ここまで世話になったんだから、当日は悪役、やるしかないよね。立ってるだけだけど。


 卒業式が終わり、その夜の卒業パーティ。

 私は婚約者がいる男の恋人として、ばっちり悪役モードで参加する。

 にしては、淡い紫の可愛い系配色のドレスに、髪は小花をちりばめて、

「ラブリーですう!」

と、身支度してくれた侍女さんが絶賛する出来。…中身が田舎の山猿なのが残念だけど。

 私以外にも卒業生じゃない人はそこそこいる、らしい。私には見分けはつかない。ここにいる人は、私が誰か誰も知らない。それだけに余計興味を引くのだろう。集まる視線が痛い痛い。ひそひそ話もやな感じ。

 思わずダグラスの腕をつかむ手が強くなっていたかもしれない。

「大丈夫だ、ちゃんと生きてホーフェンシュタインに帰すから」

「死ぬ設定あり?」

 ぷっと吹き出したダグラスに、周りがざわついた。小声で聞こえてきたのは、

「笑ってるよ」

「あのダグラスが?」

 いや、いつも普通に笑ってるけど。

 こいつはここでどういう人生を送ってたんだ?


 ダンスが始まり、いきなり婚約者よりも先に私と踊るダグラスにざわつきは治まらない。エルゼ様の悲しげな表情があまりに痛々しく、主演女優賞ものだ。

 隣にいたアーベル君らしき男がエルゼ様と踊ると、一転にこやかな顔に。もうちょっと憂いを秘めた方がいいかも。嬉しさ丸出しすぎでは??

 へたっぴな私と違って、エルゼ様のダンスは軽やかで、一つ一つの動きがきれいで、アーベル君と二人、様になっている。ダグラスの言う通り二人はお似合いじゃないか。これは応援しなければいけない。

 よそ見をしながらほくそ笑んでいると、耳元で

「おまえ、3ペナだからな」

と低い声が響いてきた。

「何が?」

「足、踏むのこれで3回目だ」

 ははははは。

 悪役に実害のない人間としてなら選ばれても、そこにダンスが上手なんて条件まであったら、私は即お役御免ですよ。大体、領で踊る時はこんな一対一のじゃないもの。それでもダグラスのリードのおかげで、何とかごまかせた。


 そしてついに、その時は来た。

 主役二人が対峙し、自然とみんなの視線が集まる。

 ダグラスは周りに聞こえる声で、

「エルゼ、悪いが君との婚約はもう続けられない」

 ショックを受けた顔のエルゼ嬢、迫真の演技。

「私はヴェローニカ・ポルシュ嬢と共に生きることにした。君との婚約は解消したい」

 破棄じゃなくて、解消にしたのね。それもありだと思う。

 しかし、そこで私の名前はいる? 言う必要あった?

 ざわつくギャラリー。周りの目が物語のような展開にわくわくしてる。一年かけて二人の不仲を証明してきたんだもんね。

「私は真実の愛に生きたいんだ」

 く、くっせー! ダグラス、あんたどの顔してそんな熱に浮かれたあほの若者みたいなことを…

 覗き込むと、その顔は真面目だ。至極真面目だ。

 二人の人生がかかってるんだもん。

 ダグラスが、愛はともかく、真実をもって生きるための儀式だ。

 じっと見つめるエルゼ嬢。わなわなと唇を震わせ、

「…わかりました。今まで、ありがとうございました…」

 そう言って浮かべた涙がすうっと頬を流れ、だけど不安げなのは、最後の保証がないからだ。

 美しい礼をして、会場を少し駆け足で去る、エルゼ嬢。

 隣にいたアーベル君は、…固まってる!

 ああっ、しっかりせい! ここが男の見せ所でしょうが!

 イライラする私が思わず床を踏み鳴らし、手首を動かしてアーベル君に何度かドアを指さすと、ダグラスも目と顎でアーベル君に合図していた。

 アーベル君は我に返ると、慌ててエルゼ嬢を追いかけていった。危なかったー。

 …後は、若い二人に任せましょうかね。

 はあ。何とかなってよかった。


 事の成り行きを遠目で見ていた噂高い貴族のご子息・ご息女たちが、興味津々にこっちを見てる。

「じゃあ、俺たちも退散するか」

 ダグラスが耳元で小声でつぶやき、こちらも早々に帰ることにした。

 どっと疲れた。

 馬車に揺られながら、

「うまくいってよかったね」

 疲れと安堵を込めてそう言うと、ダグラスは少し口元を緩ませて、

「あいつら、うまくやれるといいな」

と、窓の向こうを優しい目で見つめていた。


 で、これだけの騒ぎを起こしたので、ダグラスも、加担した私も、二日ほど王都のダグラスの家で待機を命じられ、領に戻るのが遅れてしまった。

 ダグラスのお母さんは婚約解消ショーのことを知っていたらしく、驚く様子もなく

「お世話をかけたわね」

と笑みをたたえながら軽くお声をかけていただいただけで終わった。

 侯爵様からも、私にはお咎めなかったし、ダグラスも勘当まではされずに済んだらしい。

 クラインベック伯はエルゼ嬢から今回の段取りを聞いていて、ライヒシュタイン家からの解消の申し出に即座に応じたらしい。破棄じゃなくて解消で済んだので、どちらも瑕疵なしってことになったとか??

 アーベル君の実家ヘンケル家も、クラインベック家との縁談にやぶさかでない反応をしていると聞く。すぐにとはいかなくても、二人の思惑通り、新しい縁が結ばれることだろう。

 ああ、よかったよかった。


 でも、こんな騒ぎに巻き込まれるのは、もうごめんだわ。当面王都に来る用事ないし。ダグラス・ライヒシュタインを誘惑した悪女、ヴェローニカ・ポルシュの名前も、やがて消えていくよね。

 …あそこで私の名前を出してほしくなかったなあ…。


 私は無事故郷へと戻れることになり、

「働き出したら、そうそう来られないかもしれないけど、また遊びにおいでね」

 そう言って、ダグラスと別れの握手をした。


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