オンナはこの世の奴隷なのか… ②
“柾子” 視点です。
カノジョの身にとんでもない事が振りかかった。
それはまるで、車に撥ねられた後も無慈悲にアスファルトに転がされている子猫のようで…
私は叫び、
狂い泣いた。
本来なら警察に駆け込むべきだろう。
しかし、それが許されない事情があるのも、カノジョの行動から明白だった。
とにかく病院には行けないものかと私は考える。
お金なんて、私がどうとでもする。
出涸らし三十路女でも我が身を守るくらいの貯えはある。
そう、この時、私は実感した。
このコの事を我が身に等しく思っている事を…
いったい、いつからかは分からない。
そんな事は問題ではない。
今は、ただただ涙が止まらないんだ!!
とにかくカノジョをボロボロになった制服ごと抱きしめてバスルームへ導く。
「あなたの着替えを出したいから リュックを開ける事を許してね」
そう断って、一旦その場を離れる。
廊下で、バスルームのドアを閉じる音を聞き届けてから、私は脱ぎ置かれた可哀想な洋服たちを引き取りに行った。
その酷い有様にまた嗚咽が洩れそうになる。
我慢しなきゃ!!
あのコは泣いていないのに…
ブレザーとスカートは修理屋に出せば何とかなるかもしれないが、もう、新しいものを買ってあげたかった。
学生証かないか、学校名の分かるものがあれば、制服だってどうにかなるだろう
そんな魂胆が心の中に持ち上がったので、私はドキドキしながら、そっとリュックの中身を確かめた。
探しているものはポケットではなく
着替えのスウェットと下着を出した更に奥に
一万円札の束と共に置かれていた。
学生証かと思ったが
違っていた。
“在留カード”??
さっき、
インターホンが鳴って
急いで開けたドアの前に立っていた茜…
傷だらけで、左瞼が腫れ上がっていたカノジョ…
その右目の…月食が解けて再び満月がその姿を現す時の様にカラコンのずれた瞳に、私は隠されたヘーゼルの色を見た。
異邦人だったんだ!!
カードにはカノジョのパーソナルインフォが記されていた。
。。。
氏名 MATHILDE BAZIN
生年月日 200…
えっ??!!
じゃあ…14歳?!!
『家族滞在』
『就労不可』
茜の本名は…
横文字だった。
いったいどういう経緯で
カノジョは居るのだろう。
カノジョの話し言葉は
間違いなく
生粋の日本人なのに
私は在留カードと
一万円札の束を
そっと
元に戻した。
涙が溢れて
ハラハラと落ちる。
この束を
カノジョが手にするのに
いったいどれほどの
犠牲を強いられたのか…
カノジョの着替えを
ギューッと抱きしめて
バスルームへ向かう。
ガシャン!!
シャワーヘッドが床に落ちる音がして
嗚咽が聞こえる
どうしよう…
もう…
かせげない…
その呻きに、
私は堪らずドアを開けてしまう。
瀕死の“子猫”は
最後の力を振り絞って
その幼いカラダを
飛び跳ねさせて
私に牙を剝く
私は至る所を凌辱されたこのコに必死に縋り付き
自分の内にある
愛という感情の全てをはたいて
宥め賺して
抱きしめた。
--------------------------------------------------------------------
今
いけないことを
している
最初は
母ネコが
私に憑依して
このコのキズを
舐め癒していたはず
なのに
私の痛みに
このコが触れて
いけないことの坂道を
ゆるゆる下っていった
痛みと快感は
表裏一体になり得るという
事実に
私のアタマの片隅は震撼させられている。
こんな恐ろしい手綱を引かれたら
私は転んでしまう
果てしもなく怖いこの世の中に
寄り縋りを求めて
人は彷徨うのか
願わくば、
寄り縋りの相手が
このコであってほしいし
私も
このコの寄り縋りでありたい
私のエゴなのか
私は自分の甘い吐息をつかせんが為に
キズだらけのこのコを使っているだけなのか
だとしたら
『やはり“オンナ”はこの世の奴隷なのか』
という言葉に
逃げ込まざるを得ない。
お願い!
そうではないって
言って!!
私が触れているものが真実だと!
私にキスして!!
きっと守るから
きっときっと
あなたを
守るから
。。。。。。。。。
イラストです。
茜ことMathilde
左下に瞳の様子を描きました。
またまたどうしようもない一節ですが…
泣いてしまいました(/_;)
感想、レビュー、ブクマ、評価、いいね 切にお待ちしています!!(*^。^*)