婚約破棄ですか?別にかまいませんが…… ところで今朝の新聞って、読みました?
「「「「貴様との婚約を破棄する!」」」」
おめでたいはずの学園の卒業パーティの壇上で、声を合わせて叫んでおられるのは、我が国の第三王子であるアントーニオ様と、その側近候補たち。宰相閣下の甥であるウィリアス様、副騎士団長のご子息であるカーティス様、そして宮廷魔術師三番隊隊長のご子息グレミオ様の四人です。
そして、その後ろに隠れるようにしているのは、今年編入されてきた元平民の男爵令嬢であるアイリス様。庇護欲をそそるお顔立ちと、それに相反するようなナイスバディをお持ちの令嬢ですが、今はニヤニヤと下品な笑いを浮かべているため、せっかくの可愛らしいお顔も台無しですわね。
そして一方的に婚約破棄を言い渡されているのは、それぞれの婚約者であるわたくし、公爵令嬢のダイアナと、侯爵令嬢シーリア様、伯爵令嬢のエミーリア様とキャサリン様。やってもいないいじめをしたと言われ、ただいま絶賛冤罪断罪中ですわ。
遠巻きにして様子を見ている生徒たちの一部は、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている者たちが何人も見えます。おそらく彼らはこの事をあらかじめ予想していたのでしょう。そして、これからの展開も……
もっともわたくし達も、こうなることはある程度予想しており、できれば防ぎたいと思っていたのですけれどね……仕方ありません。ここから先はもう、決まったも同然で、どうしようもないのですから…
「聞いてるのか、ダイアナ!おまえたちがアイリスに行った数々の陰湿で悪質な行動を、我々は絶対に看過することはない!あのような下劣な行動をするものが、我が国の貴族を名乗るのもおこがましい!よってこの四人の身分を剝奪の上、国外追放に……」
自分に酔ったような口調で第三王子がわたくし達に国外追放を命じようとしたその瞬間、一つの影が躍り出ました。
「はーーい、こっちを向いて~~、あ、アントーニオ王子様、もっと怖い顔してください~~」
気の抜けた男性の声と共に、バシャッ、パシャンというシャッター音がして、光が明滅します。何が起きたのか理解できていない顔をしている第三王子たちの後ろで、アイリス様ったら嬉しそうに両手でVサインをしていますね。
「きさま、何者だ?」
「いったい何しに来た!」
「我々の邪魔をするな!」
「不敬だぞ!」
あぁ、やっぱり王子達ったら、彼の事を知らないんですね。まぁ、彼らはろくに新聞も読まない、ぼんくらさんたちですからね。この黒髪、黒目、無精ひげの男性は、今王都で一番人気の出版社のカメラマン兼編集長のバートラムさんですよ。ちょっとくたびれた感じが色っぽいなどと、奥様たちに人気の男性でもありますが、彼が注目されている最大の理由は、その出版物の内容によるところが大きいのです。
「はーーい、もう良いよぉー。ありがとう、ご苦労さまぁ」
写真を撮り終わったバートラムさんがそう言うと、
「きゃぁーーー!!ねぇ、ねぇ、うまくいった?うまくいった?」
それまで第三王子たちの後ろに隠れていたアイリス様が、彼らを押しのけるようにして壇上から飛び降り、バートラムさんに抱き着きます。
「もう、あたし、すんごく頑張ったんだからね!ほめて、ほめて!!だってあいつら、うんざりするほどおこちゃまのくせに変態だし、相手すんの、ホントだるかったのよぉ!おまけに、へったくそなくせに自意識ばっか、くそ高くってさぁ。だからさぁバート、これがうまくいったら結婚してくれるって約束、ちゃんと守ってよ!」
「それは売り上げにもよるかなぁ~。でもまあ、予約だけでも結構な数が入ってきてるし、結婚してもいいかなぁ~~」
「絶対だからね!絶対!!」
腕を組み、「お騒がせしましたぁ」などと言いながら、二人は会場を後にします。
「「「「…ア…アイリス…?」」」」
アントーニオ様達は、いったい何が起きたのか全く分かっていないようですね。もっとも、自分のかわいい恋人だと思っていた女性が、30過ぎのおじさんに嬉しそうにしがみ付いた状態で、パーティ会場を出ていったんですから、それも仕方がないかもしれません。せめて彼らが今朝の新聞を読んでさえいれば……
それは今朝の新聞に載っていた、新しい本の広告に端を発しました。
『ハニートラップ~王子たちは如何に落ちたか~』
表紙は目元が隠してはありましたが、どこからどう見てもアイリス様でしたし、紹介されている目次は、実名は伏せてはありますが身元バレバレな描かれ方で、第三王子や側近候補たちがどのような言葉や行動で落ちたのかと、その性的趣向が書かれておりました。
このせいで朝から王宮も学園も大騒ぎでしたのに、気づかないなんて、よっぽど今日の断罪のことで頭がいっぱいだったんでしょうね、王子たちは。
実は学園内で、やたらと高位貴族の令息たちに近づこうとするアイリスさまが、出版社のハニートラップだということは、我が家の力を使って調べればすぐに判りました。彼女の養子先のボイエット男爵家がバートラムさんの出版社の後援者で、アイリス様が最近売り出し中の女優で、すでに20歳をこえているということも。
なので、もともとこの婚約に乗り気ではなかったわたくしとシーリア様達は、これを利用して、穏便な婚約解消を目指していたのですが、おバカさんたちの暴走で、この騒ぎとなった訳です。
先ほどからニヤニヤと笑っておられる方たちは、おそらくすでに本の予約をされたのでしょう。なんせ予約の先着100冊には、特別写真がついてくるって書かれていましたから。それ、きっと先ほどの写真ですよね。
あら、コスタード子爵家のご令息が周りの方々に新聞の切り抜きを渡していますね。そういえば彼の家もあの出版社の出資者でしたわね。これって宣伝かしら?
まぁ、彼ったら大胆なことに、王子たちにも渡していますわ!
切り抜きを見た王子たちの顔色が真っ青になって、こちらに縋りつくような視線をよこしていますが、もうわたくし達には関係ありません。こうなった場合は王子たちの有責で婚約破棄とすることが、今朝すでに決まっていますからね。にっこり笑って、全員で<あっち行け>のジェスチャーをします。
あら、四人そろって、膝から崩れ落ちましたわ。
ふふ、【おっぱい好きの皮かむり】【赤ちゃんごっこのおしめ好き】【踏んで欲しがる短小】【三秒持たない早〇】などとばらされたあの方たちは、今後社交界に出てくることはかなわないでしょうから、もう二度とお目にかかることはないでしょう。蟄居は確実、もしかしたら平民落ちも… ふふふ、わたくしを無実の罪で貶めようとるからですよ。しょせん<スペアのスペア>でしかないあなた達が出来ることなど、たかが知れてますのに…ほんと、おバカさん達ですわね。
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