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第三十八話  ばいばい

最終話

 迅達とエボルート人らは翌朝海へ向けて出発する。海までは神聖国が馬車を手配してくれていた。数日かけて海に到着すると、あとは迎えに来るまで野営を張り、待機することとなった。


 迅は道中の疲れもなくみんなに声を掛ける。キクリは今回の話があってからというもの笑顔が途切れることがない。親もとへ帰れる喜びもあるが、周りの家族といってもいい仲間が自分のことのように喜ぶ姿が、キクリの表情を和らげているようだった。


「なんかあっという間に海ですね。海かあ。初めてだなこの世界の海」

「迅さんの世界の海と比べるとどうですか? 」


 マーナに訊かれ海辺に寄る。


「波が荒いですね……」




  ◇




 その日はやってくる。


「きた……」


 キクリがつぶやく。

 エボルート人数人が視認出来る、もしかしたらそれ以上の範囲に不審者がいないことを確認しているようだ。そうして待機していたエボルート人全員が岸に集まった。


 荒いと感じていた海岸の波がやみ静寂が訪れる。

 岸向こうの水中に影が見えた。魚群のようにみえるそれはこちらに向かってくると、その巨大さに驚く。


 波打ち際までくるとそれは止まり、先端と思われる付近から海が割れ、空間が拓き淡い色とともに通路らしきものが現れる。


 潜水艦? なのか……一目で迅の世界のそれとは比較に出来ない程、文明の高さを思わせる。それは一連の流れを海上には一切姿を現すことなく全て水中でやってのけた。


 年配のエボルート人が、みなを手引きする。そこでハヤトとミサキが迅の側に何かを言いたげに来る。


 二人の目を見た迅は、右手を差し出しハヤトの手を握り、


「そうだろう。それが一番いいよ。ははっ」

「はい……僕たちも帰ります……」


 ハヤトとミサキは迅達に挨拶をすると、他のエボルート人たちと共に、その割れて開かれた空間に入っていく。はたから見るとそれは普通に海の中に歩いていくようにも見えた。


 年配のエボルート人が迅らの側にいるキクリに対し手招きをし、キクリもそちらに歩み始めていたその時


「キクリっ! 」


 レンカが叫び、走り出し、キクリを抱きしめた。

 マーナ、ラオ、ミクル、迅も一緒に駆け出しキクリを囲んだ。


『キクリ』『キクちゃん 』


 それぞれが名前を呼び、皆の目から涙があふれだす。



 ここに来て、キクリはそこで初めて、別れの予感がしたのか、目を丸くし訴えるかのようにいう。



「レンカ、マーナ、ラオ、ミクル、ジン、みんなも……いく」


「いけないよ。うちらは」



 全身を震わせ、こんなことになるとは微塵も考えていなかったように聞き返すキクリ。


「ど……して……」


「どうしても」


「やだ……やだ……やだよ……」


「バイバイだよ」



 海の、潜水艦らしき中から二人のエボルート人が出てきて、キクリの傍へ歩み寄る。

 それをみた五人が抱きしめていたキクリを離す。キクリの両親と思える二人のエボルート人はキクリに駆け寄り抱きしめ合う三人。


 暫しの後、キクリの両親はレンカ、マーナ、ミクル、ラオ、そして迅に一人ひとり、深く深くお礼をいう。そのあと迅は、そのキクリの父親から今までの、事の経緯を聞かされ、少しの間話し込む。





 覚悟を決めたかのようなキクリは、青い瞳を涙で腫らし震える声でいう。


「レンカ。いっぱい助けてくれて……ありがとう」

「うんうん元気でね」


「マーナ。いっぱい優しくしてくれて……ありがとう」

「お父さんお母さんと幸せにね」


「ミクル。いっぱい仲良くしてくれて……ありがとう」

「グスっ、ミクルも楽しかった」


「ラオ。いっぱい遊んでくれて……ありがとう」

「キクちゃん ぐすっ っス」


「ジン。いっぱいみんなを救ってくれて……ありがとう」

「ああ、こっちこそだ。みんなキクリに救われたよ! 元気でな」



「ばいばい……」



 生まれたての赤ん坊のように顔をゆがませクシャクシャにして涙を流し、そして最後…………笑った。



 大きな魚群の形をしたそれは沈みかけている夕日の方へ消えていく。


 しばらくの間、五人が海の向こうをみつめたあと、迅は両脇にいるラオとミクルの頭をくしゃっと叩いて撫で



「さあ! 帰るか」


「「「「うんっ! 」」」」


 五人の顔は晴れやかなものにかわっていた。






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