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第三十五話  決す

「帝王様。これはいかがなさいますか? 」


ミサキの首を捕まえてるエボーが帝王に進言する。ミサキは気を失っているようだ。


「女のエボーなあ。使い道はあるが我に歯向かったことは消せぬなあ。手足を引き千切るか。んー。それでは興にもならんなぁ。お前たち面白い案ないか。同胞であろう。クックッ」


「帝王様。こんなゴミ虫、同胞なことなどありえませぬ。すぐにでも処分されたほうが。それよりあの男はいかがなさいますか? 」


「あの壁男な……エボーではない奴が。…………何かあるな。あのまま壁に貼り付かせていろ。いたずらに傷をつけるな…………我が帝王として君臨し続けているのも人の何十倍用心深いからなのだよ。あの男の目の前で最愛の者どもを殺し、その苦悶に満ち満ちた絶望する顔を拝んでからだな。さすれば生きる気力もなくなるであろう。殺してくれと乞うかもしれぬ。ヌハハ。こんな余興ほど楽しめることはない」


「ハッハ。流石でございます。ではあの者の前で処刑致しましょう」

「おい。集めろ」

「かしこまりました」



 そういうとミサキを捕えた男はミサキを投げ捨て、辺り一帯に手をかざす。

 すると風が吹き抜けるような感じがしてハヤトが消える。……そして、意識を失ってるかのようなレンカとマーナもその場から消え……


「なん……だ」


 一瞬にして消えた仲間らは十数メートル離れている手をかざしていた男の前に集められていた。


「アポーツ……」


 確かそんな名前のチカラだったか……自由自在に手元に物を瞬時に呼び寄せる。それでミサキを捕えたのか……



「まさに珍妙ちんけなゴミ虫よなぁ」


 帝王は目の前に寄せられ地面に転がるレンカとハヤトを蹴飛ばしつづける。



「やめろーっ」


「ンフフフっ。そこでみておれ。これからだ。その女エボーも一緒だ。並べろ! 」



「くそっ。よせっ。やめろーっ!」



 何とかしなければ、帝王は本能的に俺に危害を加えることが危険だと察知してる。くそっ。動け動け!


 その時目の端に見えるものに違和感を覚える。キクリが機器の陰に座り込んでいたのが立ち上がっていた。


 先程よりも深く、まるで何かを始める前かのように、意を決するかのように深く呼吸をしていた。


 キクリ。何をするつもりだ。ジッとしていろ。お前が行っても何もかわらない。むしろ悲惨なことが増える。よせっ。よせっ。



 迅の悲痛ともいえる心の叫びをよそにして、帝王とエボーは行動を続けていた。



「帝王様。一列に並べました。ハエも一緒に隣に置きます」

「うむ。うむ。ハエにもお仲間死ぬとこ見せてやろうではないか。まっ。すぐにでも追いかけるように自爆するんだったなぁ。ヌハハハっ」


「やめなさいっ。許しません。あなたたち絶対に許しませんっ」


「「ハハハっ」」


「よし剣よこせ。我がこのけったいな蛇だかナマズだかわからん奴の首を刎ねる。そのあとお前たちバラバラに解体せよ。馬のエサぐらいにはなるだろう。ヌフフ」



「やめろーっ。帝王よせ。頼むからよしてくれ――っ!!」


「ヌフ。これを待っていたのだよお。悲痛と、叶うはずのない嘆願。ヌフ。実に気持ちいい。死ね」




 帝王は剣を振り上げる。


「よせ――――っ!!! 」





 これから後は一瞬の間に起こる。迅には何時間にも思えるやりとりが、実際には数秒の出来事になる。




 キクリが動き出す。迅は『やめろーっキクリ』と思うが直後に『えっ? 』にかわる。キクリがてっきりレンカや帝王辺りのほうへ走り出すと思ったからだ。実際キクリの走る先は迅だった。



 なんだ? 俺のとこきてどうする…………

 迅の目の前に来たキクリは次の瞬間、迅の腰に差してあったダグリールから預かった、鉈のような幅広の剣を抜く。

 迅は?? それで帝王に向かうつもりなのか。いやしかし……

 そしてキクリは考えもしなかったことをする。その剣を迅の心臓めがけ突き刺そうとする。



 えっ? なんで。それよりも、よせっ


「やめろっ。キクリよせっ」


 ここまでキクリの存在を知られるのを避けるため、声を出さないでいた迅が、キクリを絶対に止めなければと声を荒げる。



「やめろ――っキクリっ! 」


 発動する――――っ!!!!



 そのかわった叫びに帝王らが迅へと注目し、キクリの存在が把握され、各々の思考が咄嗟に交錯するかのように誰ともなく呟く。


「なんだあのガキは……」





 時間が止まったかの感覚に迅はチカラの発動を感じた。





 ゆっくりとキクリの持つ剣が迅の胸に達そうとする。



 うおおおおお! やめろ―――――っ。キクリ――――っ!!!!!



 空気の塊りが衝撃波とともに下から体を突き抜け、上空へ斬り飛ばされたであろうキクリが目の前から消える。

 迅にはそれを見ることが出来なかった…………




 うわあ――――――っ!! うおおおおおお―――っ



「おおおおおお―――っ!! 」



 そのスローモーションの世界で声が出た刹那、突然景色がかわる。時間が止まった感覚に加え、見るもの全てがモノクロになる。



 迅は眼前に浮いてるダグリールの剣を強く握りしめ、そのモノクロの、止まったかの静寂な世界を歩き出す。


 不思議な感じだった。水の中を歩くような感覚。


 …………キクリはこうなることを見越していたのか。……命を懸け……くっ。ちくしょう…… いまにも涙が溢れそうになり足もフラつく。が、グッと堪える。キクリがくれたチャンスを無駄にできない。


 ……いのちを…………


 歩みを止めた迅は、最初に磁場を操るエボーの首を剣で横薙ぎにする。だが、首は胴体に繋がったままで剣の通った跡だけうっすら線のように残っていた。


 次に帝王。目の前にガラスが立ち塞がってるかのようだったが、構わず力を入れ歩くと何層ものガラスを破るかのようにつき進み、帝王を目の前にして立ち止まる。


 マネキンのように固まってる顔は、この世のすべての悪を詰め込んだかのように深い皺が幾重にも顔に張り巡らされ、歪んだ口許の口角は自分以外の存在を嘲笑うかのように上がっていた。



「お前だけは絶対に許さねぇ……」



 帝王のこめかみ辺りを左から右へ斬り抜き両目を斬る。次に両手両足を切断するが、立った姿勢のまま崩れない。とどめは後にして世界が戻る前にもう一人のエボーを倒すことを優先する。



 帝王の体をよけ、足元に倒れているレンカらを避けながら、エボーの前で迅は目を見開き、立ち竦み泣き崩れそうになる。





「……うそ……だろ………………」




 最後のエボーの心臓を突き刺し、震える手で傍らのものを抱きかかえ、泣き叫ぶようにいう。




「キクリぃーっ」





 迅の腕の中には、アポーツ能力に捕えられていたキクリがそこにいた。

 




 そこで世界が彩り鮮やかなもとへ時間とともに戻る。



 世界が戻ると束の間、いっせいに何層ものガラスが破れる音と、目の前のエボーが胸から血を噴き出し、磁場能力のエボーは首を落とし倒れ、帝王は手足をバラバラにし、全身の血をぶちまける様に床に伏すと断末魔の悲鳴を上げる。


「うぎゃああああぎゃああああうがああああああああ―――っ! 」





 おんおん泣く迅に抱きかかえられたキクリが、生意気にもこう言い放つ。



「ふうーっ。……うまくいった……」





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