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坂道 [短編怪談]

作者: wanderer

小学校最後の夏、そのときの思い出話。



蒸し暑い夏の夜。

僕は友達の家から帰る途中だった。


うだるような暑さの中、

自転車をこぎながら自宅を目指す。


そのとき、僕が住んでいた地域は都会とはいえないけど、

特別田舎というわけでもない。


いわゆる、よくある、

駅の周りだけ施設や住宅が密集しているような地域だった。


もっと具体的な言い方をするなら、

神奈川県内の中途半端な規模の都市、ということになるのかな。


ある意味、多くの人が幼少期を過ごしていそうな、

ステレオタイプ的な場所だった。



生ぬるい風と薄暗い照明。

友達の家と自宅は共に、駅からそこそこ離れた場所にあった。

だから、帰り道は少し寂しい場所を通らなければならなかった。


だけど、怖いという気持ちはあまりなかった。

薄暗いながらも住宅はポツポツとあるし、

まったく何もないわけではないから。


怖いどころか、、

その雰囲気を味わいながら帰宅するのが

僕の中のひそかな楽しみとなっていた。


夏は緑が濃くなり

虫の鳴き声が聞こえ

ヌメッとした湿気が肌にまとわりつき

陰気な街灯が気分を盛り上げる。


そこには、真夏の夜にしか味わえない独特の世界があった。



そんなちょっと変わり者の僕でも、

通りたくない道が一つだけあった。


丘を切り開いたような急な坂道で、

周囲は厚い木々に覆われている。


昼間でも薄暗くていやだけど、

夜になるとその坂道は文字通り

真っ暗だった。


その深い漆黒の闇は、

夏夜を独自の感性で楽しむ僕にも

不気味に感じられた。



友達の家から自宅に帰るときは

その坂道を下らなければいけない。


余談だけど、

この地域は坂道が多くて、

当時の僕は坂の下、

友達は坂の上に住んでいたんだ。


友達と僕の家の間には3つくらい坂があり、

遊びにいくときは坂を上り、

帰りには坂を下ることになる。


3つあるうちの最初が

真っ暗闇の坂。


坂の真ん中にある薄暗い照明以外は光が届かない。

大人でも、この坂道を夜に通るのは躊躇するだろう。



このような道だから、

当然、夜はほとんど人通りがないのだけど、

一回だけ人とすれ違ったことがある。


あなたは、

周囲を木々に覆われた真っ暗闇な坂道で、

誰かとすれ違う恐怖を想像できるかな?


この恐怖を例えるなら、

人がほとんどいない深夜の山道で

誰かと突然出会うような怖さだよ。


しかも、ぼくは、

あきらかにきょどうふしんな

へんなやつにであってしまった。



そいつは

坂の真ん中にある

薄暗い街灯の下に立っていた。


髪はながく

うつむき加減だった。


痩せていて、

顔は見えないけど、

おばさんではなくて

お姉さん (つまり若い) って感じだった。


そして、ワンピースを着ているんだ。

ワンピースを着た、

髪の長いお姉さんがうつむき加減に突っ立ている。

なんだか全身に力感もないような。


ちょっと考えただけでも、

不気味でしょ?



坂道だし

帰りは自転車で下るだけだから、

その暗闇を抜けるのに時間は掛からない。


坂道の途中で、

ワンピース女を見たときは

明らかにやばそうだったから、

目を合わさずに速攻で通り抜けようと思ったんだ。


でもね、

その女の横を通り抜ける瞬間、、



かおをとつぜんあげてこちらをぜんりょくでみてきやがった。



もちろん、

僕は相手のほうは見ていない。

見ていないというか、見れない。


でも、はっきりと感じたんだ。

通り抜けるその瞬間に、、


物凄い勢いで顔を上げ

僕をガン見してきたことを。

視線が僕を捉えていたことを。


その瞬間に全身に鳥肌が立ち、

ほんの一瞬が脳内でスローモーションのようになった。



夜の坂道で一体何をするつもりなんだろう?

街灯の下で突っ立って何をしたいのだろう?

そして、何で僕を全力でガン見してくるのだろうか?


あのときかんじた「目力」がこわい。



それから僕は遠回りしてでも、

他の坂を使って帰るようになった。



今は親の仕事の関係でこの地域からは引っ越したけど、

このときのきおくはなつのおもいでとともにこびりついているよ。


















































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