もふもふのいる日常
「こゃーん!」
「ちょっと待て、コン! どこ行くんだよ~」
街中を歩いていた黒髪黒眼の青年……ユーゴの肩から、彼の相棒である小狐のコンが飛び出して、お店が建ち並ぶストリート目掛けて走っていく。そんなコンを青年ユーゴは、慌てて追いかけ始める。彼らの行動を見ていた近くにいる街の人々は、今日もやってるなとばかりに、微笑ましい目で彼らを見ていたのだ。
「こゃ!」
コンは、時折後ろを振り返り立ち止まると、自慢のもふもふした尻尾を横に振りながら、ユーゴに向けて短く鳴き、再び走っていく。その様子は、はやくはやく、と言わんばかりだ。
ユーゴは、少し息を乱しながらコンを追いかけていくが、一向にコンとの距離は縮まらない。
「はぁ、はぁ。コン、どこまで行くつもりなんだ? ……って待てよ。この方向って確か……」
ユーゴが、何かを思い出そうとしていた時、前を走っていたコンが一軒のお店の中へと入っていったのだ。
「こゃーん」
「あら、コンちゃんまた来てくれたのかい。ほら、いつものポムポムだよ」
お店の店員であるおばちゃんが、ニコニコとしながらコンに真っ赤な果実――ポムポムをあげている。その果実は、こことは違う別の世界では、リンゴと呼ばれる果実によく似ているものだ。
「あー! そうだった。コンの大好きなポムポムを売ってるお店じゃないか。ってまた、ポムポムをわけてもらってるよ……」
ユーゴは、お店の店員からポムポムを分けてもらってるコンの姿を見て、ひとつためいきをつくと、急いでコンの元へと走っていく。
「コン、勝手に入っていっちゃダメじゃないか」
「こゃぁ……!」
コンは、ユーゴの声は聞こえていない様子で、先ほど貰ったばかりのポムポムを両手で持つと、小さな口でかじりついて美味しそうに食べている。コンの表情は、幸せいっぱいだ。
「ポムポムに夢中で聞こえてない!? あぁもう、美味しそうにポムポムを食べてるコン、可愛いなぁ~」
ユーゴは、一生懸命美味しそうにポムポムを食べるコンの姿に怒る気力も失い、その可愛さに癒されているようだ。どうやらコンの可愛さに癒されているのはユーゴだけではないようで、ポムポムをコンに分けてあげた店員のおばちゃんもニコニコとした笑顔で、コンが食べている姿を眺めている。
しばらくの間、ユーゴたちは、そんなコンの姿を眺めていたのであった。
「おーい、ユーゴさーん!」
ポムポムを食べているコンの姿を見て癒されていたユーゴを呼ぶ声は、ロングの金髪に、青色のノースリーブの様な服と薄いピンク色が少し混じった白色のスカートをはいている少女……リーゼであった。リーゼの横には、彼女の相棒でもあるスライムのスラちゃんも一緒にいる。
「えっ? リーゼ!?」
ユーゴは、リーゼがいることに驚いているようだ。そんなユーゴとは、対照的に先ほどまでポムポムを食べていたコンは、リーゼの元へと走っていく。
「こゃーん!」
「ふふっ。コンちゃん、こんにちは~」
リーゼは、彼女に向かって走ってきたコンを抱きかかえると、嬉しそうにその頭を撫ではじめたのだ。コンは、とても気持ちよさそうな顔を浮かべている。そんなリーゼとコンの姿は、とても微笑ましく、見ているだけで癒されるものだ。
「それで、リーゼどうしたの?」
「ユーゴさん。実は、リリアさんからユーゴさんを探して連れてきて欲しいと言われてるんです」
リーゼは、そこで一度言葉を切ると、ユーゴの右手を両手で優しく掴んで、真直ぐにユーゴの目を見つめる。
「なんでも私と一緒に受けて欲しい依頼があるらしくて……。ご用事がなければぜひ来てくれませんか?」
「う、うん。大丈夫だよ。これからギルドに向かおうかと思ってたところなんだ」
「ほんとですか? ありがとうございますユーゴさん。私、実は久々にユーゴさんと一緒に依頼をこなせるの楽しみだったんですよ!」
リーゼは、ユーゴに満面の笑みを向けながら、掴んでいるユーゴの手を上下に振っている。ユーゴと一緒に依頼ができることが相当嬉しいようだ。一方で、ユーゴの方は、最初こそ少し顔を赤くしていたものの今は、リーゼの嬉しそうな顔とテンションにやや苦笑しながらも本音では、嬉しそうだ。
「それじゃあ、ユーゴさん。さっそくもふもふギルドの方に行きますよ」
リーゼは、掴んでいたユーゴの右手と彼女の左手を繋ぐと、ユーゴを引っ張るようにして歩きはじめたのだ。
「ちょっ、ちょっとリーゼ!」
「ユーゴさん、早く行きますよ」
戸惑うユーゴを強引にリーゼは、引っ張っていく。
「ユーゴちゃん。リーゼちゃんとのデートうまくやるんだよ!」
ユーゴたち二人の後ろからは、ポムポムを売っていたお店の店員のおばちゃんの声がする。
「なっ……! で、デートじゃないですよ」
「あはは……」
ユーゴは、動揺した様子でおばちゃんに言い返す一方で、リーゼは否定も肯定もせず頬を染めていたのだ。
そんな二人の様子を見たおばちゃんは、満足そうな笑顔で二人を見送ったのだった。
「相変わらずここの建物は、大きいなぁ」
「ですよねぇ~」
ユーゴたちが見上げている大きな建物は、もふもふギルドと呼ばれる場所で、各地のもふもふたちの住処を守ったり、時には保護したり、あるいは仲良くなったりなどあらゆるもふもふの為の活動をしているモフリストと呼ばれる人たちのギルドである。その象徴として、建物の一番上には、狐の尻尾のような像が、一際目立つように置かれているのだ。それは、別の世界で有名な金のしゃちほこよろしく、まさに黄金のもふもふと呼べる代物である。
「ユーゴさん。それでは、中に入りましょうか」
「そうだね」
ユーゴが入り口の扉を開けて中に入ると、目にも止まらない速さで、ユーゴのおなか目掛けて何かが飛んできたのだ。
「ゴホッ!」
「わっ! ゆ、ユーゴさん大丈夫ですか?」
何かの衝撃を受けたユーゴは、外まではじき出されたのだが、後ろにいたリーゼに受け止められる。どうやら、ユーゴとリーゼの間にスラちゃんがとっさに挟まることで、衝撃を吸収してくれたようだ。
「イテテ……。ごめん、リーゼ。受け止めてくれてありがとう。それにしてもこの突撃してきた感じはもしかして……」
ユーゴは、衝撃を受けた自分のおなかの方を見てみる。そこには、嬉しそうに彼のおなかへ顔をこすりつけている頭に一本の角を持ったうさぎ……角うさぎがいたのだ。
「ぷぅ!」
角うさぎは、ユーゴが自分の方を見ていることに気が付くと一層嬉しそうに鳴き、彼の顔もとまで登ってきたのだ。
「やっぱりお前だったか!」
「ぷぅぅ!」
ユーゴは、両手で角うさぎを抱きかかえると、その身体を思いっきり撫でまわしていく。角うさぎは、時折声をあげながらもとても気持ちよさそうにしているのだ。
「こゃ!」
そんなユーゴたちの姿を見ていたコンは、不満そうな表情を浮かべて彼と角うさぎの間に割って入ると、自慢の尻尾を彼の顔めがけて数回ペチペチと叩きつける。
「わぷっ!? コン?」
「こゃぁ……。こゃーん!」
「えっ? そいつばかり構うなって? 悪かったよコン。お前もたっぷりとモフってやるからな」
ユーゴは、角うさぎの時以上に丁寧に少し時間をかけてコンの身体をモフっていく。コンの不満そうな表情は徐々に消えていくと、とても嬉しそうにされるがままにされている。ユーゴからの愛情を感じたコンは、とても満足気だ。
「ユーゴさん! コンちゃんたちと戯れるのは後にして、先に依頼を受けにいきませんか?」
「いたたた! ごめん、リーゼ。ちょっと力緩めてくれるかな?」
「えっ? わっ、ユーゴさんごめんなさいです!」
リーゼは、いまだにユーゴの身体を抱きとめている手に、無意識的に力が入っていたことに気がつくと、急いでユーゴから離れていく。
「リーゼ、俺の方こそごめん。リリアさんも待っててくれてるだろうし行こうか」
「いえいえ、大丈夫ですよ。はい、行きましょう!」
申し訳なさそうな顔で、リーゼに謝るユーゴに、彼女は笑顔で返す。ユーゴは、そんなリーゼの顔を見て少しホッとしたようである。
ユーゴたちは、改めてもふもふギルドに入っていったのだ。
「ユーゴさん、遅いっすよ!」
「リリアさん、遅くなってごめん」
ユーゴたちが受付まで辿り着くと、きれいな銀色の髪に青い目をした受付嬢……リリアが、少し怒ったような表情で、彼らの方を見ていたのだ。
「まったく、珍しく私が真面目に働いてるんすから、ユーゴさんも私を見習ってほしいっすね!」
「うん。ごめん、そうだね……っていやいや、それだと俺がリリアさんみたいに普段からさぼってるみたいじゃないか!」
「ユーゴさん。その、普段からさぼるなんて、ダメですよ?」
「いやいや、待って。リーゼ、それは俺じゃなくて、リリアさんのことだってば……」
ユーゴが必死に突っ込みを入れていく一方で、リリアとリーゼは、そんなユーゴの姿を見て笑顔を浮かべている。本気でそう思っているわけではなく、ただユーゴをからかっているだけのようだ。
「こゃ……?」
「コン、お前もか……っていつも一緒にいるから知ってるだろ? 普段サボってるのは、リリアさんなのになぁ~」
ユーゴは、肩の上に乗って、彼の方を見ながら首をかしげているコンの姿を見て、がっくしとしたのであった。
「それでリリアさん、俺たちに受けてほしい依頼って?」
「そうっす。実は、今回ユーゴさん達に指名依頼が届いてるんすよ。これが、依頼書になるっすね」
リリアは、ユーゴに依頼書を渡してくる。ユーゴは、それを受け取ると隣にいたリーゼと一緒に依頼書の中身を見ていく。
「えっと、依頼の内容が、白猫の捜索と遊び相手……って、これどういうことだ?」
「捜索ということですから、この子を探してほしいのでしょうね。でも、遊び相手というのがちょっと分からないですね……」
ユーゴたちが依頼書を見ながら、うんうんと頭を悩ませている様子を見て、リリアはいたずらを思いついたような笑顔を浮かべる。
「ふっふっふー。ユーゴさん、相当悩んでるみたいっすね。どうっすか? 聞きたいっすか? ユーゴさんがどうしてもというのであれば、説明してあげなくもないっすよ」
「いやいや、そもそも説明するのは、リリアさんの仕事だからね」
ユーゴは、少し呆れた様子でリリアの方を見る。
「まったく。ユーゴさんは、照れ屋さんっすね~」
しかし、そんなユーゴの様子などお構いなしに、リリアは彼の肩をつついている。これは、ユーゴがどうしてもと言うまでは、このめんどくさい絡みはきっと続くだろう。
「あーもー、わかったよ。リリアさん! どうしても知りたいから教えてよ」
ユーゴは、リリアの両肩に手を置くと、真剣な表情で彼女に顔を近づけていく。
「うっ、それはずるいっすよ……」
ユーゴが聞きとれないほどの小さな声で呟いたリリアの顔は、少し赤くなっている。これは、リリアの自業自得だろう。
そんな二人の様子を見ていたリーゼは、思いっきり二人を引きはがしたのだ。
「そんな状態でしたら依頼をこなす時間がなくなっちゃいますよ? リリアさん、どういうことなのか教えていただけますか?」
「うっ、リーゼさん悪かったっす。この依頼はですね……」
「そこからは、私が説明しようかのぅ。ふぉっ、ふぉっ」
「えっ? もふもふさん!?」
もふもふさんと呼ばれた初老の男性が、ユーゴたちの前に現れたのだ。彼は、世界最高峰のモフリストとして名が知れており、そのモフりテクニックは、どんな凶暴なもふもふでさえ一瞬で大人しくさせてしまうほどなのである。
もふもふさんは、ユーゴたちの前まで来ると、彼の肩に乗っていたコンと角うさぎを撫でると彼らに笑いかけたのだ。
「私が使役している白猫を探してきてほしいんじゃ。あの子の遊び相手として追いかけての。ようはあれじゃよ。あの子を捕まえられたらキミたちの勝ちという遊びじゃな」
「なるほど。そういうことか」
「そうだったんですね。ということは、もしかしてもふもふさんが私たちを指名したんですか?」
ユーゴは納得したという様子の一方で、リーゼはハッと気が付いた様子でもふもふさんの方を見る。
「ふむ。リーゼ嬢の言う通りじゃ。私がユーゴ君達を指名させてもらったんじゃよ。共に相棒となる存在がいる者同士、お互いの相棒と共に手を取り合うことこそが、モフリストにとって大事なことじゃからのう。まぁ、リーゼ嬢は、錬金術士だからちと違うがの」
もふもふさんは、優しいまなざしでユーゴたちの方を見つめる。それはきっと、ユーゴたちの成長を見守っているような心境なのであろう。
ユーゴたちは、もふもふさんの言葉に一つ大きく頷いたのだ。
「あの、もふもふさん。それで、白猫の特徴は何かありますか?」
「ふむ……」
もふもふさんは、ユーゴからの問いかけに、少し考えるようなそぶりを見せた後、ギルドの入口の方を指差したのだ。
「ユーゴ君。あそこを見てみるのじゃ」
ユーゴは、もふもふさんに言われた場所を見てみると、そこには綺麗な白色の毛並みをした白猫がいたのだ。
「白猫?」
「ふぉっ、ふぉっ。あの子こそが依頼の捕まえてほしい白猫じゃよ」
「……えぇー!!」
ユーゴが叫び声をあげると、入口近くにいた白猫は、優雅な動きでギルドの外へと出て行ったのだ。
「見失う前に追いかけなきゃ! もふもふさん。さっそく追いかけてきますね。コン、リーゼ、スラちゃん行こう!」
「こゃーん!」
コンは、ユーゴの肩を飛び出すと彼と共にギルドの外へと飛び出していったのだ。その一方で、リーゼは、もふもふさんの元へと行き、一言二言言葉を交わして、彼から何かを受け取ると急いでユーゴたちの後を追っていったのだ。
もふもふギルドを飛び出したユーゴたちは、街中を走っていく。しかし、一向に白猫の姿は見えてこないようだ。
「くそー、見失ったか。コン、どこにいるか分かるか?」
「こゃ……」
ユーゴの問いかけに、コンは分からないと首を横に振る。ユーゴたちは、完全に白猫を見失ってしまったのだ。
「ユーゴさーん。待ってください」
途方に暮れているユーゴたちの後ろからリーゼとスラちゃんが走ってくる。ユーゴは、そんなリーゼたちの姿を見て今更ながらに、彼女たちを置いてきたことに気が付いたのだ。
「はぁはぁ、やっと追い付きました……」
リーゼは、膝に手をついて息を整えている。その横では、スラちゃんがプルプルと震えているが、もしかしたらリーゼの真似をしているのかもしれない。
「リーゼ、ごめん。置いてきちゃったみたいだな」
「こゃあ」
ユーゴは申し訳なさそうな顔でリーゼに頭を下げる。コンもユーゴと同じようにぺこりと頭を下げたのだ。
「いえいえ、私がもふもふさんに少し用事があって遅れただけですので……。頭をあげてくださいユーゴさん。コンちゃんも大丈夫ですよ!」
「リーゼ、ありがとう!」
「こゃーん!」
コンは、笑顔を見せるリーゼの肩の上に飛び乗ると、彼女の頬をペロペロとなめる。リーゼは、最初こそ驚いた表情を見せていたものの、少し嬉しそうにコンの頭を撫でていたのだ。
リーゼとコンのスキンシップも終わると、ユーゴたちは、改めて現状の確認をしていく。
「俺たちの方で一応追いかけてたんだけど、結構素早い動きで見失ったんだ……。多分だけど、普通に追いかけるだけじゃ厳しいと思う」
「そうだったんですね。それなら、さっそくもふもふさんから頂いた物の出番かもしれません。ユーゴさん、私に任せてくれませんか?」
リーゼは、少し自信がありそうな顔でユーゴの方を見つめる。
「それはいいけど、どうするつもりなの?」
「それはですね、もふもふさんから頂いたあの子の毛と私が調合したこれを使います!」
リーゼは、肩からさげているポーチの中から白猫の毛が入った袋と地図のようなものを取りだしたのだ。
ユーゴは、リーゼが取りだした物を興味深そうに見ている。
「リーゼ、これは?」
「これは、探したい人や物の一部をこの紙にのせて、私が特別に調合したポーションをかけることでそれがどこにいるのか分かるアイテムなんです。ただ、まだこのアイテムは試作品でして、そこに描かれている地図の中にいないと反応しないですし、効果も数分程度で切れてしまうんですよ」
リーゼは、少しだけ不安そうな顔で、ユーゴを見つめる。話しているうちに、ユーゴがどう思うか心配になったようだ。しかし、そんなリーゼの心配とは裏腹に、その話を聞いたユーゴの目はキラキラとし始めた。
「リーゼ! 十分すごいよ。やっぱり、リーゼのアイテムはすごいなぁ~。いつも依頼で助けられてるからこそ良くわかるよ! それじゃあリーゼ、これを使ってあの白猫を捕まえに行こう」
「ユーゴさん……。ありがとうございます! 頑張りましょうね」
リーゼは満面の笑みをユーゴに向けると、さっそくアイテムを使って、白猫の場所を探し始めた。ユーゴたちは、地図に表示された場所を確認すると、白猫の移動に合わせて先回りできるように追いかけ始めたのだ。
リーゼのアイテムを使い、白猫が通るであろう道まで辿り着いたユーゴたちは、見つからないように近くの建物の陰に隠れる。これであとは、白猫が通るのを待つだけになった。
ユーゴたちが隠れ初めて、少し時間が経つと、彼らがいる道に白猫が現れたのだ。白猫は、ゆっくりと優雅に歩いている。正に絶好のチャンスだろう。
「コン。俺が合図したらいけるか?」
ユーゴの言葉にコンはコクッと頷く。
ユーゴは、そんなコンの反応に満足そうに頷いた。
「よし、コン頼んだぞ。……三、二、一、いまだコン! キミに決めた」
「こゃ!」
コンは、ユーゴの合図で隠れていた場所を飛び出すと白猫に向けて一直線に走っていく。
白猫は、そんなコンの姿に気がつくと急いできびすを返して、逃げようとしている。しかし、コンの方がやや早いのか、少しずつ距離は縮まっていく。ついに、出されたコンの手が白猫に届こうかという時、白猫は突然大ジャンプをして、その手をかわしたかと思うと、一目散に反対側へと逃げて行ったのだ。
「くそー、おしい」
「あとちょっとでしたね……」
いまだ陰に隠れていた二人は、悔しそうに白猫が逃げて行った方を見ていた。
「こゃ……」
コンもどこか悔しそうに尻尾をぶんぶんと振っている。
ユーゴたちは、ひとまず隠れていた場所から出てくると、コンの方へと駆け寄っていく。
「コン、惜しかったな。でもあの感じだと次は絶対いけるぞ!」
ユーゴは、コンを抱きかかえるとその頭を優しく撫でていく。
「こゃ!」
コンは尻尾を振ってユーゴに答える。その表情は、まだまだ気合十分のようだ。
「ユーゴさん。次も同じようにいきましょうか」
「うん、そうだね。それと少しだけ思いついたことがあるんだけど、いいかな?」
ユーゴは、リーゼ達に思いついた案を伝えていく。
「確かにそれがいいかもしれませんね。それでは、ユーゴさんの案でいきましょう!」
ユーゴの案を採用することにしたユーゴたちは、作戦内容をしっかりとすり合わせると再び白猫を追いかけ始めたのだ。
「白猫さん、待ってください!」
先ほどとは違う場所で白猫を見つけたリーゼとスラちゃんは、白猫を追いかけて行く。白猫は、リーゼたちの存在に気がつくと走ってリーゼ達とは逆方向に逃げて行ったのだ。
少しの間、白猫とリーゼ達の追いかけっこが続いていく。白猫がそろそろスピードをもう少し上げようかとしたところで、白猫の前にユーゴとコンが現れたのだ。白猫は、慌てて引き返そうとするも後ろからはすぐ近くまでリーゼ達が来ていた。白猫にとっては、挟み打ちという絶体絶命のピンチである。
「さぁ、追いつめたぞ!」
「こゃあ!」
ユーゴは、白猫に向けて宣言すると、コンと共に少しずつ近づいていく。リーゼ達も少しずつ白猫の方に近づいている。
白猫は、どうしたものかと前、後ろと確認していると、彼らがいない方向で一つだけ退路が残されている道があることに気が付いたのだ。白猫は、前と後ろと警戒しながら、退路が残されている道右へと曲がっていったのだ。
「よし。ここまでは計画通りだな。リーゼ、スラちゃん、コン。これで追いつめるぞ!」
「はい。行きましょう!」
ユーゴたちは、白猫が入っていった道へと追いかけていったのだ。
白猫が入っていった道の先は、行き止まりとなっていて周りは、高い外壁が囲っている。
白猫は、そのことに気がつくと道を引き返そうとするもすでにそこには、ユーゴたちの姿があったのだ。
「さぁ、今度こそ追いつめたぞ! リーゼ、後は仕上げを任せた」
「はい。任せてください。スラちゃん行きますよ!」
ユーゴの合図で、リーゼは、少し後ろに下がらせていたスラちゃんに向けて液体が入ったビンを投げつける。そのビンをスラちゃんが受け取ると見る見るうちに巨大化していき、唯一の出口が巨大スラちゃんによって塞がれてしまった。これによって、白猫が仮にユーゴたちを出し抜いたとしても出れなくなってしまったのだ。この瞬間、白猫の敗北が決まったのである。
白猫は、自分が逃げられないことを悟ると、どこか満足したような表情を浮かべてゆっくりとユーゴの方に歩いていくと、一気に彼の頭の上に飛び乗り、そこに落ち着いたのだ。
「よし! これで依頼達成だな。さっそくもふもふギルドまで戻ろうか」
「はい。ユーゴさんお疲れ様です。報告に行きましょう」
ユーゴとリーゼは、お互いの顔を見合わせて笑顔になると、もふもふギルドまで戻っていったのだ。
もふもふギルドまで戻ったユーゴたちは、白猫をもふもふさんに引き渡し、リリアから達成報酬を受け取ると、それぞれの家へと戻っていく。
もふもふたちと触れ合い、もふもふが好きな人と関わり、もふもふと共に生活していく……、これこそが、この世界に来たユーゴの日常であるのだ。
「願わくば、リリアさんやリーゼ、そしてコンと共にこの穏やかな生活が続きますように」
ユーゴは、空を眺めて隣で眠るコンの頭を優しく撫でながらそう思うのであった。