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いい加減にしてくれ、ダンジョン!  作者: 景浦良野
5章
99/112

5-34 強奪

「おそらく、ノームです。この事態の、全ての元凶は」

「ノーム?」

「……あれの性質をご存知でしょうか」


 唐突な問い。


「ご存知ないわよ、記憶がないのだもの。ノームが何かも、よくわからない」


 軽口で返して、ウンディーネは口を押さえた。曽良の調子が移ってしまったらしい、とウンディーネは内省する。

 サラマンダーやシルフ、ノームの存在はなんとなくわかるが、その力まではわからない。

 記憶は断片的で、

 時おり歯痒くもなるが、これまで10以上の迷宮を攻略し、力を取り戻しても一向に記憶が戻る事がない。

 自身の事。そしてファナティアの事もだ。


「ノームは全てを食らいます。自身へ向けられた愛も、他者へ向けられる愛も、全て。シュラは、ノームに食われたのでしょう」

「ノームに食われた……?」

「彼は、もはやウンディーネ様の信徒ではない。彼の本当の目的、それはおそらく――」


 ラティナが最後まで言いきる前に、重々しい音と共に部屋の入り口が開かれ、言葉は中断された。

 助けが来たのかと思い顔を上げたウンディーネは、そこに立つ人物を認め表情を強張らせた。

 全裸にマントのみを纏った変態神官こと、シュラが立っていたのだ。

 ラティナは怯えるようにウンディーネの膝にしがみつく。

 シュラはあくまでもにこやかに、ゆっくりと歩を詰めてくる。


「ウンディーネ様。こちらへおられましたか」

「くっ……あなた、本当にしつこい……!」

「シュラ……」


 眼前に立ったシュラは歪んだ笑顔を浮かべる。

 恰好だけでなく、表情ひとつに至るまで真っ当な人間には思えない。

 ラティナを庇うようにして抱き寄せると、シュラは蔑むような目を向けた。

 仮にも聖女と崇める相手に向ける目ではないだろう。

 ラティナの言うように、これがノームに食われたということなのだろうか。


「あなた、本当は何が目的なの? 私と、ラティナを再契約させるなんて嘘なんでしょう。それに、あなた……」


 シュラの気配は妙だ。

 普通の人間とも、迷宮の生命体とも似つかない気配。

 強いて近しいものを挙げるのであれば……自分達、精霊の気配。

 当初は見分けなど付かなかったが、ラティナの話を聞き、違和感に気づく事ができた。

 何故ならその精霊の気配は、少なくとも自分のものではないものだったのだ。

 出会った場所にその気配が満ちすぎていて、初めて見た時はわからなかったが、その場から離れた今であれば、はっきりと臭う。

 これがおそらく、ノームの気配だ。


「……さて、聖女様に何を吹き込まれたのですかな。『契約の刻』はこれからだというのに、あまり心を乱されると困りますな」

「あなたが欲しいのは私の力じゃない。本当に欲しいのは……彼女の力なんじゃないの? 迷宮の主である、彼女の」


 そう問い掛けた瞬間、シュラの目が険しいものになった。

 ラティナはますます強くしがみついてくる。


「やはり、妙な思い違いをされたようだ。我らが求めるのは常に精霊の力。何の力もない聖女様は、器に過ぎませぬ」

「さて、どうかしら……。腐っても迷宮の主なら、その力を食らうのも当……然……」


 ウンディーネの言葉は続かなかった。

 自らの腹から突き出た、無骨な鉄剣に視線を落とす。

 剣が引き抜かれるも、血は漏れ出ない。代わりに、力のようなものが抜け出ていった。


「あ――」

「器であれば、満たすのも必定よな」


 腹に開いた穴に、シュラの手が突っ込まれる。

 激痛と共に腹の中を弄られる感覚が体中に響き、やがて引き抜かれた手に、光る物が握られていた。

 水晶のような塊が、青い放っていた。


「ほう、これが……。さて、聖女様」


 ウンディーネを掴み、玉座から引きずり下ろしたシュラは、ラティナを抱き上げ玉座へ座らせた。

 震えるラティナの口元に、シュラが結晶を差し出す。


「さあ、聖女様。これを」


 ウンディーネは指先さえ動かせないまま、意識が遠のくのを感じた。


◆◇◆◇


 無限に続くかと思われた道のりも、ようやく終わりが見えたらしい。

 だいぶ遠くに見えていたはずの城が、八階層に上った瞬間、急に現れたのだ。

 さっきまで絵筆を洗った水みたいな色をしていた空は、今度は異様なほど真っ白になっている。

 一見神々しくも思えるが、自分達だけ異空間に迷い込んだ気がしてものすごく不安になる。

 まあ、紛れもない異空間なんだけどな、ダンジョンだし。


「とうとうここまで来たな。なんとか五体満足でいられて何よりだぜ……」

「ええ……」

「でっかいお城っすねー。やっぱ一番上まで行かないといけないんすかね」

「おま……萎える事言うの禁止! でもとりあえず、階段は見つけ次第全力で上ろうな」


 陽花も真琴も、さすがに疲れてるのかうんうんと頷いた。

 ここから先はノンストップで行きたいもんだな。


「うっし! 行くか」


 自分で頬をパンと叩いて気合いを入れ、大きな扉に手を掛けた。


「よっ……ぁ……?」


 急に体中から力が抜け、扉にもたれかかってしまう。

 立とうとしても足に力が入らない。

 なんだ、これ……!?

 腹の中が熱い。何か硬い物を突っ込まれて掻き回されるような気持ち悪さに、堪らず胃の中の物を吐き出してしまった。


「センパイ!?」

「曽良さん!」


 2人が駆け寄って肩を支えてくれる。

 目の前が歪む。何か、大切な物が体の中から抜け出ていくような感覚。

 この急な不調、思い当たる事があるとすれば……。


「ウン、ディー……ネ……!」


 とうとう目を開けているのも難しくなり、俺は意識を手放した。


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